多銃身回転砲人間#2 安らかなる時へ◆2(終)
_装甲飛行船がゆっくりと戦場の上空に降下する。主砲を発射し、地上の防衛設備を次々と破壊しながら突入の準備をする。 細長い空雷艇が2隻、降下準備を進めていた。装甲飛行船に横付けし、突入用の兵士を次々と搬入させる。 ゼシェルとフワンコもその中にいた。 41
2016-07-15 19:27:13_司令官が空雷艇内部に詰め込まれた降下兵たちに電信で告げる。 「覚悟はいいか? 作戦通りに行くぞ。エシエドール革命軍に死を。亡国の亡霊に浄化を!」 「死を! 浄化を!」 降下兵たちは薬物で爆発しそうなほど昂っている。 42
2016-07-15 19:31:46_ゼシェルはひどく落ち着いていた。外から地響きのように響くジャイロの回転音を聞いていた。まるで落下しているような急速降下。 地面にぶつかる寸前で減速し、兵士たちが次々とロープを伝って着地していく。ゼシェルは飛び降り、フワンコの制御する呪文で慣性を殺して着地した。 43
2016-07-15 19:40:03_すぐさまゼシェルは回転砲を放つ。飛行船からの艦砲射撃で態勢を崩していたテロリストたちは、回転砲の火力の前に文字通り粉々になった。まるで牛が低く唸るような射撃音が場を支配する。 ゼシェルは、心ここにあらずだった。 44
2016-07-15 19:46:56(今度はチョコだ) 目の前の惨劇がどこか遠くの出来事のように思える。 (バニラもいいが、チョコも最高だ。チョコフレーバーのアイスを作るんだ) 「ゼシェル」 フワンコが警告した。 「よくない予感がする。危険予知レベル3の事象。注意して」 45
2016-07-15 19:52:20_次の瞬間、ゼシェルの頭が弾けた。 「ゼシェル?」 フワンコは急に不安になる。繋がった神経の先、ゼシェルの感覚が無い。 「あれ、もしかして敵の新兵器って奴? 狙撃されたの? あわわ、飛来物防護のシールドは最強レベルなのに……」 ゼシェルの身体は力なく仰向けに倒れた。 46
2016-07-15 19:56:49「死んじゃったの? どうしよう」 フワンコだけでは回転砲を保持できず、虚空に向かって撃ち続けていた。バタバタと暴れるように跳ねる回転砲。 「困ったなぁ」 敵陣もチャンスと気づいたようだ。味方の兵士は暴発する回転砲を恐れ近寄れない。 47
2016-07-15 20:03:31_敵の司令官だろうか、大声を張り上げるのが聞こえた。 「前進! 迫撃砲用意!」 「困ったなぁ」 飛来物防護の呪文にも苦手なものはある。迫撃砲で大量の砲弾を浴びせられたら、無数の破片を処理できず死ぬしかない。 敵兵が並び、筒に砲弾を装填する。 48
2016-07-15 20:09:25「撃て!」 爆音と共に、放物線を描いて大量の砲弾が殺到するのが見えた。フワンコは無機質な目でそれを見ていた。 「まいったなこりゃ」 そして……何もかもが粉々になってしまった。 49
2016-07-15 20:14:30_博士は飛行船の窓から見下ろしていた。研究員が現れ、回転砲の損害を報告する。 「このたびは……」 「いいよ。どうせ、そろそろ処分するつもりだったから」 彼の机の上にはまとめられた研究成果と、次なる兵器の図面が踊る。 無数の悲劇を内包しながら、計画は進んでいた。 50
2016-07-15 20:18:52【用語解説】 【飛行船の推進】 飛行船は主にジャイロで推進する。ジャイロはフラフープのようなものや、一見プロペラに似たもの、鉄の棒のようなものなど千差万別だが回転運動を行う点は同じである。回転と魔力を利用し、推進力が得られる。揚力のない世界の代替手段で、性能はプロペラほどではない
2016-07-15 20:26:35【次回予告】 時が加速する瞬間を見たことがあるだろうか。それは突然崖から身を投げるように、全てを抱え込んで、何もかもを……。 魔力加速装置を巡る開発者の話です。 次回「ヴォイドアクセラレーター」 実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-07-15 20:33:53