水沼朔太郎【今夜のメルシー・ボク】第一回～第十回

今泉さかい @sakaimaizumi

【今夜のメルシー・ボク】第一回 果たせなかった約束のため繰り返し口で膨らませる紙パック／阿波野巧也 『京大短歌22号』の連作「犬とヨット」からです。「口で膨らま／せる紙パック」の句跨がりで本当に膨らんで（そして萎んで）いくのが良いですね。ポスト永井祐のキーワードはチャーミング？

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【今夜のメルシー・ボク】第二回 遊園地に借りっぱなしの光を返しわたしは遠い額縁になる／平岡直子 『率６号』の連作「ありとあら夜ること」からです。〈私〉を「遊園地」という空間で表現しているのが不思議でおもしろいです。ほかにも「トンネル」「地下室」「映画館」「国」などがモチーフに。

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【今夜のメルシー・ボク】第三回 再演よあなたにこの世は遠いから間違えて生まれた男の子に祝福を／瀬戸夏子 『かわいい海とかわいくない海 end.』からです。「間違えて生まれた」と言われるだけあって「男の子」の「祝福」されてなさがスゴいですよね。これは「呪詛」なんだなと思いました。

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【今夜のメルシー・ボク】第四回 春の原っぱのさようなら臍の緒を切られたみたいにくすぐったい／土岐友浩 『短歌ヴァーサス7号』からです。「春の原っぱのさようなら」がものすごいですよね。めちゃくちゃ軽やかで哀しくておまけに韻律の抜けも良くて。土岐友浩なら間違いなくこの一首です。

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【今夜のメルシー・ボク】第五回 はやく明日にならないかなって、何もないけど。うー、目が　おやすみ／樟鹿織 『京大短歌22号』の連作「バランスアンバランス」からです。「うー、目が」が良いですよね。短歌で「うー」なんてなかなか言えません。３と４を軸にした韻律も癖になっちゃいますね。

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【今夜のメルシー・ボク】第六回 だるい散歩の途中であったギャルたちにとても似合っている秋だった／永井祐 こんばんは。今日は金曜日＆オールスターということでスペシャルバージョンです。掲出歌について少し前に書いたこちらの文章をどうぞ。 note.mu/mizu0826saku

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【今夜のメルシー・ボク】第七回 二の腕に自分でキスマークつける　ばか明日仕事あるって言っただろ的な／あかみ 『かんざし創刊号』から。「ばか…」以降の韻律にまずは気持ちよくなってしまうのだけど、言っていることもなかなかスゴくて人間の生（なま）の感じがとてもよく出ていると思います。

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【今夜のメルシー・ボク】第八回 着古した服に似ている神秘に出会う人よ　スプーンとスプーンとナイフ／瀬戸夏子 第二歌集から。冒頭の「着古した」を読むたびに「ちゃっこした」と読み下してしまうこともあり変に愛着のある一首です。「着古」って「蒙古（もうこ）」に似ていますよね。

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【今夜のメルシー・ボク】第九回 灯台が転がっているそこここにおやすみアジアの男の子たち／平岡直子 『率９号』の連作「視聴率」から。「おやすみアジアの男の子たち」の説得力がものすごいですよね。「おはよう」でも「アフリカ」でも「女の子」でも駄目なんだと思います。アジアの男の子より。

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【今夜のメルシー・ボク】第十回 なにか暗くて顔をあげると昨日まであったのにコンビニがつぶれた／阿波野巧也 『京大短歌21号』の連作「雨が降ったら」からです。場面の移り変わりと韻律の転換とがみごとに一致しているため読み下すたびに〈原体験〉を体験することができます。良い歌ですよね。