_新婚旅行で訪れたのは、湿った苔だらけの井戸の底だった。レジルはタキシード姿にシルクハット、カイゼル髭を生やす若い男。妻のミレウェは白いドレス姿で畳んだ日傘を腕にかけている。 二人は井戸の底の横穴を背を屈めながら進んでいる。なぜか二人の服は汚れ一つない。 1
2016-07-22 19:24:35_井戸の底……いわゆるダンジョンだ。かつて水で満たされていたであろう井戸は、水が枯れて新たな役目を与えられていた。 井戸は魔力の溜まりやすい場所であり、ダンジョンとしてよく利用される。水を求めて深く穿たれた地下空間がそのまま魔力の集積地となる。苔も魔力を浴びて育つ。 2
2016-07-22 19:27:11_あちこちから滴る水、柔らかい濃緑色の苔。レジルとミレウェを先導するのは、腰の曲がった老人だ。彼はロームゥという名で、二人の案内人として雇われていた。 「気を付けてくだせぇ、この井戸は水没した地下遺跡に繋がっているんですさ」 なるほど、壁面の石造りが井戸にしては立派だ。 3
2016-07-22 19:34:12「ふぅむ……なかなか魔力が濃いな。ロームゥさん、やはり化け物がでるのですか?」 レジルの問いにロームゥは険しい顔で告げる。 「化け物の巣ですさ。くれぐれも、軽率な行動は……」 「見てくださいまし、人面サソリですわ!」 パシャパシャとカメラで写真を取るミレウェ。 4
2016-07-22 19:39:00_ミレウェは天井を見上げていた。レジルも天井を見る。そこには大きな亀裂があり、一匹の人面サソリが詰まっていた。 寝起きのようで、本来サソリの針がある尾の先に生えている人面がイラついた表情で3人を見下ろす。 「化け物だァ!」 叫ぶロームゥ。 5
2016-07-22 19:44:19_人面サソリはうめき声と共に魔法を展開しようとしたが、素早くミレウェが日傘の石突で突く! するとそこからドロドロに溶けていき、零れ落ちる液体は空中で蒸発し、人面サソリは跡形もなく消えてしまった。 「さ、流石ですさ」 6
2016-07-22 19:48:54「おお、あそこにいるのはスケルトンではないか!」 「ひイっ!」 ロームゥは天井から通路に視線を戻す。するとレジルの言う通り、通路の向こう側から骸骨戦士が猛スピードで走ってくる! 「カタカタカタッ!」 「ひイっ!」 7
2016-07-22 19:53:49_レジルはやはりカメラでスケルトンを悠長に撮影しているようにしか見えない。しかし、スケルトンの振り回すメイスの動きが次第にゆっくりになり、とうとう立ち止まって、メイスを地面に落としてしまった。そのままバラバラになるスケルトン。 「な、何が……あったのですさ」 8
2016-07-22 19:57:47「意思を制御したのである。僕の得意とする魔法さ」 死霊は妄執で縛られている故、意思を操られれば妄執を解決されて浄化されることもできる。ロームゥは何が何だか分からない様子で、冷や汗を流していた。 「魔法使いは恐ろしいですさ」 9
2016-07-22 20:02:31「僕たちの目指す先にあるのは、こんな魔法どころではない、強力な奇跡……そうであるな」 「そうですさ、『願いの泉』はすぐ先ですさ」 願いの泉……それを目指し、3人は背を屈めて先へと進んでいった。 10
2016-07-22 20:06:45【用語解説】 【スケルトン】 骸骨の戦士。ただの骨と侮るなかれ、強力なタフさを持ち、完全に粉みじんに破壊されるまで戦い続ける。関節は磁力の様にくっついているので、骨が折れても新たな関節になるだけなのだ。死霊の一種なので、カウンセリングで悩みを開放させれば浄化してくれる
2016-07-22 20:10:10