「旦那さんは願いの泉で何を願うんですさ?」 ロームゥはびくびく怯えながら暗い遺跡を歩いていく。井戸の底から繋がった地下遺跡は、ひどく冷え込んでいて吐く息が白くなる。 彼の後ろにレジルとミレウェが続いた。 11
2016-07-23 19:47:02「願い……願いか」 レジルは興味もなさげに言う。 「これから決めますわ」 ミレウェは能天気にコロコロと笑った。ロームゥは卑屈に笑うと、遺跡の扉を開いて二人をさらに深層へと招く。足元を蛇のような長虫が素早く泳いでいった。 12
2016-07-23 19:51:14_願いの泉。それは名の示す通り願いを叶える泉である。高名な魔法使いの死後も機能する魔法陣があり、願いの泉もまたそのたぐいだった。 すなわち、「願ったことが叶う」というルールが適用される魔法陣である。 13
2016-07-23 19:55:47「気を付けて下せえ、わしらを狙うのは化け物だけじゃありませんですさ」 「ほう、化け物と区別するということは……」 「化け物より恐ろしい、不死の怪物ですさ」 ロームゥはヒヒヒと笑い、鍵で閉じられた扉を開き、進む。 14
2016-07-23 19:59:55「いやですわ。不死ですって。きっと魔法も通用しないんでしょう」 「ミレウェ、案ずることはないさ。相手が不死だろうが、逃げるが勝ちさ」 「そのときは置いて行かないでくだせぇ……相手は吸血鬼ですさ。勝ち目はありませんですさ」 そう言って腕をまくる。 15
2016-07-23 20:05:11_そこには深い傷が刻まれていた。老人のしわくちゃの肌に溶け込んでいる傷。だいぶ古いが、かなりの大怪我だったことが分かる。 「その吸血鬼にやられたんですさ。危うく……左腕を持っていかれるところでしたさ」 「恐ろしい……」 16
2016-07-23 20:09:41「注意してくだせぇ、あいつも泉を狙っているのですさ。わしらの後をつけている……そして、泉の願いを横取りしようとしているのですさ」 そういってロームゥはちらりと来た道を振り返る。レジルとミレウェも振り返る。通路は魔力の暗い霧に覆われている。 17
2016-07-23 20:16:12「見てくだせぇ……通路の奥、奴が潜んでいるのが分かりますかい? 背を屈めた、背の高い男の姿が……」 ロームゥは震える腕で闇の向こうを指さす。確かに、暗がりの向こうに立ってこちらをじっと見ている男がいる。 18
2016-07-23 20:22:10「襲ってこないんですの?」 ミレウェの心細い声。ロームゥは再び二人を連れて歩き出す。 「奴は不死だけんども、勝算があるわけではないみたいですさ。じっとこちらを追って、チャンスを窺っているのですさ。追えば逃げる、逃げれば追う。だから……」 声を落とすロームゥ。 19
2016-07-23 20:29:23「罠に嵌めるんですさ」 彼の目が油のように光った。光源の魔法が3人を照らす。地下水に濡れた遺跡の壁面がてらてらと光る。 「そろそろですさ。わしに任せてくだせぇ」 20
2016-07-23 20:36:01【用語解説】 【不死】 人間には寿命があり、種族ごとに異なるが大体50歳から60歳まで生きれば上等である。一部の魔法使いは魔法によって不死性を手に入れ、永遠の時を生きる。原理的には自分の周囲に常に魔法陣を展開し、「死なない」というルールを設定するのが一般的である
2016-07-23 20:44:39