ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ 【7:ポラライズド】 #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

玉座の間は宇宙に対し開かれた。キーラー・ヘヴィサイド盆地の断崖に接する巨大な広間、その奥側の壁は五重のシャッターであり、アルゴスによる世界再定義の3段階目を経由した今、それらは全て開放された。真空と宮殿内の清浄な空気を隔てるのは水晶めいて美しいダイヤモンド硬度の月ガラスだ。

2016-07-28 22:39:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ターン……。迎え入れるように「天下」の宇宙フスマが上下左右に開いたまさにその瞬間、ニンジャスレイヤーは再定義第3段階を肌で感じ取った。目眩に似ていた。致命的な隙になりえたやもしれぬ。だが恐らくその瞬間に平然と振舞うことのできた者などいなかったのではなかろうか。

2016-07-28 22:46:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……アイエエエ……

2016-07-28 22:48:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の鼓膜に渦巻き、ニューロンを侵食にかかったのは、声なき声……ニンジャによって虐げられ、顧みられることなく屍を野にさらしたモータル達の怨嗟の声であった。彼はギンカクを間近に感じた。それは無限の色彩を放つキンカク・テンプルの光を受けていよいよ銀一色の輝きに染まった立方体である。

2016-07-28 22:55:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギンカクは地球・日本・ネオサイタマ・マルノウチ・マルノウチ・スゴイタカイ・ビル地下深くに座標を置く。ニンジャスレイヤーのニューロンに、ギンカクを抱く地下空間が、スゴイタカイ・ビルが、石碑前広場が、バリケードが、人々の争いが、ニンジャの争いが、市街の光景が、カスミガセキが去来した。

2016-07-28 23:00:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かつてのネオサイタマは失われた。既にわかっていた筈の事だ。しかしこの瞬間、不意に彼は、あらためて、ニューロンの深奥で、すとんとそれを理解した。彼の視線の真っ直ぐ先に、それを為した者が背を向け、佇んでいた。赤黒い血の涙は瞬時に火と化して煮え、蒸発し、彼が背に負う赤黒い炎に同化した。

2016-07-28 23:07:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

白くゆったりとした衣を身にまとう彫像めいた男は悠然と振り返り、ニンジャスレイヤーの凝視を真っ向から受ける。黒く滑らかで美しく巨大な広間はこれ自体が一個の宇宙のようだ。最奥には銀河めいてUNIX光を明滅させる正体不明の複合デッキと、流線型の無機質肉体を持ったニンジャの姿。

2016-07-28 23:15:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン」鷲の王はアイサツを行った。「アガメムノンです」「ドーモ。アガメムノン=サン」死神はアイサツを返した。「ニンジャスレイヤーです」互いにオジギした二者は静かに頭を戻した。スリケンの投擲もアンブッシュも為されなかった。彼らはただお互いを見据えていた。

2016-07-28 23:19:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オヌシを殺しに来た」死神は蹂躙者を瞬き一つせずに凝視し、言い放った。蹂躙者の眉が不快そうに微かに動いた。「遺憾だ。ここはもっとも真実に近い地。君に侵犯の権利は無い」彼の肩越し、最奥では、今も複合UNIXが再定義プロセスの途上。身体を不可逆にうずめたキルナインの身体も確認できる。

2016-07-28 23:27:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キルナインは幸福である。彼はいよいよもって神聖にして単一の存在に抱かれようとしている。彼に……複合デッキに手をかざす無機物のニンジャも幸福である。シーカーはアルゴスの指に……物理肉体の礎になることができたのだから。だがニンジャスレイヤーはアガメムノンを凝視する。蹂躙者を。

2016-07-28 23:34:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「復讐者の残滓よ。今の君はこの世界に必要とされない存在だ」アガメムノンは嘆いた。「私は、復讐に狂い、地べたを這いずって苦悩する君をこそ応援し、楽しんですらいたが。ラオモト・カンを殺し、ロード・オブ・ザイバツを滅ぼし、なおのさばる君は、私のささやかで無害な娯楽としては不完全だ」

2016-07-28 23:42:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはアガメムノンを凝視した。アガメムノンを凝視した。アガメムノンを凝視した。アガメムノンは両手に青白い雷光を走らせた。「狂人らしく、ただニンジャを殺し、狂い、嘆いてのたうっておれば、私に討たれる事も無かったであろうにな」ニンジャスレイヤーはアガメムノンを凝視した!

2016-07-28 23:49:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もはや君は生きているべきではないのだ、フジキド・ケンジ君。死にたまえ。我が世界は君という存在を許容しない。実際、私はこれまで君という不純物に幾度も煮え湯を飲まされてきた。君の筋違いのイクサによって」「……ここへ至っても己自身はどこまでも傍観者の体か」ニンジャスレイヤーは言った。

2016-07-28 23:54:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガメムノンの言葉が止まった。彼は死神の言葉を理解しようと努めているようだった。だが苦笑めいてアルカイックな笑みの口角が微かに上がった。「つまり?」「私はオヌシをこそ殺す為に、ここまで来た」死神の拳がミシミシと音を立て、その目は怒りと憎悪に赤かった。「これは当事者同士のイクサだ」

2016-07-29 00:00:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「当事者。なるほど。確かに君はこうして月まで私を追ってきた。その執念には実際敬服もしよう」アガメムノンの答えはそれだけだった。地べたを這いずる虫の思考を、イーグルが理解する事はできない。ニンジャスレイヤーは蹂躙者を見据えたまま、微かに腰を落とした。最後のイクサの火蓋は切られた。

2016-07-29 00:07:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」アガメムノンは両手をひろげた。彼の身体は稲妻をまとって数メートル宙に浮かび上がり、上下左右に雷光が迸った。KABOOOM!神の雷、デン・スリケンがニンジャスレイヤーを捉えた。……KABOOOOM!死神の斜め後方の壁が丸く融解した。死神は無傷。ヌンチャクを構え。

2016-07-29 00:10:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウランガ……ニンジャスレイヤーはヌンチャクの一閃を以って、致命的な雷のスリケンを弾き、逸らした。デン・スリケンに防御や回避は役に立たぬ。稲妻は対象のもとに落ち、電気エネルギーは対象の身体をかけめぐり、内外を焼き焦がしてしまう。ゆえにニンジャスレイヤーはヌンチャクで逸らしたのだ。

2016-07-29 00:18:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方、アガメムノンにとって、このデン・スリケンは、命を賭して彼とニンジャスレイヤーのカラテ接触を阻もうとした二人のハタモトがもたらした最後の情報の裏付けを取るための行動だった。残念ながら彼らは死神に敗れ、カラテの接触が不可避のものとなったが、そのイクサは無駄ではなかった。

2016-07-29 00:22:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「成る程」アガメムノンが呟いた時、既に彼はメガトリイ複合UNIXシステムのある最奥に移動していた。彼が一瞬前まで居た地点で稲妻の花弁が爆ぜた。それらはそれぞれに放電を繰り返しながら、じわじわとニンジャスレイヤーを追尾する!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続で側転した。

2016-07-29 00:26:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

放電する光の塊は計八つ。じわじわと緩慢な速度でニンジャスレイヤーを封殺にかかる。それらは、おお、ナムサン……それぞれが稲妻でできたアガメムノンの似姿だ。恐らく彼が対ニンジャにこのデン・ブンシンを仕掛けた事はかつて無かった。ニンジャスレイヤーは側転を繰り返す。ブンシンは追い詰める。

2016-07-29 00:33:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それらは熱エネルギーによって敵を融解殺するべく、それそれが最適な包囲軌道をとって退路を断ちにかかる。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはヌンチャクを激しく振るいながらキリモミ回転跳躍を行う。跳躍地点で白い光が爆ぜた。着地した彼のもとへ残る五体のブンシンが迫る。

2016-07-29 00:39:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはさらに一度バックフリップした。着地際に彼は豆粒めいて身を縮め、解き放つ勢いを乗せたヌンチャクを振るった。KABOOOOM!彼の斜め後方、逸らされたデン・スリケンが爆発した。アブナイ!「イイイイヤアアーッ!」彼はタツマキ・ヌンチャクで再び跳ぶ!

2016-07-29 00:40:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ZMZMZMZM!白い閃光爆発をほんの僅か後ろに引き連れるようにして、ニンジャスレイヤーは反対の壁側へ着地した。「イヤーッ!」彼はさらにスリケンを投擲し、一体残っていたデン・ブンシンを爆発四散せしめた。その時点で既にアガメムノンやアルゴスUNIXは遮られていた。白い光の壁に。

2016-07-29 00:45:28