イミルアの心臓#1 遺失物の館◆2(2016加筆修正版)
「えっ、じゃあ遺失物の館は……」 「当然閉鎖されているぞ。近寄ることはお勧めできないし……何よりバリケードが築かれている」 「なんだって!」 不意に第3者の声が聞こえた。振り向くと、路地裏の入口に青年が立っていた。痩せた犬が驚いて走り去る。 11
2016-07-29 21:14:56_旅人なのだろうか、青年はボロボロのマントを着ていて姿は少しみすぼらしい。頭には色あせた灰色のターバンを巻いている。 「そんな、嘘でしょう。僕は館に行くためにここまで来たのに……」 青年は男に歩み寄る。その声は震えていた。 12
2016-07-29 21:19:17「悪いことは言わん、市長は本気なんだ。殺されちまうぞ……忠告はしたからな」 男はそう言って路地裏の奥に消えていった。何が起こったかは分からないが、これは本当のことだろう。フィルは青年に声をかける。 「あなたも観光客なのですか? 参りましたね」 青年は黙って頷いた。 13
2016-07-29 21:23:52_3人は挨拶を交わした。この青年はカラールという名で、遺失物の館を訪れるため長い旅をしてきたのだという。彼には大切な失くした物があったらしい。 「僕は諦めない……どんな手を使ってでも取り戻します」 そう言ってカラールは去っていった。助けはいらないと言い残して。 14
2016-07-29 21:27:54「僕たちはどうしようかね」 「命をかけることも無いし、まぁ今回は残念だけど諦めようか」 「不発に終わるのも観光だね」 フィルとレッドはとりあえず近くにある宿に泊まることにした。もうすぐ日没だ。ノープランで街をぶらつく。蝙蝠が素早く頭上を旋回した。 15
2016-07-29 21:33:21_商店街を抜け、大通りへ。二人は近くに小さな宿を見つけた。異様なほど活気が無い。観光客が来ないのだから当然だろう。 「あのう、すみませーん」 誰もいないフロントでレッドは声を上げる。返事は無い。代わりにネズミが天井裏で走る足音が聞こえた。 16
2016-07-29 21:38:31「潰れちゃったのかな」 「客いないもんね……」 彼らが真っ暗なフロントで宿の従業員が来るのを待っていると、ズシンズシンと大きな音がした。 「熊でもあばれているんででしょうか……ん?」 フィルは宿の天井にある何かに気付く。 17
2016-07-29 21:43:58「レッド、見てください、あの天井」 天井の板の隙間に、節穴のようなものが一つ開いていた。レッドがそれをよく見てみると……レンズのようなものが覗いていることがわかる。 「何かのセンサーかな? なんでこんなところに」 18
2016-07-29 21:47:20「客が来るのを監視しているんでしょうか。でも従業員が来ないってことは……」 地響きはだんだん大きくなっていき、何かが宿の入口に大きな影を作る。フィルとレッドはゆっくりと振り返った。 「ようこそ観光客の皆さま……市長です。地獄へのチェックインがまだのようですな!」 19
2016-07-29 21:54:32_宿の外には蒸気を噴き出す機械の巨人が立っていた。巨人は真鍮の部品がむき出しになっていて首は無く、首の代わりに鳥籠のようなものがあった。鳥籠の中でレバーを操作しているのは、黒ひげにスーツの男だ。 「随分と大きな……従業員さんだこと」 レッドは見上げて、そうつぶやいた。 20
2016-07-29 21:58:48【用語解説】 【センサー】 探知の呪文は術者から遠く離れると効果を失うが、電線やレンズなどによってその知覚範囲を延長させることが可能である。これは望遠鏡によって遠くを見れることと似ている。センサーのみで効果を発揮することはできず、魔法を使う術者かエンジン設備が不可欠である
2016-07-29 22:07:12