イミルアの心臓#1 遺失物の館◆3(2016加筆修正版)
_彼が市長だというのか。纏うスーツは確かに高級そうだ。宿の玄関を塞ぐ巨体。フィフィフィと機械の駆動音。 「あのー、僕たち帰ろうと思ってるんですけど」 「超特急で送ってやるよ、魂の帰る場所にな」 市長がレバーを勢いよく引く。巨人は唸りを上げて両手を振り上げた! 21
2016-07-30 19:39:20_両手を振り下ろす! 大きな音を立てて入り口が粉砕され、2階建の宿は崩れる。巨体から蒸気が噴き出し、辺りを白い霧で包んだ。 市長は巨人の足元を見下ろす。そこに滑り込んで難を逃れた二人と目が合った。 「超特急の切符持ってないんでゆっくり時間をかけて徒歩で行きます!」 22
2016-07-30 19:45:22_市長はレバーを引き足で踏みつぶそうとする! 「忘れ物を取りに来たんだろう。させんからな!」 フィルとレッドは足を潜り抜け脱出し、通りを駆ける。 「手荒い歓迎です。大人気ですね」 「スターになったみたい♪」 真っすぐ逃げると、ガイドブックで見た景色があった。 23
2016-07-30 19:50:34_遺失物の館は大通りの突当たりにあった。増改築を繰り返したつぎはぎの巨大な建築物。アンシンメトリーのシルエットは枯れ木のようだ。たしかに鉄条網と鉄板のバリケードが築かれ完全に封鎖されている。 「ありゃ、行き止まりか」 ズシズシと背後から巨人の足音が聞こえた。 24
2016-07-30 19:55:28「終点ですよ、お客様。お忘れ物無きよう……」 フィルとレッドはバリケードの前に追い詰められた。目の前を塞ぐ機械仕掛けの巨人。沈む太陽。籠の中で市長が狂ったような笑みを見せる。 レッドは牙をむいて笑い返した。 「生憎俺らの旅は乗り継ぎ先が待ってるんだ」 25
2016-07-30 20:00:28_市長は再びレバーを勢いよく引く! 巨人は両手を振り上げ、今度こそ二人を巨大な腕で押しつぶすかに見えた。 一瞬の隙をついて、フィルは緑のマフラーをほどき投げつける! 同時にレッドは高くジャンプし舞い上がる! 蝶の様に華麗な動きに市長は目を剥いた。 「何ッ!!」 26
2016-07-30 20:06:19「それ、いただきますよ!」 フィルの投げた緑のマフラーは鳥籠の隙間から操縦室に入りレバーに絡みつく! そしてそのままそれを引いた! 両手を振り上げたまま誤作動で足をじたばたさせバランスを崩す巨人。 「おりゃっ」 飛び上がったレッドが鳥籠の上に足を振り下ろす! 27
2016-07-30 20:14:26_激しい衝突音! フィルは緑のマフラーを手に戻しその場を離れる。巨人はそのまま倒れ、大きな音を立ててバリケードを崩壊させた。 轟音の後にやってきたのは静寂だった。市長は落下の衝撃で気絶しているようだ。巨人は完全に壊れており、蒸気があちこちから噴出している。 28
2016-07-30 20:18:23_レッドはひしゃげた鳥籠の上に涼しい顔で立つ。 「おーい、フィル。大丈夫か?」 「無茶しましたね」 フィルは離れた所から駆け寄った。緑のマフラーは再び首に巻かれている。破壊されたバリケード。これなら通れそうだ。日は沈み、完全に夜になっていた。 「派手にやったな」 29
2016-07-30 20:26:32「邪魔されると本気になるタチでね。フィルもそうだろう」 「まあね」 巨人の残骸を飛び越え、二人は館の敷地内に入る。 「せっかく道が開かれたしな、観光を始めようか」 館は、暗い闇の中静かに久しぶりの客を歓迎しているようだった。 30
2016-07-30 20:32:14【用語解説】 【鉄条網】 棘のある鉄線。重飛来物防護の呪文によって大砲で陣地を破壊するのが困難となる戦争の中、呪文の抜け道である徒歩での侵入を止めるために多用される。敵兵も飛来物防護の呪文で銃弾を防ぎ鉄条網を処理しようとするが、防御側はそれを超える銃弾の雨を用意できるのである
2016-07-30 20:54:46