その魔法を空に向かって放て#1 学び舎の春◆3
_魔法の行使と痙攣の因果関係は明白だった。3度魔法を使い、3度保健室のベッドで目覚めた。 「もうやめたまえ、魔界の律が君に魔法を使わせまいとしている」 保険医の忠告も、ルアニトルに耳には入らない。 「どうして……僕ばっかり……」 頭を抱える。 21
2016-08-13 17:19:53_魔法の副作用……帝都の魔界は、異常な魔法の行使に対して厳しい。魔法は容易く犯罪に転用できるからだ。そのため、魔界は自動的に魔法の行使に対して善か悪かの判定を行い、悪と認定すればそれなりのペナルティを与える。軽い頭痛もあれば、最悪全身が塩の塊になって死ぬこともある。 22
2016-08-13 17:25:48_もちろんそれを抜ける方法はいくつかある。 「魔法陣で新たなルールを設定しなければ……」 痙攣を起こしながらも魔法陣を展開できれば、魔法陣のルール上書きによって痙攣したまま意識を保つことも可能である。ただ、それも万能ではない。ルールを設定する数が問題だ。 23
2016-08-13 17:30:21「君、痙攣して魔法陣を展開したまま授業を受ける気かね? 正直、休学した方が早いと思うが……」 保険医の忠告が痛いほど突き刺さる。魔法陣はルールが増えるほど大きく感情の力を消耗する。痙攣を乗り越えるだけで一つのルールを使う。その状態で魔法を使うのは、並大抵のことではない。 24
2016-08-13 21:37:19_実際、それからの学校生活は苦痛の一言だった。一日の終わり、授業が終わって家に帰ると全身が疲労にまみれ、勉強などできる状態ではない。魔法の行使によって腹が減るのは万人に共通するが、人より多く魔法使うルアニトルは常に飢餓状態だった。頬はこけ、顔色は蒼白になっていた。 25
2016-08-13 21:41:35_授業さえもまともに受けられない。 「ルアニトル、この卵を成長させて雛に変えて見せよ」 「……」 脂汗を流し、魔法陣のルールを拡張して成長の呪文をセットする。だがその速度も絶望的に遅く、精度は最悪だった。 卵を割って現れたのは未熟な雛。 26
2016-08-13 21:46:39「悪いが君を指名すると授業時間が伸びてかなわんな」 突き放したような教師の声。ルアニトルは着席し、俯いた。学友たちの白い目。この学校は次世代の支配者層を担う進学校だ。こんな劣等生は足手まといだということだろう。ルアニトルはそれを痛いほど思い知らされた。 27
2016-08-13 21:51:48_やがてたまの遊びの誘いも無くなった。話しかけると面倒そうな顔。一人で家に帰る途中、疲れが限界に達し道端で壁に寄りかかった。目の前を猛スピードで蒸気自動車が駆け抜けていく。 (友人も才能も、いまの僕にはぜいたく品なんだ……) 唇をかむ。瞼が引きつる。 28
2016-08-13 21:57:03「苦しい……誰も僕を必要としていない。なのに……一体僕は誰のために魔法を使えばいいんだ」 膝はガクガクと震え、今にも地面に座り込みそうだった。ただ、最後に残った彼の怒りとやるせなさが彼をそうさせなかった。そのときである。 29
2016-08-13 22:01:30_スッと目の前に現れた背の高い姿。顔を上げるルアニトル。そこに立っていたのは……オリエンテーションの教室で後ろにいた見物人。山羊のような顎鬚を垂らした……黒いスーツの男だった。 30
2016-08-13 22:05:33【用語解説】 【山羊】 有角四足獣の一種であり、遊牧される姿が灰土地域の東西でよく見られる。生贄としても有用で、神は山羊や羊の血肉を好む。ある地方では山羊のミルクを捧げる風習があり、神像にミルクを振りかける。振りかけられた神はミルク臭い格好で神々の会議に出席するのである
2016-08-13 22:11:39