ポピー【2016加筆修正版】◆1

滅びた街の生き残り少女が成長し、再び街の面影を求める。生き別れになった姉の思い出を探し、少女は装甲馬車に揺られ、荒野を見つめる。その先には――。 全30ツイート予定 次↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_ポピー【2016加筆修正版】◆1

2016-08-18 20:03:11
減衰世界 @decay_world

_5年前のことだ。ミジエンの街は大火に包まれ、街のほとんどが焼失した。交易拠点として栄えたミジエンは一夜にして廃墟となり、街は放棄され、混乱の中で人々はばらばらになる。そんな中一人の少女が、姉と離れ離れになってしまった。 「そして、5年が過ぎたってわけです」 1

2016-08-18 20:06:31
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_馬車が砂埃を巻き上げて荒野を行く。少女は5年の歳月を経て大人になった。彼女の名はアンエリ。 「ミジエン跡に行くのは、辛いな……」  仲間の行商人が気を使いつつ話を繋ぐ。アンエリは笑って返した。 「いいの。話すたびに楽になるから」  馬車が揺れ、アンエリもまたゆらゆら。 2

2016-08-18 20:12:43
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「姉は優秀だったの。女神さまのお眼鏡にかなって祝福を受けるはずだった……自慢の姉なの」 「じゃあ、跡地についたら花を捧げようぜ。野草を探してさ、花を集めるんだ」  御者が振り向いて声をかける。馬車の中のアンエリたち商人は笑顔になる。 「ありがとう」 3

2016-08-18 20:17:52
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_彼らは街から街へと交易品を売って暮らしていた。ある交易の仕事で彼らは北へと向かう途中。  取引先の北の街へ行くためにミジエンの街跡でキャンプを張ることにした。井戸で水を補給でき、居座った商人が高値で補給物資を売ってくれやがる。そして自警団もいるらしい。断片的に伝わる情報。 4

2016-08-18 20:22:04
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_5年もたてば、廃墟からでも人々はたくましく生きていく。風の噂で聞くミジエンの復興はアンエリの楽しみだった。  故郷へと戻るチャンス。アンエリはどこか遠くを見ていた。素直には喜べない。悲劇の記憶は日々強くなる。けれども、抑えきれない胸の鼓動もまた事実。 5

2016-08-18 20:27:46
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_ミジエンでの思い出は、すべてあの大火の悲劇で上塗られている。人々の悲鳴、怒号、焼け焦げる匂い、赤、赤、赤。  それを打ち砕いたのは風の噂だった。ミジエンの新しい名物、心躍る催し物。気のいい住人達。だから、アンエリは新しい友人を迎えるような気がしてならないのだ。 6

2016-08-18 20:32:38
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_行商隊は3台の貨物馬車と1台の装甲馬車、護衛の傭兵騎兵12騎で構成されていた。照り付ける日差しが彼らを照らす。ありふれた中規模の隊商だろう。赤皮二足獣の馬が「ゴブ、ゴブ」と詰まったようないななきを上げる。  よく晴れた日だった。 7

2016-08-18 20:40:01
減衰世界 @decay_world

_貨物馬車には御者と荷物管理の最低限の人員が割り振られ、御者を除く商人はすべて装甲馬車に乗っている。  アンエリは小さな分厚いガラスの向こうの風景を眺めていた。彼らのいる灰土地域はその名の通り灰色の火山灰で覆われた不毛の土地だ。時折枯れて象牙色をした草が見える。 8

2016-08-18 20:45:25
減衰世界 @decay_world

_行商人のトップである商長が副長と何か喋っていたが、アンエリの耳には入らなかった。ミジエン跡まではもうすぐだ。  アンエリは突然いなくなった姉のことを感じた。それは如何なる脳内の化学反応であったろうか。岩陰に、窪みに、枯れ木の向こうに姉を探す。いるはずもないのに。 9

2016-08-18 20:50:44
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_大火の後は姉のことを考える余裕がなかった。心の中でそれを詫びる。一筋の涙がこぼれた。  姉は女神の寵愛を受けたはずだった。なのにどうして死ななければならないのか。これは生贄だったのか。  そのとき、荒野の途中で装甲馬車が止まる。赤皮二足獣の怯える声が響いていた。 10

2016-08-18 20:55:49
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_ポピー【2016加筆修正版】 ◆1終わり ◆2へつづく

2016-08-18 20:56:28
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【用語解説】 【赤皮二足獣】 赤皮獣の近縁種で、軽快に2足で歩くタイプ。前脚は完全に退化し消失している。家畜化されたというよりは、乗用・労働用の家畜としてデザインされた生き物で、古代エシエドール帝国によって生み出された。草食性で、繁殖は胎生。春と秋に子供を産む。食用には適さない

2016-08-18 21:01:25