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love_yamabato
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hikari♡∞ムダに長いお話 ♡
@love_yamabato
《1分18秒》side-A 1 水替えと水揚げを終えてシャッターを開けると、雲の切れ間から顔を出した太陽と目があった。 9時42分。 昨日の雨で早朝まで濡れてたアスファルトはようやく乾いて...。 これなら、来る、かも。 や、来るはず...。 ちゃうな...。
2016-06-27 22:02:15
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 2 来てください、お願いします。 願掛けしてたら、はるか遠くからにぎやかな声が...。 聞こえてきたらええなぁ...。 ...え？ あれ、あかん、ほんもんやん！ うそ！？どうしよう！
2016-06-27 22:02:32
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 3 店ん中からほうきを持ち出して、焦った拍子にゼラニウムの鉢植えを倒してしまって...。 「みんな、せーのでごあいさつ、できるかなー？」 はあい。 かわいらしい声で口々に子どもたちが言って、俺は慌てて背筋を伸ばした。
2016-06-27 22:02:48
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 4 せえの！ 「おはなやさん、おはようございまぁす！」 「...おはよう、ございます」 俺が言うと、子どもたちは満足そうに手を振って、店のすぐ前にある交差点の歩道に整列する。 ふたりずつ手をつないだ列の、いちばん後ろ...。
2016-06-27 22:03:01
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 5 赤いギンガムチェックのエプロン。 長い髪を耳の下でふたつに結んでる。 「おはようございます、雨、あがりましたね！」 ...そう、雨上がりの太陽みたい。 今の俺にとって、彼女はまさしくそんな...。 「...そう、ですね...」
2016-06-27 22:03:14
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 6 そんなしょーもない返ししかできん俺にも、太陽は平等に日差しを注いでくれる。 「きーちゃんせんせぇ、きょうおにね」 「えー？ちゃんとじゃんけんしようよぉ」 「だめー」 彼女と子どもは目を合わせて笑う。
2016-06-27 22:03:25
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 7 そして俺の心臓は、カンタンに止まりそうになる。 「あ、失礼します」 交差点の信号が変わって...。 あっという間に彼女は行ってしまった。 ...今日も...。 かわいかったなぁ......。
2016-06-27 22:03:39
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 8 きいちゃんって、名前なんかなあ...。 苗字...の可能性もあるか...。 「ねえ、もうやってる？」 客のおばちゃんに言われてハッとする。 「あ、すんません、あと５分...」 10時からって書いてあるじゃない！
2016-06-27 22:03:59
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 9 おばちゃんがぶつくさ言い始めて、ぺこぺこしながら鉢植えを並べて...。 ほんま、俺って何やっても上手いこといかんねんなぁ...。 やから、ええねん、別に。 見てるだけで、たまにあいさつするだけで。 それだけで。
2016-06-27 22:04:16
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@love_yamabato
《1分18秒》side-B 1 「なんや、今日お前か」 公園で子どもたちといっぱい遊んで出てきたら、交番の前に信ちゃんがいた。 「おまわりさん、さよーならぁ」 口々に言う子どもたちにひとりずつ手を振って、最後に私がいることに気づいたみたい。
2016-06-28 23:01:00
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《1分18秒》side-B 2 「すいませんねぇ、私で」 「お前、こないだ誕生日やったやろ？なんか欲しいもんあったらゆえよ」 こないだ...ってもう一か月過ぎてるんだけど。 「えらいもんやで、朝っぱらからカンカンよーやるわ」
2016-06-28 23:01:11
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@love_yamabato
《1分18秒》side-B 3 しかめっつらの信ちゃんが見上げた先には、建設中の高層ビル。 オフィス街の谷間みたいなこの公園のそばに、また大きなビルが建つ。 噂じゃ、映画館とかホテルとか、高級なレストランとか、そんなのがたくさん入る、東京の新しいランドマーク？になるらしい。
2016-06-28 23:01:24
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《1分18秒》side-B 4 もちろん、完成は何年か先だけど。 「嫌やわぁ、あんなんできたら忙しなるやんけ」 信ちゃんは幼なじみ...っていうか、お兄ちゃんの友達。 上京して以来、なんだかんだ気にかけてくれる、私にとってはほんとのお兄ちゃんよりお兄ちゃんみたいな...。
2016-06-28 23:01:34
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@love_yamabato
《1分18秒》side-B 5 「あー、かなんわ、俺うるさいの苦手やねん」 信ちゃんは誰よりもうるさい声で言って、あと何年やるつもりやろってぼやいた。 あと何年...。 先のことを考えると、少し背筋がゾクッとする。 来年、再来年、私、何してるんだろう。
2016-06-28 23:01:47
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@love_yamabato
《1分18秒》side-B 6 もちろんこの仕事はやめるつもりなんてさらさらない、けど...。 結婚とか、子供とか？ ううん、それ以前の話。 誰か...。 心の底から好きだなーって思えるひとに出会えてるのかなぁ。 なんて。
2016-06-28 23:01:56
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《1分18秒》side-B 7 信号が変わった。 「プレゼント、やすべえあつもり大盛りで！」 信ちゃんと無駄話してる場合じゃない。 子どもたちと車に目を光らせて、片側４車線の大きな横断歩道を歩き出した。 「ほんっま色気ないわぁ...」 後ろでぼやきが聞こえたけど。
2016-06-28 23:02:07
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《1分18秒》side-B 8 「先輩、今日、お願いしますね？」 無事に渡り終わって、子どもの数を数え終わったとき、３年後輩の子に小声で言われた。 そうだぁ...。 今日、合コン来てって言われてたんだった...。 「商社ですよー、商社！気合い入りますよねー」
2016-06-28 23:02:16
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《1分18秒》side-B 9 しょーしゃってなにー？ 耳ざとい子に聞かれて、適当にごまかした。 ほんとは合コンとか...。 めんどくさいんだよなぁ...。 どうせ、行ったって別に何も起こらないことなんて分かりきってるんだから。
2016-06-28 23:02:25
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 10 「あれ、なーんかいい感じじゃないっすか」 すでにベンチにいた彼は、俺をひと目見て言う。 昼の休憩は、いつも公園のベンチでひとりでぼーっとするのが恒例やねんけど...。 彼はどっかのカフェで買ったようなロコモコ丼のフタを開けた。
2016-06-29 22:50:40
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 11 「そう...見える？」 「うん、見える見える」 公園の向こうには何やらビルが建設中で、日に日に大きくなっていく。 このまま大きくなってったら、公園が日陰になってしまうんちゃうかな...。
2016-06-29 22:50:50
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《1分18秒》side-A 12 したらもう、きいちゃん先生と子供たちは遊びに来てくれんようになるんちゃうやろか...。 それが俺の、目下の心配事。 「あ、今日メシ食わない系？すいません、俺ばっか」
2016-06-29 22:50:58
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《1分18秒》side-A 13 髪はパサパサした茶色で、サーファーみたいなＴシャツにハーフパンツ。 ゴツい指輪。 お年寄りが眉をひそめそうなむちゃくちゃな日本語。 それでもこれが、れっきとした俺の主治医。 ...精神科の。
2016-06-29 22:51:07
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 14 「あそこに診療所入るらしくて、うちの病院。異動になんねーかな」 主治医は無遠慮に箸先で建設中のビルを指す。 それって普通は左遷なんちゃうかな。 まあ、よーわからんけど。
2016-06-29 22:51:16
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@love_yamabato
《1分18秒》side-A 15 「あー、天気いいっすねぇー、病院戻りたくねー」 無糖のストレートティをひとくち飲んで空を見上げた。 つられて上を見る。 ちぎれた綿雲がひとつ、浮かんでた。 あの地獄の日々が、ウソのように。
2016-06-29 22:51:27
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《1分18秒》side-A 16 半年前まで、世間じゃ一流と言われる証券会社の営業だった俺は、押し寄せるノルマと体育会系のパワハラにもうとっくに限界通り越してた。 いわゆる、うつ病ってやつ。 で、会社の指定医だった大学病院にいたのが、この男。
2016-06-29 22:51:52