フォビドゥンフォレスト１話後編３・出陣の儀～禁忌の森へ

フォビドゥンフォレスト＠カクヨム投稿中 @fbd_forest

「フォビドゥンフォレスト１話後編２・風科僚勇会３大隊の大体」をトゥギャりました。 togetter.com/li/1015030

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時計を見ると３５分。作戦予定の説明をする大隊長の後ろで出陣の儀の準備が整った。白い布で覆われた卓の後ろに神饌の台。この両側に篝火。儀式場の足元はそこだけ雪を綺麗に除雪してある。大隊長が挨拶し場所を空けると、儀式を行う鳥姫の巫女…瑠梨が入ってきた。

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フォビドゥンフォレスト１話後編３・出陣の義～禁忌の森へ

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白い小袖に緋袴、ここまでは普通の巫女服だ。その上から虹色の薄布を羽織っている。袖のない羽織で、表は２本裏は７本に布が分かれる。裏側のは鳥の長い羽根みてぇになってる。つっても遠目だと光が反射した瞬間しか目に見えねぇ程に極薄だ。頭には火の形の小冠、後ろ髪には鳥の羽の簪。　1

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瑠梨の横には補佐役の二人。一人は松島のおっさんの娘の円(まどか)さんでもう一人俺らの同級生の乃愛…コイツは今度紹介する。３人の舞巫女の内の二人だ。ウチでいう舞巫女は「鳥姫の巫女」を補佐する巫女のことで、実際は舞以外の神事全般もやる。血筋で伝承される鳥姫の巫女との呼び分けだ。 2

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鳥姫の巫女は半ば女性神職に近い。殆どの神事を男性同様に行えるし瑠梨じゃなきゃ出来ねぇことも…多い。この出陣の儀は違う。基本的に、夜にやるもんだから普段は宮司である親父さんが中心となって勤め、瑠梨がいても補佐役に回るんだが今日は親父さんを休ませたいってことで中心に立ってる。 3

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大祓の詞が奏上される。一番有名で基本的な祝詞で、普通は約９００文字を５分以上掛けて読むもんだが、これを半分くらいの早さで読み上げる。続いて戦祝詞が更に早く奏上される。こっちは鳥姫神社のオリジナルだ。この風科の地で禁忌の森で妖怪退治を行うための色々を読み上げてる。　4

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神楽舞が始まる。舞巫女の２人が鈴を鳴らしながら円を描くように左向きに周り、瑠梨はその中心で榊を水平に持ち、ゆっくりと羽ばたく様にその場で右回りに舞う。妖怪が出るようになった風科の森に「鳥姫様」が舞い降りて邪を祓う様を表現した舞だ。ただし簡略版で幾つかの動作が省略されてる。 5

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さっきの祝詞と違い早回しじゃねぇが、普通の神楽が１本１０分位のところが３分ほどで終わった…どっちも本来はゆっくり厳かにやるもんだが、長丁場を控えてる俺達の場合はスピード重視だ。その分普段「出陣の儀は略式で失礼します」という祝詞を読み上げてんのさ。なんか役所の手続きみてぇだ。 6

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そこまで形式を曲げるんなら別にやらなくて良いんじゃねぇかって？いや、やっとかねぇと面倒なんだよコレが。この理由も森の中に入りゃ分かる。よっぽどの緊急時でもなきゃ必ず出動の前後に祓いはする。最悪、帰ってからだけでもな。 7

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一通りの儀式を終えたところで短い祝詞を読み上げると、瑠梨は鈴や榊のある白い卓の上から木製の呪具を手に取った。半円の直線側を長方形のように延ばして、端面から半円との境界辺りまでをギザギザに木を削ったような形をしている。ぶっちゃけ髪を梳かすのに使うアレの形だ。 8

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つっても間伐材を使って薄く作った使い捨て前提の奴だからコレで髪を梳かすのはお勧め出来ねぇ。ぜってぇ途中で折れて酷いことになる。瑠梨が両手で持ったコイツの真ん中辺りに乃愛が小瓶から香油を掛け、円さんが篝火から松明状の道具で貰った火を付ける。そして火の付いた部分からパキりと折る。 9

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呪具は綺麗に真っ二つになった。火の付いたそれを円さんが専用の器に入れ蓋をする。 「これで此度の出陣の平穏無事は鳥姫様がお守り下さるとお約束を賜りました」 瑠梨が厳かに告げる。祝詞を読みながら幣を振り、全員の二礼二拍手一礼で儀式が終わる。そして巫女３人から神酒が振る舞われる。 10

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俺達生徒会の四人は瑠璃のところに盃を持って並ぶ。これも普通なら注がれた盃を受けとるもんだ。俺は大人達の後を恵里に続いて並ぼうとしたが、ラッタとさゆりさんに先に並ばれた。微妙に不自然に割って入ってきたな？後ろには誰もいねぇ。俺が最後だ。貰いっぱぐれるこたぁねぇだろうけどよ。11

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慣れたもんで十数人を１分ちょいで捌き直ぐに俺の番になった。無言で神酒を受けとるが、瑠璃が話し掛けてきた。もう儀式も終わったようなもんだしダメってこともねぇが神事の最中に珍しいな。 「はる君、さゆちゃんや隊長さん達にも話したんど…気を付けてね？」 「なんだ改まって」 12

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いつもの瑠梨は神酒を配る時は厳かな雰囲気ながらも微笑してるが、どうも今日はさっきからちょっと浮かねぇ感じだった。 「もしかして何か見えたのか？」 コイツには不安定だが予知能力がある。狙って見るのは難しい様だが、見えた時の的中率は高い。 13

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ただ望遠鏡で足元を見れねぇ感じの理屈で自分や風科のことは殆ど見えねぇ筈なんだがな。 「見えたっていうか…見えな過ぎた、かな」 「？」 瑠璃は少し考える素振りを見せた。こういう超知覚系の能力を人に説明すんのは、目の見えねぇ人間に色の概念を説明する様なもんで難しいんだ。 14

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「いつも風科のことは磨りガラスの向こう側くらいには見えるんだけど、それが見えない方から見たマジックミラーみたいに何も見えないっていうかね…」 「…いやそれマジックミラーじゃなくて良いだろ。単に真っ暗で見えない、で良いだろ」 例えとして無駄に回りくどすぎる。 15

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「あ、そうか。ゴメンね。例え損ねちゃった。あはは」 「あんま無理すんなよ」 瑠璃の場合、狙って見ようとすんのは相当な負荷が掛かる筈だ。先代の巫女だったお袋さん曰く度の合わない眼鏡でルーペ越しに車の中から望遠鏡を覗き込む様なもんらしい。想像するだに気分が悪くなりそうだ。 16

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「あ、うん大丈夫大丈夫…あとゴメンね、寄り道付き合わせちゃって。ご飯食べられた？」 「まあな…オムすびは食い損ねちまっけど桐葉さんにたかってやろうかな」 「え？」 「いやこっちの話だ。一応ちゃんと食ったよ」 「…よく分かんないけど、私重大なミスしたかな…？」 「なにがだ？」 17

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「おーい！春坊！イイとこで邪魔して悪ぃがそろそろ来ぉい！」 今日の部隊長、ラッタの父ちゃんが俺を呼んだ。やっべ、みんな車に乗り始めてる。 「つぅかお前彼女と喋ってる時に他の女の名前出すんじゃねぇよ」 桐葉さんが続けた。聞こえてたのかよ、彼女じゃねぇよ、誰が女だ。 18

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…ギロっと視線で刺された。今のは声に出してねぇんだけどな…。まあともかく９時近ぇし早く行くか。盃をぐっと煽る。出撃前だしアレの濃度は低いが、寒空の下では結構暖かい。熱と共に神気が全身に染み渡るのを感じた気がする。未成年飲酒とか言うなよ？飲まねぇと祓いの効果半減なんだからな。 19

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「じゃあな瑠梨。ちゃんと寝とけよ」 「うん…はる君、くどいようだけど本当に気をつけてね」 「おう」 「でも何か…良くないことがあっても、はる君なら良い未来を選びとってくれるって思うから…皆を宜しくね。勿論はる君本人も無事じゃなきゃダメだよ」 「分かった分かった」 20

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「円さん達に悪いだろ、俺も行くからお前も早く行けよ」 「うん」 後ろでは巫女２人とツクヨミ隊で儀式場の片付けをしてる。瑠梨が遅れたのを謝り、巫女２人が笑ってるのを見てから、俺も車のほうへ走った。急がねぇとこっちをジロジロ見てる恵里に縄でふん縛られて車の後ろに結ばれかねねぇ。 21