ナチス・ドイツの占領下ソヴィエトで行った大量虐殺―ウクライナのケース

ノルノル @nolnolnol

1941年8月末、ウクライナ南西部の都市カームヤネツィ＝ポジーリシクィイでドイツの各部隊がみごとな連携を見せて多数のユダヤ人を銃殺した。ここでは戦争そのものがユダヤ人難民を苦難に突き落すこととなった。＋

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この地域の親衛隊・警察高級指導者フリードリヒ・イェッケルンが率先した事態収拾にあたった。8月12日に予定したヒムラーへの報告ができるようにするため、彼は空路で現地入りした。＋

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＋カームヤネツィ＝ポジーリシクィイ近郊の地点を処刑場に選び、ユダヤ人難民と地元のユダヤ人とを強制的にそこに連行した。ユダヤと人は穴の中で秩序警察320大隊とイェッケルン自選の専任要員らによって銃殺された。8月26－29日までの4日間でおよそ2万3600人が命を奪われた。＋

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＋イェッケルンはこの人数を無線でヒムラーに報告した。これはドイツによる大量殺人の中でも群を抜いて規模が大きく、のちにひとつの範として受け継がれていくこととなった。＋

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＋ナチスの論法によれば、ユダヤ人を殺せば食糧難が解消し、パルチザンの蜂起も防げるはずだった。カームヤネツィ＝ポジーリシクィイで大量銃殺が決行されてから、ドイツ国防軍は計画にもとづいて特別行動部隊や警察と協力し、ユダヤ人コミュニティを破壊していった。＋

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＋1941年9月、キエフではソ連の残留勢力との対決があり、これがいっそうの増加をもたらすこととなった。大都市に生まれたユダヤ人住民を全員殺害しようという初の試みが実施されたのである。＋

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＋1941年9月19日、ドイツ国防軍南方軍集団が、予定より数週間遅く、しかも中央軍集団の助けを借りてようやくキエフを占領した。ところが9月24日、キエフ中心部で爆弾や地雷が次々と爆発し、ドイツが占領当局の拠点に定めた建物が破壊された。＋

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＋ソ連軍が撤退する前に時限爆弾を仕掛けていったのだが、市内に残っていたNKVD職員の手で爆発させられたものもあったようだ。瓦礫の中からドイツ人の死傷者が引き出されたとたん、この都市は危険な場所のようにみえてきた。＋

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＋彼らは明確なイデオロギーを持っていた。もしこれがNKVDの仕業なら、ユダヤ人がその責めを負うべきだ。9月26日に会議が開かれ、軍当局者たちは、親衛隊と警察の代表者と話し合い、キエフのユダヤ人を大量殺害することが妥当な報復行為であろう、との結論に達した。＋

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＋キエフに住むユダヤ人の大半は、ドイツ軍占領前に市外へ逃れていたが、まだ数万人が残されていた。彼らが全員、殺されることになった。＋

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＋この作戦全体の鍵は偽の情報だった。ドイツ国防軍のプロパガンダ担当チームが大判の告知状を印刷した。そこには、キエフのユダヤ人は市内西部地区の指定された通りの角に集まること、従わなければ死刑に処すると書かれていた。＋

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＋別の場所に移住してもらうので、身分証明書と金と貴重品を持ってくるようにと。その後も大量銃殺作戦ではこの嘘が常習化していくこととなった。9月29日、キエフに残っていたユダヤ人のほとんどが指定の場所に現れた。＋

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＋翌日はユダヤ教の重要祭日であるヨム・キプールだから、傷つけたりするはずがない、と自分に言い聞かせてきた者もいた。多くは夜明け前にやってきた。移住先に向かう列車で良い席を取ろうと思ったためだ。だがそんなものはなかった。＋

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＋誰もが長旅に備えた荷造りをし、年老いた女性たちは食糧として、玉ねぎを結わえ付けた紐を首からかけてきていた。集合させられたおよそ3万人の人々は、命じられたとおりにメルニク通りを歩き、ユダヤ人墓地の方へと向かっていった。＋

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＋近くのアパートから見ていた人たちは「車道も歩道も埋め尽くして人の列が後から後から流れてきた」さまを覚えている。＋

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＋ドイツ人はユダヤ人墓地の門の近くにバリケードを置いてそこで書類を検め、非ユダヤ人は家に帰らせた。その地点から先は自動小銃を構えたドイツ人と犬に付き添われて進むことになった。＋

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＋はじめは気づかなかったかもしれないが、多くのユダヤ人がこの検問所で、自分たちはほんとうはどういう運命を辿るのだろうかと訝ったにちがいない。＋

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＋当時30歳だったディナ・プロニチェワ（キエフの人形劇団の女優）は、家族よりも前の方を歩いていて、ある地点で銃声を耳にした。とたんにすべてを悟ったが、良心には言わないことにした。怖がらせたくなかったからだ。机が並べてある場所まで行くと、そこで貴重品と服を預けるようにと言われた。＋

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＋プロニチェワが、ついに母も何が起きようとしているのかを察したことに気づいた時には、すでにドイツ人が母の結婚指輪を奪っていた。だがその時、母が彼女に向かって鋭い口調でささやいた。「あなたはユダヤ人には見えないわ」そこではじめてプロニチェワは逃げることを考えた。＋

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＋このような状況で、これほど明瞭なコミュニケーションが成り立つことは稀だ。たいていは頭が現実に起ころうとしていることを必死に否定し、心は模倣へ、服従へ、そして破滅へと向かいたがるものだ。プロニチェワは夫がロシア人だったので、苗字がロシア名だった。＋

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＋彼女は近くの机についていたドイツ人に、自分はユダヤ人ではないと告げた。彼はその日の仕事が終わるまで、わきで待っているようにと命じた。＋

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＋こうしてディナ・プロニチェワは両親と妹とキエフのユダヤ人がどうなったのかっを見届けた。貴重品と身分証明書を渡した後、人々は服を脱がされた。それから脅されて、あるいは頭上に向けて威嚇発砲され、＋

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＋10人ほどずつのグループにまとめられてバビ・ヤールという名の峡谷のへりへと引き立てられていった。殴られた人も多かった。プロニチェワは「血だらけの姿で撃たれにいった」人々がいたことを覚えていた。＋

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＋彼らは峡谷に着くと、すでに積みあがった死体の上に腹ばいになるよう命じられ、上と背後から銃弾が飛んでくるのを待った。そのあとには、また次の一団が送り込まれた。＋

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＋36時間のあいだ、ユダヤ人たちは途切れることなく、やってきては死んでいった。死ぬときと死んだあとは、誰もが同じように見えたことだろう。しかし最後の瞬間までは、ひとりひとりが違っていたのだ。＋