【零落の真実】

未来世界の萩風は、どこにいった?
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

時間を止める。瞬間移動。タイムトラベル。誰もが1度は憧れたことがあるはず。もし自分が、こんな素晴らしい能力を持っていたらと。でも私は違った。私の能力は、最悪の状況で覚醒を迎えた。

2016-09-22 15:17:49
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

私と吹雪はあの時、司令官より少し遅れて横須賀に到着した。港湾部の中心には、苦しそうに泣き叫ぶ島風と、彼女に必死に寄り添う司令官の姿があった。司令官は島風から少し離れたところで声をかけていた。今思うと、司令官の肌は爛れているように見えた。

2016-09-22 15:19:16
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

私と吹雪は陸地からその様子を見ていた。私と吹雪は暫く動けなかったが、やがて吹雪が思い出したように口を開いた 「回復魔法だ。私たちの回復魔法で…」 私たち艦娘は、最低限応急処置程度には使える回復魔法の習得が義務付けられている。それを使えば島風を助けられると考えた。

2016-09-22 15:21:21
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

回復魔法を使えば島風の苦しみを和らげてあげられるかもしれない。そうして私達は海へ飛び出し、島風に近づこうとした。その時だった 「アアアアアアッ!」 島風が大きな悲鳴を上げた。強い衝撃波が拡散し、私と吹雪は思わず足を止めた。島風の身体は眩い光を放っていた。

2016-09-22 15:22:18
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

司令官は焼け焦げたローブを脱いで島風に被せ、彼女を優しく抱きしめた。そして私たちの方を見て、何かを呟いた。何と言ったかは聞こえなかった。 (まずい…)なんとなく、嫌な予感がした私は、それでも尚近づこうとする吹雪の腕を掴んで止めた。島風の身体が一層強く輝いた。

2016-09-22 15:23:06
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その瞬間、爆音と衝撃波が放たれた。爆発したのだ。私は咄嗟に目を強く閉じた。そんなことをしても、爆発から逃れられないのはわかっていた。だが、その瞬間はいつまで経っても来なかった。 ゆっくりと目を開いた。私と吹雪は雪花の執務室にいた。私も吹雪も状況を飲み込むのに時間がかかった。

2016-09-22 15:23:57
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

私の能力が覚醒してしまった。私は吹雪と共に、横須賀から宿毛湾へテレポートしてきたのだ。状況を理解した吹雪は私の胸倉を掴み、泣き叫んだ。「どうして私まで連れてきた!?」と。私は何も言えなかった。わざとではないのだ。そもそも自分にこんな力があるなど、思いもしなかったのだから。

2016-09-22 15:24:56
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

横須賀の爆発の衝撃波は、遠く離れた宿毛湾まで僅かに到達していた。吹雪は私を壁に叩きつけ、何度も私の胸を叩いた。当然その拳に力など入っていなかった。私も吹雪も泣いていた。その日何が起こったか、不幸にも私達はよくわかっていたからだ。 島風と司令官が、死んだのだ。

2016-09-22 15:26:18
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その後、何もかもが変わった。世界も、人も。世界は深海棲艦に支配された。艦娘は人類の敵と扱われ、粛清、反乱、逃避行、そしてやがて、彼女達は姿を消した。世界は絶望に包まれた。 だが、どんな闇の中にも、希望の光は灯るもの。吹雪だ。彼女は戦い続けた。たった1人、暗い闇の中で

2016-09-22 15:29:51
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

灯火はいつしか、大きな炎となった。粛清に追われ、隠れていた艦娘達が再び立ち上がろうとしていたのだ。吹雪は艦娘によるレジスタンス組織を作り上げ、絶望の世界に対抗しようとした。私も吹雪の後ろで、密かに彼女を支援していた。

2016-09-22 15:32:06
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪はやがて、衝撃の事実を知ることになった。ある収容所に捕らわれた艦娘達を救うために、戦っていた時のことだ。囚人を連れ夜の山中を歩いていた時、吹雪達は国土安全保障省のエージェントと交戦した。国安省は艦娘を国家への反逆者と見なし、敵対する組織となっていた。

2016-09-22 15:34:05
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その時、見てしまったのだ。手負いの艦娘に発砲し、殺した男を。かつての司令官の友を。葛葵冷士の姿を。彼は国安省の傘下に入り、艦娘を粛清する立場にいたのだ。 吹雪は許せなかった。葛葵の事ではなく、あの葛葵をも変えてしまったこの世界を許せなくなったのだ。

2016-09-22 15:36:25
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その時から、吹雪は過去に固執するようになった。全てはあの爆発が原因。島風を暴走させた何者かを突き止めることに執着していた。 その頃、私の能力にも新たな兆しが見られるようになった。時間を止めることができるようになったのだ。そしていつしか、短いタイムトラベルすらも可能になった。

2016-09-22 15:37:05
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

私はこの事は吹雪には言わなかった。今の吹雪がこの力を知れば、必ず過去に戻り、歴史を変えようとすると思ったからだ。だが結局、吹雪にはすぐにバレてしまった。最もあの爆発以降、吹雪と行動を共にした雪花の仲間は私と白雪しかいなかったし、いつも傍にいるから仕方の無いことではあったのだけど。

2016-09-22 15:38:15
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪の申し出を、私は最初は断った。歴史を変えることがどれほど危険な行為か、白雪から何度も聞かされていたから。でも今の吹雪は、誰にも止められなかった。吹雪はレジスタンス幹部の座を白雪に譲り、闇ルートで仕入れた薬を使い、能力複製の力を得た。そして、私の力をコピーした。

2016-09-22 15:39:22
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

私の力を得た吹雪は国安省にも平気で侵入し、あらゆる資料をかき集めた。異能を封じる葛葵の刀がない限り、吹雪を捕まえることはできないのだから。しかも力をコピーできるようになった吹雪にとって、国安省との交戦はむしろ都合がよかった。強力な力を持つ者と接触できる機会もあるからだ。

2016-09-22 15:40:57
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

そうして吹雪は、時の地図を作り上げていった。私は白雪に、吹雪を止めるように説得してくれと何度も言われた。でも私には、吹雪を止める資格なんてない。結局私は吹雪につき、裏から彼女をサポートしていた。そして吹雪はついに時の地図を完成させ、過去に飛んだ。 その後は、知っての通りよ。

2016-09-22 15:41:34
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「頼んだわよ、吹雪。人類の未来がかかってる」 「…必ず成し遂げる。失ったものを取り戻す」 吹雪、瑠奈花、比叡の3人を過去に送り届けた。これで私の役目は終わった。暁は部屋を出て、執務室へと向かった。乱雑に散らばった時の地図を踏みつけながら、バルコニーへと出た。

2016-09-22 15:42:46
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

暁は背を伸ばし、空気を吸った。爆発により汚染された空気。でもきっと、すぐに変わる。吹雪が変えてくれる。 「…のん気にくつろいでるつもりか」 背後から声。暁は平静を装って振り向いた。いずれ来るとは思っていたが、こんなに早いとは。葛葵。先程バニラ湾で別れたばかりのはずなのに!

2016-09-22 15:43:59
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「早すぎね。もっとゆっくりしていてもよかったのに」「余裕だな。その様子を見るに、吹雪達はもういないようだな」 この男…葛葵は元々よくわからない人間だったが、今は得体の知れない不審感が暁を襲っていた。私を始末しに来るのはわかる。だがあまりにも来るのが早すぎる。

2016-09-22 15:44:41
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「私がここにいるのが不思議か?」 葛葵は不気味に笑い、銃を暁に向けた。暁は思わず、時間を止めた。静止した葛葵を見つめながら、用心深く横に動き、銃の射線から逃れた。その時、動かないはずの葛葵の目が、暁を捉えた。

2016-09-22 15:47:53
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「!?」 暁は飛び上がった。今は時間を止めているのだ。暁以外の物が動けるはずがないのに!暁は再び横に動く。葛葵の目線は、常に暁を捉えていた。そしてゆっくり、今度は身体を動かして、銃を暁に向けた。 「どういうこと?時間は止めてある。あなたは動けないはず」

2016-09-22 15:48:34
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「その疑問に答えてやろうか?」 葛葵は銃を向けたまま言った 「お前の力は完全に時間を止めるわけじゃない。時間の流れを遅くしているだけだ。一見すれば止まっているように見えるくらいに。つまり超高速で動けば、時間が止まった世界でも動けるということになる」

2016-09-22 15:49:12