【ラバウル泊地防衛戦】

歴史の転換点が近づこうとしている
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

歴史の転換点が、近づこうとしている…

2016-09-24 22:53:10
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ラバウル泊地の司令部は、海を大きく望める場所にある。一柳元親は暇さえあれば、三味線を弾きながら海を眺めるのが趣味だった。今日も同じように三味線を持ち出し、静かに海を眺めていた。だが、今日の音色は不穏だった。普段は綺麗な水平線が見える海は、物々しい船団で覆われている。

2016-09-24 22:56:44
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

艦艇による大規模な船団と、艦娘による二段構えの水軍。それが、一柳元親が司令部の切り札である。水軍を持ち出す時とは、即ち決戦の時。今ラバウルは、厄介な脅威に苛まれていた。 「司令官」桃色の髪の秘書艦、不知火が声を掛ける。不知火が言う前に、一柳は手で言葉を制した。

2016-09-24 22:57:58
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「来たか」「はい」 一柳は三味線を弾く手を止め、振り返る。そこには3人の艦娘がいた。高雄、清霜、伊168。救援要請を受け取った雪花が寄越した艦娘達だ。 「遠くまでご苦労。何かしら労いたいところだが、非常事態故、容赦して欲しい」「いえ、お構いなく。ところで、その非常事態というのは」

2016-09-24 22:59:47
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3人を代表して高雄が話を進める。一柳は皆を執務室へ連れていき、机の引き出しから数枚の写真を見せた。 「つい先日の話だ。俺が管轄する海域内に、これが出現した」一柳が示した写真には、海上に浮かぶ…否、海中から突き出た円柱状の建造物が写っていた。 「これは…なんでしょうか?」

2016-09-24 23:03:02
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「さあな。が、深海棲艦の兵器の類だと俺は思っている」 次に一柳が見せたのは、調査報告書。渡された報告書を高雄は流し読みする。 「俺は調査隊を結成し、あれを調べさせた。その写真もその時撮らせたものなのだが…」 一柳は厄介そうに頭を搔く。「結論から言うと、調査隊は全滅した」

2016-09-24 23:05:53
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「ぜ、全滅ですか…!?」清霜が驚く。 「なかなか強かだ。写真だとただの円柱に見えるが、機銃だの主砲だの、物騒な兵器が大量に隠されている。調査隊はそれにやられた」 清霜は戦慄した。見てくれはただの円柱が一部隊を全滅させる力を持つとは、なんだか不気味である。

2016-09-24 23:09:43
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「艦娘を送り出してもみたが、こちらも潰走。敵の正体もカラクリもろくにわからぬまま、被害だけが積み重なっていく。対処の仕方がわからなければ手も足も出ない。そこでお前達を呼んだ。雪花艦隊の精鋭が来てくれれば百人力というもの」 「なるほど、わかりました。奴の弱点を探ってみましょう」

2016-09-24 23:11:25
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高雄は一柳の頼みを了承すると、思案し始めた。正体不明の兵器を如何にして攻略するか。 「近づくとやられるなら、離れたところから探ってみればいいんじゃない?」伊168が提案した。 「偵察機…ですか。でもそれではこちらの居場所も知れてしまいます。それではなんら変わりないと思いますが」

2016-09-24 23:13:34
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「いえ、それは…いい考えかもしれません」 不知火は顔を顰めたが、高雄と清霜は頷いていた。 「偵察機ではないわ。目を使うのよ」「目?肉眼ということですか?それでは尚更近づくことに…」「いえ、索敵範囲よりも遠くから、肉眼で捉えるのです」 不知火は目を丸くした。

2016-09-24 23:16:12
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「そんなことできるわけ…」「ううん、できるんだよ!」清霜がはしゃいだ。「イムヤさんならね!」 不知火は伊168を見た。伊168は閉じていた目をゆっくりと開いて視線を不知火に向ける。その眼光は、鷲めいて鋭かった。

2016-09-24 23:17:18
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その謎の建造物は、ソロモン海の中央にそびえ立っていた。ラバウル泊地を出た船団はソロモン諸島を外側から迂回する遠征ルートを通り、背後を突く位置まで進軍した。地図上ではそうだが、今の船団の位置と建造物との間は非常に離れていた。青空と蒼海が広がるのみで、件の方角には何も見えない。

2016-09-24 23:18:53
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「こんなに離れては索敵も何もないのでは…」不知火は困惑していた。伊168は艦首からその方角をただ見つめているだけだ。双眼鏡も何も使わずに、である。10分程沈黙が続いた。不意に伊168が虚空を指差した。 「件の建造物はあれかしら」 不知火は双眼鏡で伊168が指差した方角を見る。

2016-09-24 23:20:31
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その方角には確かに小さな黒点が見えた。が、その形状までははっきりしない。 「イムヤさん、肉眼であれが見えるのですか?」「見えるわ。鮮明にね」「馬鹿な…」 不知火は伊168の隣に立ち、彼女の顔を覗いた。伊168は顔を不知火に向ける。伊168の瞳は、人間のそれとはかけ離れていた。

2016-09-24 23:22:09
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「ちょっと視力がいいもので」「ちょっとどころではなあと思いますが」伊168は再び蒼海に視線を戻す。 「ま、色々あるのよ。縁があったらあとで話してあげるわ」「イムヤさんの視力は凄いのよ!私達が死力を尽くしても見えないものまで見えるの!」「そうですか…」

2016-09-24 23:24:16
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不知火は一般人のそれとは比にもならない視力にただ驚愕するばかりだった。少なくとも、清霜の冗談に気付かないくらいには 「で、どんな感じかしら?」高雄が尋ねる 「概ね写真の通りだわ。大袈裟な給水タンクが海から突き出てるみたい。でも物騒な兵器が色々格納されてるのはよくわかる」

2016-09-24 23:25:28
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伊168は背中に掛けた長銃に素早く弾を装填すると、不知火に信じられない言葉を発した。「あれ、撃ってみる?」 「その銃で…ですか?」「そう」「届くのですか?」「まあね。特別製なのよ、これ」 銃が特別製かどうかよりも不知火には気になることがある。

2016-09-24 23:26:53
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「まさかこの距離から当てられると?」「ん…まあ、見える物になら当てられるかな」 あっさりと言い放つ。見える物ならというが、不知火には見えないのだ。 「あ、危なくない?一柳さんの艦娘は手を出したら反撃されて潰走しちゃったんだよね…?」「大丈夫、どうせ向こうからは見えちゃいないわよ」

2016-09-24 23:29:29
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

自分は見えてる癖してよく言う。と不知火は思った。伊168は素早く艦橋を登り、絶好の狙撃ポイントを見つけるとそこに陣取った。スコープを覗き、狙いを定める。戦艦の主砲すら届かない距離から、それより遥かに小さい弾を、波に揺れる船の上から狙撃する。気の遠くなる話だ。

2016-09-24 23:31:04
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「弾が当たれば反応が見られる。反応がわかれば、兵器の解析が進む。さて、どんな反応をするか見物だわ〜」 不知火は唖然としていた。それを見て高雄が僅かに笑みを漏らす。 「…高雄さん。今の瑠奈花殿の艦隊とは、皆こんな感じなのですか?」笑みに気づいた不知火が尋ねる。

2016-09-24 23:34:23
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「はは…まあ、イムヤさんはちょっと特別な感じではありますけどね」 不知火と高雄は、かつて瑠奈花の連合軍の元で共闘していた時代に思いを馳せる。 「なになに?お2人は知り合いなんですか?」 清霜が興味津々に割り込んできた。

2016-09-24 23:35:40
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「ええ、瑠奈花殿の艦隊が「雪花艦隊」となる前、連合艦隊の一端として一時在籍していました。その更に前には、高雄さんと共にあのラバウルに」「懐かしいわね。不知火に会ったらよろしく言っておいてって愛宕も言ってたわ」「そうですか。愛宕さんも元気そうでなによりです」

2016-09-24 23:36:49
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「へぇ〜。人はどこで繋がってるかわからないものですねえ」 清霜が1人感心していると、上から慌てた声が降ってきた。 「やばい。気付かれた」スコープから目を離し、肉眼で何かを確認している。 「当たりましたか?」

2016-09-24 23:38:25
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