_その一刻前、ようやくプロペラが逆に回りだし、クラウドシルフはミシミシと身体を軋ませて脱出を試みる。 「いけるぞ……その調子だ」 『――――』 言葉は違えど、通じるものがあった。一瞬プロペラを回す手が軽くなる。 41
2016-09-26 19:33:34「や、やったか……?」 ぬるり、とシルフの身体がうねり、プロペラに絡まった羽衣を引き抜く! 脱出に成功したのだ! 傷ついた身体を高速再生させながら離脱していくシルフ。 「一見落着か、連絡を入れないと」 カイミェルはそこで話術機が無いことを思い出す……そのとき! 42
2016-09-26 19:37:45_エンジンの爆発! それと同時に突風がカイミェルを突き飛ばした。カイミェルは足場から落とされたことで距離を保ち被害を免れる。 だが、命綱が……切れた! 空へと投げだされるカイミェル。 「う、うわっ」 43
2016-09-26 19:43:02_このまま落下していくかに思えた。カイミェル自身もそう思っていた。しかし、落下は止まった! 『新しい恋を、見つけられた?』 上位シルフ語で語りかけ、彼を抱きかかえるクラウドシルフ……先ほどの傷ついた個体だ! 44
2016-09-26 19:50:35_触れるもの全てを切り裂くシルフの羽衣も、いまは羽毛のように優しかった。如何なるきまぐれであろうか、クラウドシルフがひとを助けたのだ! 飛行船に接近し、デッキにカイミェルを放り投げる。 「いてっ……照れ隠しかよ」 プライドの高い彼女らしい仕打ちだった。 45
2016-09-26 19:55:12_デキリィが駆けよる。クラウドシルフはこちらを見もせず雲間に消えていった。 「あいつ……もしかして」 「どうしたの?」 「昔……今日みたいな日に、事件があった」 (新しい恋を、見つけられた?) 言葉が脳内でリフレインする。 46
2016-09-26 19:59:32_カイミェルはその日のことをデキリィに打ち明ける。 「僕は一度シルフに恋をした……」 病気になって船内に紛れ込んだクラウドシルフの雛。めちゃくちゃになる船内、大捕り物のはじまり。カイミェルは密かに彼女を保護し、治療を施してやった。 47
2016-09-26 20:05:04「今日みたいな寒い日だった。僕は病床のシルフに恋をした……シルフを閉じ込めておこうとしたんだ。でも、それは間違いだと気付いた……シルフに触れた手が裂けたときに。彼女は謝ってくれたけど、もう僕はシルフに恋をしないと約束した。彼女を夜明けの空に放ったんだ」 48
2016-09-26 20:10:05_偶然か、あるいは気紛れか。あの日の個体が今回のクラウドシルフとは限らない。真実は教えてくれなかった。 飛行船乗りはクラウドシルフと互いの距離を保ちながら、距離感を間違えながら。それでもたまには助け合い過ごしてきた。そしてそれは明日も続くだろう。 49
2016-09-26 20:15:55【用語解説】 【シルフの雛】 シルフは最初幾何学的で無機質な形で魔力の濃い場所より生れ落ちる。そして周囲の魔力を食らいながら成長し、最終的に神の姿=人間型へと成長する。一部のシルフは神の姿から離れた変態をするが、それは格が低いゆえに畏れ多く神の姿を保つことができないためである
2016-09-26 20:24:50【次回予告】 誰かのために役に立て。学校ではそう教わった。彼もそうだった――。工場で魔法労働に従事する主人公が、偶然見つけた少女。彼女の教育者のセンセイ。そして……無邪気な悪意が、空を舞う。 次回「航空虚兵」 全60ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-09-26 20:32:48