【HYDE】次元を越えて。

歪みを正したその先で、新たな未来が始動する。 交差する二つの魂、その願い。 その先で、彼らが見るものとは。
0
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

今ここに、次元を超えて。 魂が、交差する。

2016-09-26 23:19:21
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《……今が、その時だ》。視界を黒に染める暗闇の中。誰かの声が、聞こえる。(……何の、事だ…)。自分の口から言葉が発せられているかも、わからない。体が動かないのは、これが夢だからなのか、萎縮して動かせないのか―――。それさえも。《…俺に、何かあった時に……》。1

2016-09-26 23:20:36
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

不意に、人影が現れた。自分は今、その人影と対峙している。それは即ち、先程から頭に響く声が己のものだと。(…俺は一体…それに、この人は…)。《…俺を、殺せ》。今度はハッキリと、己自身が声を発したと感じた。意思とは関係なく紡ぎ出されたそれは、シンプルで。しかし、突拍子もない言葉。2

2016-09-26 23:22:05
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

向かい合う人物は、まるでフィルターがかかったかのようにぼやけて見え辛い。男か女か。そんな簡単な事ですら視認する事が出来ない。(―――!)だが、その手に構えられた煌めく二振りの剣は、嫌でもその輝きを目に反射する。動かなければ。そう思った瞬間。剣は、"彼"の心臓を迷う事なく貫いた。3

2016-09-26 23:23:22
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「――ぅあ、――ッ!!!」反射的に飛び起きる。体中が熱い。額から汗が滴った。心臓は激しく脈打ち、呼吸を荒れさせる。「………夢、……」。現実に戻った事への安堵か、イースは大きく深呼吸した。未だに小刻みに震える自分の手を見つめる。ここまで取り乱すのも珍しい―――なんて。4

2016-09-26 23:23:42
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

自嘲するように笑いながら、彼は窓からのぞく空を見上げた。星が煌めく夜空は、とても美しかった。どこまでも広がる果てしない黒色が、イースの瞳に映る。この色はどこか心地が良い。今一度先ほど見た夢の記憶をさかのぼる。5

2016-09-26 23:24:36
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

何かが思い出せそうな、しかし喉につっかえて出てこないような、そんな違和感が彼を染める。「……疲れてる、のだろうか」。そう、きっとそうなのだと。言い聞かせるように、イースは再び眠りについた。夢の内容を、胸の中にしまい込んで。6

2016-09-26 23:24:54
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ハイド」。己の名を呼ぶ声に、ハイドは振り向いた。視線の先、朝陽を浴びて煌めくイースの銀色の髪が、風に揺れる。「おはよう」。彼女の声に彼は笑う。しかし、その笑顔はどこか曇っているようにも見受けられた。「?どうかしたのか」。そう問いかけると、目の前の人物は困ったように首を傾げた。8

2016-09-26 23:25:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……夢を見た。誰かに、殺される…そんな夢を」。語る声は静かだった。何かを考えるように、イースの視線は地に落ちる。その瞳の色は、薄く陰っていた。「…俺が、"俺を殺せ"と言うんだ。……いつの間にか、剣が俺を貫いて…」。静かだった声が、段々不安げなものに変わっていく。9

2016-09-26 23:26:26
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースにしては珍しい。彼女は素直にそう思った。と同時に、最近イースの様子がおかしいと感じる事が他にも何度かあった事をふと思い出す。ある時は頭痛が頻繁に起き、またある時はまるで現実のような夢を見る―――と。初めはただの偶然かと思ったが、イースが彼女に話すひとつひとつの事柄は。10

2016-09-26 23:26:49
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……まさか、な」。ざわめく記憶を宥め、ハイドは小さく息を吐いた。ゆっくりとイースに近付くと、その肩にそっと手を置く。その手から、僅かに震えが伝わってきた。「……大丈夫だ。お前は生きてる」。そう、彼は生きている。今、ハイドの隣で。この時間は、紛れもない真実なのだと。11

2016-09-26 23:27:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……ああ。…ありがとう」。だからせめて、彼の心に巣食う不安を、少しでも拭う事が出来れば。12

2016-09-26 23:27:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「―――?」。何かが聞こえた、ような気がした。瞳を開けると、静寂に包まれた夜の闇を感じる。これもまた夢なのだろうか。また今夜も自分は、夢と現実の狭間でもがくのだろうか。―――しかし。イースの目に映る世界は、現実で見るそれと何も変わらない。夢ではない。脳は、覚醒したままだ。14

2016-09-26 23:29:09
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……なんだ、」。頭の中、何かが響く。何度も何度も、胸を締め付けるように。烈しくも雄々しいその"声"は、まるで。「……俺を、呼んでいるのか…?」。答えは返ってはこない。だが、彼に届く音は、心を惹きつけるように。無意識の内に体は動いていた。行かなければ。脳が、そう訴える。15

2016-09-26 23:29:53
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

急ぎ足で防具を身に纏い、外へ出た。少しひんやりとした風が、彼の肌を刺す。外に並べ置いていた武器達の中、己の相棒を取ろうと手を伸ばした。「…こんな時間に、どこへ行く?」。不意に背後から声が飛んだ。凛としたそれは、いつであれ聞き間違う事はない。「……ハイド」。16

2016-09-26 23:30:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

視線を向けると、自らも防具で身を固めた仮面の戦士が立っていた。背には、彼女の相棒であるヴィルマフレアが存在を示す。その姿は、暗黙にその意を語る。「…わからない。だけど、俺は行かなければ」。彼女を一瞥すると、イースは視線を戻す。その手に握った武器は、月の光を反射して鈍く煌いた。17

2016-09-26 23:31:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……珍しいな。お前の相棒は、鉄槌だけだと思っていた」。イースの背に寄り添う"相棒"を見やり、ハイドは言葉で驚愕を示した。表情は、変わらないまま。「……何故、だろう。…どこか…懐かしい感じが、したんだ」。武器を背中越しに撫でる。手に伝わる冷たさが、妙に心地よく感じるのは。18

2016-09-26 23:32:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…止めないのか?」。その言葉に、ハイドは小さく笑った。なぜ私がそんな真似を。口元に手を当てそう紡ぐ彼女は、仮面で瞳こそ見えないが―――優しげな声で彼を包む。「…止めても無駄なのは前に学習した。…それに、最近のお前の変化の原因が、何かわかるかもしれないからな」。19

2016-09-26 23:32:48
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

予想外の返答に、イースは一瞬言葉を失った。以前の記憶を頼りに考えると、きっと彼女は己を止める―――そう、思っていたから。「…力づくで、止められると思ってたよ」。心の声をそのまま発すると、ハイドはまたも小さく笑う。今度は、困ったように。「…馬鹿者が」。20

2016-09-26 23:33:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

己に歩み寄る彼女の手をゆっくりと取る。白く綺麗なそれは、あたたかい。「……ありがとう」。自分に起きている変化も、何も言わず隣に居てくれるその心も。イースにとって、かけがえのない。「……心配かけてごめん。…行こう」。彼女は、頷く。彼の背に鎮座する盾斧は、ただ、静かに輝いていた。21

2016-09-26 23:34:31
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

風で巻き上げられる砂は、時に視界を遮るほどに。脚をとらんとする柔らかい砂地を抜けると、彼らは険しい岩場に出た。夜の砂漠は人の凍えさせるほどの零度と化すが、此処まではその冷気は生きて届かない。もう出発してからずいぶん時間が経ったように思えた。周りは、未だ薄暗い闇に包まれている。23

2016-09-26 23:35:46
1 ・・ 5 次へ