トーメント・イーブン・アフター・デス #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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リンク note(ノート) 第1話【トーメント・イーブン・アフター・デス】 | ダイハードテイルズ | note BRATATATA! BRATATATA! 激しい機銃掃射の火線が追うのは何らかの影だった。その者は斜めに傾いた高層ビル廃墟の屋上から屋上へ飛びわたり、閃く赤黒い残光を伴って攻撃者たちを振り返った。降り注ぐ重金属酸性雨が跳躍軌道にふれて蒸気を発し、灰色の空に黒い稲妻が閃いた。 シャッタード・ランド。白亜化石じみた高層ビルの下にひろがる不毛の地には、その呼称が示すとおり、無数の直線状の轍が巨獣の爪痕のごとく刻まれている。汚染度が極めて高く、住む者のない海抜ゼロ地帯の廃墟だ。振り返った彼の視線の先には黒漆
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:ネオサイタマの東の人口ゼロ湾岸地帯、99マイルズ・ベイa.k.aシャッタード・ランドにおいて、ニンジャスレイヤーと名乗るニンジャと、コーストウインドと名乗るニンジャが死闘を繰り広げていた。一方、ヘマを踏んだ情報屋のタキは、窮地を脱するべくIRC通信を行う)

2016-10-05 22:03:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【トーメント・イーブン・アフター・デス】#2

2016-10-05 22:05:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一歩一歩、瓦礫を踏みしめ接近するほどに、墜落衝撃で吹き飛んでいた短期記憶が鮮明に戻って来る。瀕死のニンジャの名はコーストウインド。つい先ほどアイサツし、彼がこの致命傷を与えた。右腕は付け根から失われ、鎖骨と肩甲骨が破壊されている。長くはあるまい。カイシャクし、とどめを刺すべし。

2016-10-05 22:08:18
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このニンジャがヤクザクラン「デビルズカインド・キョダイ」の所属である事は間違いないが、目当ての相手ではない。(((殺せ)))「殺す」彼は精神の奥底に湧き出したアブストラクトな殺意に頷き返す。ニンジャを殺していった先にあのサツガイがいる。それが本能でわかる。(((然り)))

2016-10-05 22:11:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

瀕死のコーストウインドは赤黒のニンジャを、そのメンポ(註:面頬)にレリーフされた「忍」「殺」のカンジを見上げ、恐怖した。「狂人……!」這って逃れようとする。その背をニンジャスレイヤーは踏みしめる。「念のため訊いておく」彼はジゴクめいて言った。「サツガイという男を知っているか」

2016-10-05 22:17:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「知らぬ」コーストウインドは血を咳き込んだ。「知っていたとしても教えぬ。その者がお前の目指すものか。ならば望み果たせぬまま野垂れ死ね。狂人に似合いの末路よ」「貴様に用はない」ニンジャスレイヤーは踵を捻じり込んだ。「目的はデビルズカインド・キョダイのオヤブン、ストリングベンドだ」

2016-10-05 22:21:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オヤブンの名を……貴様……ゲホッ!」コーストウインドは絶望した。どのみち、売るべき情報が既に無い事がはっきりした。「オヤブンが必ず貴様を殺す!絶対にだ。許さ……」コーストウインドは目を見開いた。敵の眼差しに込められた尋常ならざる憎悪が、彼の怒りを押し流した。彼はただ恐怖した。

2016-10-05 22:26:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」カイシャク!ニンジャスレイヤーの踵が頭部を踏み砕いた。「サヨナラ!」コーストウインドは爆発四散した。吹き込む潮風が爆発四散痕の灰をさらい、吹き流した。ニンジャは死ねば肉体すら残さない。半神めいたニンジャの生態を詠んだ「死して屍拾う者無し」のコトワザが示す通りである。

2016-10-05 22:29:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

頭上、砕けた天窓の上では旋回するバイオカモメが影を為し、ゲーゲーという泣き声が重金属酸性雨と共に降り注ぐ。ニンジャスレイヤーの身体が雨に触れて蒸気を発する。燃える血が身体の傷を癒し、装束を再生してゆく。超自然の憎悪が体内を循環し、戦う力を、殺す力を呼び戻す。

2016-10-05 22:34:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ストリングベンド……どこだ……!」ニンジャスレイヤーは頭に手を当て、呻いた。ニンジャの痕跡を……その息遣いを感じ取るべく。近い筈だ。既に敵のはらわたに近づいている。デビルズカインド・キョダイは小規模のクランだ。ニンジャは今のコーストウインドとオヤブンのストリングベンドのみ。

2016-10-05 22:39:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャの魂の音を微かに聞く事で、敵のおおまかな居場所を特定できる。ここは人口ゼロ地帯……ニンジャがいれば、目立つ……「どこだ……!」『ヤッタ!オイ、アンタ!聞こえるんだな!』ザリザリ。ノイズ交じりの声がニューロンに木霊した。外からの音だ。「誰だ……貴様は」『タキと呼んでくれ!』

2016-10-05 22:44:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは呻いた。先ほど、外から流れ込んできた声。「デジタル・オーディンとかいう……」『それだ!それ、俺だ』「何がオーディンだ、ふざけるな。名前……タキ=サン」『ああそう、その調子!』「何者だ」『アンタこそ何者だ。是非教えてもらいたいもんだ。だけど、それは後回しでいい』

2016-10-05 22:47:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは訝しんだ。タキは言った。『急ぎの取引がしたいんでな』「取引だと?」『シーッ!お前が今居る場所は廃モールだ。店舗「夢のピンクチャン」に入れ。急げ!』ニンジャスレイヤーは瞬時に状況判断し、タキの指示に従った。「イヤーッ!」テナントへ滑り込み、棚を背に息を殺す。

2016-10-05 22:51:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギャション!ギャションキュイイーン。ギャションキュイイーン……!巨大質量が立てる鈍い歩行音と共に、全長10メートルの四脚型大型ロボニンジャがモールの表ゲートから入って来た。複数の走査光を投げながら、両腕のレールガンを構え、ノシノシと瓦礫の上を進んでくる。『あれ、モーターマサシな』

2016-10-05 22:54:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モーターマサシ?」『ホラな。どうせ知らないんだと思ったぜ。アンタ、フラフラとスットロく動いてるから、いや、こっちの話。あれは持ち主不明のまま、ここら一帯で不毛な狩りを続けてる。たとえアンタがニンジャであろうとブッ殺されるぜ。これでオレが信用に足るとわかったろ。アンタ浮浪者?』

2016-10-05 22:59:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャだと」『ハハハ、まさか図星か?まさかだよな』タキは笑い飛ばした。『話進めていいか』「用件を言え」『取引ってのはな。他でもない、オレを救出してほしいワケよ。残念ながら今のオレはニッチもサッチも行かん状況でさ。デッキも無い。椅子に縛られて、処刑時刻を待ってるッてわけで……』

2016-10-05 23:03:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「取引と言ったな」『その通りだ。そうだな、一攫千金したくないか?今のアンタみたいに汚染地帯で寿命を気にしながらガラクタ漁りする生活から脱出できるぜ。オレなら助けてやれる。あのな、』「誰に捕まった」『重要じゃないさ』「誰だ」『大したヤクザじゃない!』「デビルズカインド・キョダイか」

2016-10-05 23:09:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ンー、ンー……』タキは口ごもった。しかし逆にそれは、ニンジャスレイヤーにとって渡りに船と言えた。「……いいだろう。案内しろ」そして付け加えた。「ただし相応の代価をもらう」『勿論だ!だが急いでほしいんだ。そこは危険だ。マサシが来る。店の奥の扉の先に進め。地下へ降りられる』

2016-10-05 23:15:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

棚と棚の間を進む。ギャションキュイイーン……モーターマサシの足音が遠ざかり、ニンジャ聴力の可聴範囲からも出ていった。ニンジャスレイヤーは「関係者専用」とかろうじて読み取れる古い金属扉を開けた。部屋の中央、破壊されたソファの付近の床に円形の闇がある。開け放たれたマンホールの竪穴だ。

2016-10-05 23:18:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『穴を下りてくれ。その先に俺はいる。助けてくれ。そしたらアジトにあるものは何でも好きにしていい。金庫の万札でも、クスリでも、権利書でもいい。オレがアンタに正しいルートを教えて導く。で、アンタが俺を救出。シンプル』何がシンプルなものか。「そこにニンジャは居るか?」『……一人、居る』

2016-10-05 23:22:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは沈黙した。タキは違った意味の沈黙に捉えただろう。『オイ、リスクを冒せよ!そうしなきゃ栄光の未来は来ねえよ?わかるか?』彼はまくし立てた。『アンタ、実際のニンジャと会った事あるか?噂だけだろ?大丈夫だ、必要以上に恐れるな。だがナメるのもダメだ。的確に……』

2016-10-05 23:26:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは梯子を降り切った。「ガイドしろ。タキ=サン」『勿論。そう遠くない。頼むぜ。もうすぐアンタはカート・コベイン似のハンサム・ハーフ・ガイジン・ガイが椅子に縛られてる場所に辿り着くからな。それがオレ』「ニンジャは近いか?」『近いが、一人はさっき出ていった』「計二人」

2016-10-05 23:31:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『あの、カート知ってる?昔の……』タキは話を逸らしにかかる。二人。すなわちコーストウインドとストリングベンド。前者は既に殺した。「知らない。T字通路だ」『左だ』ニンジャスレイヤーは左に向かう。ひび割れたコンクリート壁。ソウルの音に耳を澄ます。ニンジャが近いが、精緻にはわからない。

2016-10-05 23:37:46