トーメント・イーブン・アフター・デス #3
◆「何故おれが」マスラダは血の涙を流した。(((ニンジャ殺すべし!執着し、力を無限に引き出せ!)))ナラクの哄笑がニューロンを激しく揺らした。マスラダは右腕を掲げた。赤黒い炎が蛇めいて巻き付いた。炎の縄の先端には禍々しい鉤爪が備わっている。鉤爪が手首を噛み、マスラダは拳を握った◆
2016-10-07 22:09:46◆(何故おれが…)ナラクは答えない。(何故おれを死なせなかった、ナラク!)ナラクは答えない!マスラダの周りで現世の時間が流れ始めた。ストリングベンドは驚愕の眼差しで見返し、身構えた。マスラダは燃える目で睨み返した。そして先手を打ってオジギした。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」◆
2016-10-07 22:10:37「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン」ストリングベンドはアイサツを返した。「……ストリングベンドです」アイサツされれば、返さねばならない。アイサツの最中に攻撃を仕掛けてはならない。アンブッシュ(奇襲)攻撃を仕掛けた当の相手であろうとそれは同様。極めて重大な掟だ。破る非礼は許されぬ。
2016-10-07 22:14:45オジギを終えると、あらためて二者はカラテを構え、互いの間合いを測る。ストリングベンドは不可解を感じている。ニンジャスレイヤーは内臓を灼かれ、焼け焦げて沈んだ。立ち上がる事など出来ぬ筈だった。しかし彼は呪われたフェニックスめいて、禍々しい邪気の炎を纏って立ち上がったのである。
2016-10-07 22:17:51ストリングベンドはやや腰を低く落とし、攻撃に備える。手の内がわからぬからだ。コオオオ……その右掌が再び超自然の光を帯びる。一方、ニンジャスレイヤーはこの敵を睨み、ジツを睨んだ。コウボウ・ジツ。このニンジャが自ら得たジツではない。サツガイが与えた力。彼にはそれがわかる。
2016-10-07 22:22:40極めて恐るべきジツ。二度受ければ……。彼は己のニンジャ自律神経によって己が「まだどれだけ戦えるか」を察した。多少の傷であれば、内なるナラク・ニンジャのソウルがマスラダの執着、怒り、憎悪を触媒として超自然の火を熾し、かりそめに傷を塞ぐ。だがその力には限りがある。次は致命傷となろう。
2016-10-07 22:29:24ストリングベンドの掌が陽炎めいて揺らいだ。二者はじりじりと間合いを維持し動く。椅子に固定されたタキが脂汗を浮かべて呻く。無残にも、サンダルからはみ出した右足親指があらぬ方向にへし折られている。たった今やられた傷だ。これから始まる拷問のプロローグか。
2016-10-07 22:36:40タキは血走った目で二者を見つめ、ビクリと身体を痙攣させた。それが合図となった。「「イヤーッ!」」二者は同時に床を蹴った。タキを中央に、彼らはワン・インチ間合いを保ち、木人拳めいて打撃を逸らしつつ狭い室内を動き回る。ニンジャスレイヤーは幾度も打撃を受けながら、右掌の回避に集中した。
2016-10-07 22:40:07ZGGGT!致命的な掌がオゾンの臭いを散らしながら繰り出され、ニンジャスレイヤーの側頭部を僅かに削り取った。赤黒の血が噴き出し、装束と焼けたこめかみを塞ぐ。浅い。「成る程」ニンジャスレイヤーは呟く。アンブッシュに頼ったのはジツの欠点ゆえか。万全の威力を確保するには充填が要るのだ。
2016-10-07 22:46:01そしてこの傷を代償に、彼はストリングベンドの脇腹にチョップを叩き込む事に成功していた。更に、「イヤーッ!」捻じった腰のバネを戻し、逆の手で顔面に拳を叩き込んだ。「グワーッ!」ストリングベンドはまともにこれを受けた!床をバウンドし、背中から壁に叩きつけられる!「グワーッ!」
2016-10-07 22:48:15ニンジャスレイヤーは追撃を畳みかけようとする。だがニンジャ第六感がかろうじて危険を報せた。飛びかかるニンジャスレイヤーにストリングベンドが迎撃の前蹴りを浴びせ、怯ませ、コウボウ・ジツでトドメを刺すビジョンが見えた。ニンジャスレイヤーは踏みとどまり、代わりに、右腕を打ち振った。
2016-10-07 22:50:38「イヤーッ!」蛇めいてしなる右腕先から赤黒い炎の縄が放たれた。それは手甲に巻き付いた奇怪な武器であり、縄の先端は禍々しい鉤爪になっていた。ストリングベンドは不意を突かれ、反射的に右手で打ち払おうとした。黒炎は無慈悲に巻き付き、鉤爪が手首を噛み、炎熱が苛んだ。「グワーッ!」
2016-10-07 22:55:54「イヤーッ!」燃える目を見開き、膂力を込めた。背に縄めいた筋肉が盛り上がり、足下の床に亀裂が生じた。ストリングベンドは一瞬堪えたが、次の瞬間にはその両脚が宙を離れ、ロケットめいた勢いで引き寄せられる!「イヤーッ!」「グワーッ!」回し蹴りがストリングベンドの顔面を捉えた!
2016-10-07 22:58:52メンポが破砕し、よろめくストリングベンドを前に、ニンジャスレイヤーは間髪入れず襲い掛かった。もはやコウボウ・ジツを絡めたカウンター攻撃を行う余裕はない。黒炎の鉤爪が獲物を離れ、右腕に戻った。「イヤーッ!」「グワーッ!」破砕した顔面に渾身の右拳が叩き込まれた!ナムアミダブツ!
2016-10-07 23:01:52「アイエエエ!」タキが椅子の上で恐怖に叫び、暴れた。ニンジャスレイヤーは致命傷を受けたストリングベンドの首を掴み、床に叩きつけた。「グワーッ!」手を離さず、睨み下ろす!「き、貴様、何故我がヤクザクランを……何故ここまで……どこのテッポダマだ!」「サツガイという男を知っているか」
2016-10-07 23:04:29「サツガ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」「サツガイという男を知っているか」「待て……取引を」「イヤーッ!」「グワーッ!」「サツガイという男を知っているか」「……」「知っている筈だ」「……!」ストリングベンドの目に異質の恐怖がよぎった。「奴が……お前に何をしたかは知らんが……」
2016-10-07 23:07:22「イヤーッ!」「グワーッ!」「おれは生かされた。奴が全ての始まりだ」ニンジャスレイヤーは瞑想じみて呟いた。そして目を見開いた。「サツガイという男を!知っているか!」「関わりは!関わりはした!……だが、し、知らぬ……奴の事は……」ストリングベンドの瞳孔が収縮した。嘘は言っていない。
2016-10-07 23:10:24「ならば一人、ニンジャを売れ」ニンジャスレイヤーはジゴクめいて言った。「サツガイに繋がるニンジャの名を言え。そうすればカイシャクしてやる。さもなくば!」「アバーッ!」熱によってストリングベンドの目が白濁した!「ナハト……ローニン……」瀕死のニンジャは呟いた。「ナハトローニン」
2016-10-07 23:14:15「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップを振り下ろし、首を刎ねた。「サヨナラ!」ストリングベンドは爆発四散した。「……!」タキは椅子の上で痛みと恐怖に震えながら、そのさまを耳で追った。ニンジャスレイヤーは暫し立ち尽くしていたが、やがて決断的足取りで奥の事務室へ突入した。
2016-10-07 23:19:42KRAAASH!KRAAAASH!やがて、ニンジャスレイヤーの破壊活動の音が奥から聴こえてきた。ファイル類やデータを収奪しているのだ。「マジか……どうしようもねえ……!」タキは首を動かしてそのさまを見ようと苦闘する。KRAAASH!破壊音!KRAAASH!破壊音……!
2016-10-07 23:22:50やがて喧騒が止み、タキが数度呼吸する間に、ズカズカという足取りが戻って来た。歩きながらニンジャスレイヤーはタキを一瞥し、そのまま去ろうとした。「待てッ!」タキは叫んだ。ニンジャスレイヤーは足を止めた。タキは唾を呑み、乾いた唇を舐めた。「と……取引だ、話が違う。オレ、殺されちまう」
2016-10-07 23:26:00タキのニューロンは火花が散るほど高速回転していた。生と死の瀬戸際だ。ニンジャスレイヤーはタキを見た。そして言った。「ニンジャは殺した」「だけど、生き残りがいるかもしれねえ。オレはおしまいだ。こんな椅子に縛られたままじゃ逃げられねえ、ドラッグもやれねえ、違う、水も飲めねえ、餓死だ」
2016-10-07 23:29:48