入江の魔人外伝【リバース・デイ別伝:失われた十支】

リカルド=サンとのコラボレーション作品 ※本筋はリカルド=サンの『リバース・デイ』参照 リカルド=サンのアカウントはこちら@entry_yahhoo
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えみゅう提督 @emyuteitoku

【リバース・デイ別伝:失われた十支】

2016-10-15 17:38:12
えみゅう提督 @emyuteitoku

戦いはもうすぐ終わりを迎える。中枢棲姫は破壊され、島を縛る物はなくなった。島は深海棲艦の手から離れ、海に散らばる生物達は人の手に帰ってきたと歌い踊る。騒ぎ喜び無知をさらす。海も島も人間も、全て星の一部でしかない。「返してもらうぞ、人間。私は帰ってきた」

2016-10-15 17:39:12
えみゅう提督 @emyuteitoku

その泊地に立つのは人知の及ばぬ者、人の目に見える驚異。人間は自分の届かない場所にいる者を恐れ敬い畏怖を込めてそれを【姫】と呼ぶ。奪われた古城に姫は舞い戻った。「さあ、検索を始めよう」姫は両腕を広げ、地に掌をかざす。島から地の底へ、深海よりも深き星の底へ根を伸ばす。

2016-10-15 17:40:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

根が目指すのは島の意識。土地に記録される全てが閲覧できる。――が、別に本棚は出てこない。ついでに検索ワードを口にする必要もない。「…じゃ、やるか」ヒュウガは至極残念そうに、島の意識の深層へ沈み込む。島で起きた全ての出来事の情報がヒュウガの意識に流れ込んだ。

2016-10-15 17:42:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

体という小さな器に収まる生命が、同じ事をしたのならば、瞬く間に個は塗りつぶされ、一抹のデータとなって島の意識として貯蔵される。しかし、ヒュウガは島の意識を余す所なく受け入れながら核へと進む。彼女はそれができるように造られた。収める器も無ければ愛でる心もない。

2016-10-15 17:45:05
えみゅう提督 @emyuteitoku

島の隆盛、噴火、気候、鳥の羽ばたき、貝の死骸、流れ着いた人間、その幼馴染、家族、女、風俗、別離、至誠、形而下、流産、誕生、分娩室、笑顔、揺り籠、墓場、銃声、浮かび上がる鬼、銃声、爆発、内臓の圧壊、しゃれこうべ、芍薬の花、貞淑、汚れ、汚れた命、きたない命、私。

2016-10-15 17:46:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

何兆、何京の歴史が刹那、虚空に圧縮され、密閉される。それをヒュウガは一つの苦もなく演算し通り抜ける。彼女にはむしろ余裕さえあった、島の意識には足りない物があった。最初に打ち建てられた十の支えが失われていた。人との戦いで流れてしまった。血の津波に攫われてしまった。

2016-10-15 17:48:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

失われた十の支えは極東の地に流れていった。理を捻じ曲げる黄金の柱はヒュウガだけが知っている。幾星霜をかけ積み上げられた記憶の地層をめぐり、やがてヒュウガは星の核の前にたどり着いた。「喜べ、江見。レムリアはここに浮上する。まあ、位置的にはムー大陸だが…」

2016-10-15 17:50:13
えみゅう提督 @emyuteitoku

ヒュウガは星に根を伸ばし、異変に気付いた。何か居る。今まで根を張っていた中枢棲姫は破壊されたはず、仮に中枢棲姫が生きていたとしても、深層にたどり着けるのは最初の姫である泊地棲姫の十支だけのはず。「これは…なぜ…」ヒュウガが星の核に触れた時、それは目を覚ました。

2016-10-15 17:52:59
えみゅう提督 @emyuteitoku

「な、んだとぉおっ!!」ヒュウガの伸ばした根にからめるように星からも根が伸びる。泊地棲姫の意識に星が入り込む。「逆流、否。侵入、否。侵蝕、否――否!否否否!!これは、置換だ!深海棲艦化?!あり得ん…星の記録にこんなものはない、ワタシの知らぬ記録はないはずだ!」

2016-10-15 17:55:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

「何故抗えない、何故知らない!ワタシはコノ星にある全ての記録を――この星…」姫は結論にたどり着いた。落ち着き気を配れば、星からの根は何もしていなかった。張り巡る根を切らぬよう、捻じらぬよう、目覚めの挨拶をするように姫を撫でる。それはかつての子守への感謝だった。

2016-10-15 17:57:35
えみゅう提督 @emyuteitoku

星の根は巻き戻り、再び核に収まった。ここは最初の姫が死んだ場所、最初の姫が居た島、最初の芽生えの地。「…そうか、“私”はずっとここに、居たんだったな」ヒュウガは星の深層から地上へと戻る。海から響く闘志の砲撃の怒号も、今や彼女の中で虚しく反響するだけだった。

2016-10-15 17:59:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

「江見よ、レムリアはやはり幻の地だったようだ。だが、喜べ、君の計画は、最初から成功していたのだから」ヒュウガは空に向けて根を伸ばす。根が向かう先は島の周囲の全ての生命の意識。「聞け!人間と名乗る生命よ、深海棲艦と名乗る傀儡よ。島から離れろ、今すぐに!」

2016-10-15 18:00:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

「今は艦娘や深海棲艦という肩書は忘れ、目の前の助けられる相手を救え。一つでも多くの命を残せ、生きていれば奇跡は起こる」ヒュウガの言葉の送信と同時に、知覚に直接声が書き込まれた者の意識が返信される。各々の感情は色とりどりに散らばっており、混沌としているが疑問は一つ。

2016-10-15 18:01:58
えみゅう提督 @emyuteitoku

『何者だ?』「私は地球人ではないが、この星を愛する者だ。――名前?そうだな、【ミッシングテン】とでもしておこうか」ヒュウガは空に伸ばした根を、一本だけ残し巻き戻す。一つだけ残した理由、ざわつく意識の波の中でヒュウガの言葉に一切の疑問が送られなかった回線。

2016-10-15 18:03:29
えみゅう提督 @emyuteitoku

「知っていたのか、ムサシ」『ほんのちょっとだけね。最初の姫しか入り込めない星の深い場所に、何かがいるってアリゾナから聞いたの』細い糸の先に居たのは、ヴィルヘルムの台座から未だ動かないムサシだった。彼女の声に張りはなく、しぼんだ風船のような生気がヒュウガに伝わった。

2016-10-15 18:04:44
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ずっとついていくという言葉が記録されていたが?」『アリゾナを撃った時に、全部どうでもよくなっちゃった』「江見に伝えることはあるか?」『言いたい事はポンの通信機に録音したわ。もう到着する頃ね』「そうか、ではここで沈め」『さようなら、ヒュウガ』通信は別れの言葉を届け途切れた。

2016-10-15 18:06:31
えみゅう提督 @emyuteitoku

【リバース・デイ別伝:失われた十支  了】

2016-10-15 18:06:44