- irukano_kujira
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今回のお話のはじまり
お姉ちゃん本人は西住流の伝統なんかどうでもよくて、みほとまた一緒に過ごしたいだけだったのに、「お姉ちゃんだから我慢」と「国内最大流派西住流を継ぐ者」というのをぶっちぎれなくて、闘争の意思がないのに戦いに明け暮れるタイプ
2016-10-25 15:12:19ここから
西住流後継者に選ばれなかった姉、西住まほは戦車道から身を引き、愛知にある小さな喫茶店で働いていた。 ある日、黒いスーツに身を包んだ怪しい男が店主を差し置き「西住まほさまにお会いしたい」とやってきた。 店内が空く夕方、店の奥のテーブルで交わされる話を店主はカウンターから聞いていた
2016-10-25 16:25:59聞こえる「戦車道」や「西住流」の言葉に、西住まほの実家の関係者であることは容易に想像がついた。 言葉を交わしたまほは立ち上がり「私はもう戦車道から身を引いている、お引き取りいただきたい」と退店を促した。 男は「もう一度、妹とやってみたくはありませんか?」とだけ言い残し店を出た
2016-10-25 16:29:48「今のって……?」 そう聞く店主に、西住まほは「なんでもない、大丈夫だ」とだけ言ったが、その顔はいつになく真剣で、店主もそれ以上を追及することができなかったが翌日、そのことを後悔した。 朝、綺麗にたたまれた布団の上に「ありがとう」とだけ書いた手紙を置いて西住まほは姿を消した
2016-10-25 16:33:51「姉より優秀な妹などいません。西住流を継ぐべきはあなたです」 その言葉を聞いた時、強い憤りを覚えた。何も知らない者が何を言うか、と。 しかし同時に心の片隅にずっと押し込んでいた感情が飛び出そうとしたのも事実だった。 「もう一度、妹と戦ってみたい」 その感情は朝までに、爆ぜた
2016-10-25 16:41:08西住まほ、西住みほの姉である前に一人のプレイヤーである事実。「妹のために」という気持ちに嘘はなくても、高校戦車道大会では妹に負け大学選抜戦では妹に残されそして西住流後継者としても負けた。プレイヤーとしてのプライドが「もう一度やれたら」を心の中で大きくしないかといえばするだろうなぁ
2016-10-25 16:57:04しばらくして謎の黒い戦車軍団が西住流を襲う、という噂が立った。 初めは地方の小さな大会で、それから少し大きな地方大会、西住流門下だけが狙い撃つように撃破されるという話は、西住流戦車道家元となった西住みほも聞いていた。 負けた門下生は全員が西住流を辞めるという話も気にかかった
2016-10-25 17:05:37黒い戦車軍団はある社会人チームであること以外は西住流のすべてをもってしても解らなかった。表向きのデータはあるが公式にも非公式にも乗員の素性どころか本名すらも掴むことができない。 負けた門下生も問いただす以前に口を閉ざして何も語ってはくれなかった
2016-10-25 17:10:31大洗女子学園で共に戦い、戦車道を続けていた大野あやの所属するチームが謎の黒い戦車軍団と戦い敗れたという話が飛び込んできた。 旧知の人間なら何かを話してくれる。みほはそう信じて熊本を出たが、あやは試合時に割れたメガネのまま、暗い部屋でうつむいて「ごめんなさい」としか言わなかった
2016-10-25 17:56:19久しぶりに訪れた大洗の町を見て歩く余裕もなく、みほは大野あやのことを思い出していた。声をかけると飛び上がり、目に涙を浮かべ頬を緩めたかと思った瞬間、はっとして彼女はうつむき、それっきり「ごめんなさい」以外の何も言ってはくれなかった。 なにかがある、でもその何かがわからない
2016-10-25 17:59:58悩んでいると旅館の玄関から騒がしい物音が聞こえた。 誰かが駆け込んできた音、それが自分の部屋を豪快に開け、両膝をついた。 「に、西住ッ! 本当に申し訳ない!」 額を床にこすりつけるのは愛知の喫茶店の店主、安斎千代美だった。 「私が……私が……」 頭を下げて安斎千代美は泣きだした
2016-10-25 18:08:35「まほがいなくなってすぐ、言えばよかったんだ、いや…あの時もっと突っ込んで聞いて止めていればっ!」 泣いて叫ぶように話す安斎を落ち着かせながら、男が店に来たこと、いなくなった姉を探していたこと、黒い戦車軍団に行きつき、連絡を取ろうとして熊本へ行ってからここへ来たことを順に聞いた
2016-10-25 18:12:47「じゃあ、あの黒い戦車軍団の隊長は……」 「あぁ、間違いなくお前の姉、西住まほだ」 どうして……いったい何が。そう呟いてからみほは安斎の手を取った。 以前のみほならばそのまま落ち込んだであろうみほのその行動に安斎は驚いた。 「こんなになるまでお姉ちゃんのこと……本当にありがとう」
2016-10-25 18:41:47