唐突にきな臭くなる童謡連作SS

唐突にきな臭くなる童謡ネタを続けていたら連作になっていたのでまとめたもの。同タグの他の方のネタも面白いのでよろしければぜひ。
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悪刀残党 @bad_blade

柱の傷は一昨年の 五月五日のあの地獄が夢ではなかったことを示す唯一の物証となってしまった。役場も警察も当事者ですらも忘れたがり、忘れようとしているが、その必死の試みをあざ笑い忘れさせまいとしているかのようにその裂け目はくっきりと柱に刻まれていた。

2016-10-25 22:09:20
津軽あまに @kuroyagi6

やねよりたかい こいのぼり おおきいまごいは おとおさん ちいさいひごいは こどもたち けれど私は覚えている。写真にも、映像にも、戸籍にすら存在していなくても、村の誰もが認めずとも、あの団欒にはたしかに、「おかあさん」がいたのだと。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 12:37:05
津軽あまに @kuroyagi6

「さっちゃんはね、さちこっていうんだ、ほんとはね」 だけど、ちっちゃい頃から自分のことはさっちゃんとしか呼ばせなかったんだよ、おかしいねえ。 呆けかけた曾祖母の言葉。村の秘密の綻び。ああ、確かに母は、ここにいた。そして、あの日の地獄で、消えたのだ。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 12:53:11
津軽あまに @kuroyagi6

おうちを聞いてもわからない。 なまえを聞いてもわからない。 役場も。駐在も。母という人間の不存在を答えるのみ。 けれど、あのときとは違う。母の名前。実在の確信。何よりいまの私は、泣いてばかりいる子猫ちゃんじゃないのだから。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 13:00:34
津軽あまに @kuroyagi6

しゃぼん玉とんだ屋根までとんだ 屋根までとんで こわれてきえた その繰り返し。どこまで高く手を伸ばしても、母の情報には届かない。 母の名前と、残された椛の簪に割れた柘植の櫛。手がかり頼りに繰り返す。 しゃぼん玉を飛ばし続ける子供のように。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:48:38
津軽あまに @kuroyagi6

あんたがたどこさ ひごさ ひごどこさ くまもとさ くまもとどこさ せんばさ その山の猟師。それが、割れた櫛の片割れを持っているらしい。 とある「狩り」の戦果として。 やっと掴んだ、あの日の糸口。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:49:28
津軽あまに @kuroyagi6

せんばやまにはたぬきがおってさ それをりょうしがてっぽうでうってさ 反射的に子狸を庇った私の腕。銀の弾丸が貫いた傷口からは、血の代わりに金の毛が生えていた。 「その金毛、覚えてるぜ。あの七尾、混じりもんを残してたとはなァ」 なにを、言っているのか。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:53:46
津軽あまに @kuroyagi6

こぎつねこんこん やまのなか 草の実つぶして お化粧したり もみじのかんざし つげのくし 母が残した簪と櫛を握る。 蘇る記憶。認められなかった現実。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:54:30
津軽あまに @kuroyagi6

まっかだな まっかだな つたのはっぱもまっかだな もみじのはっぱもまっかだな すべてがまっかに照らされて、燃えて崩れて消えていく。 赤の光に照らされて、母の頬に朱、唇には紅。 あの日、私に隠れるように告げ、母は猟師の前に立ったのだ。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:55:41
津軽あまに @kuroyagi6

はしらのきずはおととしの 五月五日の弾の痕。 母を掠めた銀の弾、その威その意を示すもの。 銃持つ男と無手の母。 子を守るべく立つ母の、髪が金へと色を変えた。 #唐突にきな臭くなる童話

2016-10-26 23:58:00
津軽あまに @kuroyagi6

ゆきやこんこん あられやこんこん ふってもふってもまだふりやまぬ 赤が白へと塗り替えられる。 狐の鳴き声七つの尾。火縄を湿らす化生の雪。 「――獣撃ち、慈太郎。名を聞かせいよ、ケモノ」 「――金毛七尾、倖狐」 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:58:55
津軽あまに @kuroyagi6

こぎつねこんこん やまのなか 『枯葉の着物じゃ縫うにも縫えず 綺麗な模様の花もなし』 そう笑って、狐の性を顕した母は、山に消えたのだ。 倒れたこの猟師を残して。 「半獣が自分を人と思い込もうとするなんざァよくある話さ。目覚めたならオマエも狩られる側だ」 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-26 23:59:42
津軽あまに @kuroyagi6

てんてんてん、天神さまの石段は、だんだん数えていくつある だんだん数えて 二十段 段の数ほどつきましょう。つきましょう。 私には、雪を降らす化生もない。霊威を貯めた尾だってない。 ならひたすらに毬突くように。 ――段の数ほど、衝きましょう。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-27 00:00:07
津軽あまに @kuroyagi6

『さっちゃんはね さちこっていうんだ ほんとうはね』 倖狐。それは金毛七尾としての名。 『だけど、ちっちゃいときから、自分のことさっちゃんとしか呼ばせないんだよ』 それは、人の名で生きたかったから。 それでも狐の性を引きずり出され、母は山へと消えたのだ。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-27 00:02:06
津軽あまに @kuroyagi6

こぎつねこんこん 穴のなか 穴のなか 大きな尻尾は邪魔にはなるし 小首をかしげて考える ならば。山の奥へと消えた母に、村を守った孤狐に、私は呼びかけないと。 #唐突にきな臭くなる童謡

2016-10-27 00:02:51
津軽あまに @kuroyagi6

夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺の鐘がなる おててつないでみな帰ろう からすと一緒にかえりましょう #唐突にきな臭くならなかった童謡 おしまい

2016-10-27 00:03:29