サンズ・オブ・ケオス #2
(あらすじ:ニンジャスレイヤーの次なる標的は、メイレインというニンジャだ。問題がひとつあった。メイレインはネオサイタマの最大の闇社会勢力ともされるソウカイ・シンジケートの所属だというのだ。タキはニンジャスレイヤーに、シンジケート全体にくれぐれも敵対するなと言うが……)
2016-10-27 22:41:08「つまり、我が社ジバタメ・エンタープライズがですね」左の企業重役が身を乗り出し、口火を切った。「そもそもジェネレータ権利を取得しているわけなんです。このクロサマ・テクニコはまるでハイエナだ。我が社の格付けダウンの噂が市場に流れた事をこれ幸いと、権利の横取りを……」「違う!」
2016-10-27 22:48:21右の企業重役が負けじと声を張り上げた。「ジェネレータ権利を競売で取得したのは我が社だ」クロサマ社員はマキモノを開いて権利書を取り出した。ジバタメ社の重役が目を見開いた。「権利書だと?嘘だ」「前権利者のハンコも当然ある」彼は挑戦的に笑い、権利書のハンコを指さした。チバの瞼が動いた。
2016-10-27 22:51:06「ウチにもある!」ジバタメ社の重役は腰を浮かせた。「今、持参してはいないが……」「無ければ無いのだバカめ!出まかせを言うな」クロサマ社の重役は喚いた。そしてチバに向かって勝ち誇るように言った。「手に取ってご覧になってもかまわない!権利書はここに!」「ウチにもある!」とジバタメ社。
2016-10-27 22:56:05「ウチにあるものが本物でそっちは偽造!その偽物をよこせ!判じてやる!」ジバタメ社重役は卓越しに権利書を掴もうとする。「ヤメロ!」クロサマがペンを投げつける。「イディオットめ!」「貴様がイディオットだ!」「貴様がだ!」「……!」争いを前に目を閉じていたチバが、カッと見開いた。
2016-10-27 22:58:51「キエーッ!」若きオヤブンはヤクザソファから飛び上がり、卓上に着地した。チン、と音が鳴った。ロング・ヤクザ・ドスを鞘に戻した音である。然り、戻したのだ。恐るべきワザマエのイアイ斬りであった。その瞬間、クロサマ重役とジバタメ重役、それぞれの右手首から先が切り離され、卓上に落ちた。
2016-10-27 23:01:18更にチバはヤクザ革靴で無慈悲に権利書を踏みにじると、ひらりと身を翻し、無造作にヤクザソファへ戻って腰を落とし、足を組んだ。二人の重役サラリマンの手首から鮮血が噴き出した。「アイエエエ!」「アババーッ!」悶絶する彼らに、ソファの傍らの女ニンジャが何かを投げつけた。メディ・キットだ。
2016-10-27 23:05:41「見苦しいわ、下郎ども」チバは吐き捨て、葉巻を噛んだ。「何が権利書だ。尻軽な権利者に二重契約でたばかられた責任の擦り合いを、俺の目の前で始めるとはいい度胸。……俺にとって重要なのは、貴様らがソウカイ・シンジケートの領地に土足で踏み入り、くだらんイクサを始めた事だ。ケジメをつけろ」
2016-10-27 23:10:10「アイエエエ!」「ケジメ?この手首が!?」「それはケジメとは別だ。単に貴様らが鬱陶しい」チバは言い放ち、葉巻を押し消して立ち上がった。退出である。古傷のニンジャが先導し、チバが続く。のたうち回る重役社員を、女ニンジャが振り返った。「二人で協力してキットを使えば、まだ繋がるかもよ」
2016-10-27 23:18:47(アイエエエ……)後方に悲鳴を残し、チバは進む。女ニンジャの姿は消えた。黒漆塗りの廊下は等間隔のボンボリ・ライトで照らされていた。「オヤブン」先導する古傷のニンジャが立ち止まり、振り返る。チバは闇を見透かした。前方に、跪くニンジャあり。「ドーモ。ラオモト=サン。ガーランドです」
2016-10-27 23:21:49白く退色した短い髪と秀でた額、武骨なメンポが特徴的なニンジャだった。ガーランドの左目の上には<六門>のカンジとクロス・カタナを組み合わせた紋章が刻印されていた。古傷のニンジャは殺気をたもったまま脇にのいた。チバは冷たく言った。「ガーランドか。ビジネスの場に貴様が何の用だ?」
2016-10-27 23:28:57「情報を得た折、ごく近くに居りましたので。無礼を承知で参上した次第」ガーランドは言い、チバのもとへ歩み寄った。そして彼にだけ聞こえる声で囁いた。(例の件。やはり十中八九、メイレインはクロです。ただし確証とまではいかぬゆえ、直接承認を頂きにまいりました)チバは頷いた。「よし。殺せ」
2016-10-27 23:36:09ヒートリ・コマーキタネー……ミスージノ・イトニー……。アカチャン。ウマ・コリェール・ジ・ソーパ。複数の広告電線から流れる音楽やプロモーション音声が混じりあい、ホロバスヤマ・バラック屋台街にさざ波めいた環境音を作り出している。
2016-10-27 23:51:40採掘者、パルクール配達者、ドヒョー労働者、ビタミン・カラーのスーツを着たカブキ達、サイバーゴス、モヒカンヘアーと鋲打ち腕章にサラリマン・スーツを組み合わせたサラリパンクス。アニメボーイ。多種多様の通行人が行き交う。バラック屋台街には盗品が何でも集まる。取り締まる者もない。
2016-10-27 23:56:55盗品衣類を吊るしたハンガー・ツリーの間から、短い黒髪の男が歩み出た。マスラダである。「ヘイ、これで男前だね、いい買い物した。また来てね」換金素子を受け取って満面笑顔のバッド・ブティック店主は、手を振って彼を見送った。マスラダは歩きながら眉根を寄せ、拳を握り開く。
2016-10-28 00:04:06人ごみをぬって歩いた彼は、やがて目当てのモチ屋台に辿り着いた。「何にします」「フライド・モチを」「へい」マスラダは椅子にかけ、そこから、「ゴールド銀座」のネオン門をいただく狭い路地を眺めた。(衆人環視の中、物騒な赤黒装束で張り込むわけにはいかねえんだよ)タキの指示である。
2016-10-28 00:12:39(オレはメイレインの行動ログを取った。奴はソウカイ・シンジケートのニンジャで、普段は地下の金網ドージョーのシノギを監督してる。カラテカとモーターガシラが殴り合うエンターテインメントだ。だがそれはいい。重要なのは、どうも最近、奴が金網ドージョーと関係の薄い地域を往復してるんだな)
2016-10-28 00:16:21それが、ゴールド銀座だ。マスラダはネオン門の奥の闇を凝視する。(あの路地に奴が入ると、その先のログは無い。消えちまう。そして数時間後にまた現れる。そして帰っていく。要は、あの路地には妙に強いIRC妨害が敷かれてるッてわけだ。怪しいだろ?)「モチどうぞ」「ドーモ」モチを食べる。
2016-10-28 00:22:48そのままマスラダは待った。店主の視線が剣呑になって来ると、追加でコブチャを注文した。装束やブレーサーの防備が無いこの状態は、彼にとってストレスフルだった。パーカーと細身のカーゴパンツ、そうしたかつての日常的な装いは、今の彼には非日常のものだ。(現れろ)彼は心の中で呟いた。(早く)
2016-10-28 00:35:31彼のニンジャ第六感は時折、離れた地点で素早く移動する強力なニンジャソウルを捉える。内なるナラクが蠢き、精神に深く楔を打とうとする。そのたび抗う。ネオサイタマには相当数のニンジャが居る。それらに片端から挑み、この街に掃いて捨てるほどいる無差別殺戮者志望者の末席に加わるつもりはない。
2016-10-28 00:44:06「お客さん、追加のご注文は」「ゴチソウサマ」マスラダは立ち上がった。彼の視線の先、泥を蹴立てて足早に移動する姿があった。ニンジャだ。襟を立てた黒コート、ネオン傘。垣間見えたメンポの意匠が、タキの事前情報と一致していた。メイレインである。メイレインはゴールド銀座の門をくぐる。
2016-10-28 00:53:06