アセイルド・ドージョー #4
(これまでのあらすじ:サツバツナイトことフジキド・ケンジは旅の途中で岡山県のドラゴン・ドージョーに立ち寄る。そこでは旧知のドラゴンニンジャ・クランの長、ユカノが弟子の育成に励んでいた。穏やかな会話をかわす二人であったが、そこに招かれざる三人のニンジャが訪れる)
2016-12-08 22:11:03(彼らは古代より永らえたリアルニンジャであった。彼らはドージョーを愚弄し、霊廟に保管されていたヌンチャク・オブ・デストラクションとメンポ・オブ・ドミネイションを奪い、ユカノを石化して去っていった。彼らの居場所を探ったフジキドは、ムカデ・ニンジャをボロブドゥールに見出す)
2016-12-08 22:13:35(再戦を期するも破れ、自らも恐るべき「ロウ・ワンの呪い」を受けたフジキドであったが、なお諦めはしなかった。彼はムカデ・ニンジャの高官たちを標的に、行動を開始したのだ。グレイウィルムが斃れ、続いて、セストーダルが待ち伏せの罠にかかった。イクサである!)
2016-12-08 22:18:08◆闇の中、ジェット・ブラックの装束を縁取る橙色の火が、極限状態のセストーダルの視界に焼き付いた。メンポには恐るべき字体で「殺」「伐」のカンジが刻まれている。「ドーモ。セストーダル=サン。サツバツナイトです」行く手を阻んだニンジャが力強くアイサツした。「このまま……殺す!」◆
2016-12-08 22:21:36「ドーモ……サツバツナイト=サン」セストーダルはサツバツナイトのアイサツに応じた。背中が黒く焦げ、煙を吹いている。風が醜怪なにおいを含んだ。「セストーダルです。おのれ……たばかりおったな……!」「この状況なりのイクサがある」サツバツナイトが言った。「悠長にはせぬぞ!」 1
2016-12-08 22:24:40「SHHHH!」セストーダルは関節を軋ませ、変形を試みた。長虫めいた姿に転じ、並のニンジャでは追い切れぬ速度と変幻自在の動きで敵を幻惑し、回避不可能な死角からの毒攻撃で一撃のもとに仕留めるのが彼のカラテだ。だが、ナムサン。「オゴッ……」変形は果たせず、黒い血を吐いて呻くばかり。2
2016-12-08 22:27:44あばら家を吹き飛ばすほどの爆発の中心にいたセストーダルの関節や神経は損傷し、微細な肉体コントロールを要するヘンゲワーム・ジツはもはや不可能だった。ニンジャといえど高熱爆発に呑まれれば無事ではない。「よかろう、ハンデだ。これも我が慢心が招いた罰……」セストーダルは身体を軋ませた。3
2016-12-08 22:34:49「だが貴様とて万全ではあるまい。ロウ・ワンの呪いが貴様を縛っておるからには!」妖しく目を光らせ、うねるようなカラテで襲い掛かる!「イヤーッ!」「グワーッ!?」サツバツナイトは間一髪、異様に伸びるチョップを躱して懐へもぐりこみ、ローキックでセストーダルの脛を破壊した。4
2016-12-08 22:38:26「イヤーッ!」「グワーッ!」うつ伏せに倒れ込んだセストーダルの背に踵落しを食らわせ、脊椎を破壊。頭を掴んで仰け反らせた。イクサの決着は既についているのだ……!「オヌシの印は……左目であったな。覚えているぞ」「オゴーッ!口惜しや!」「イヤーッ!」「アバーッ!」眼球を引き抜く! 5
2016-12-08 22:40:31二人のニンジャを包む世界が吹き飛び、ただ闇が広がった。サツバツナイトのニューロンに、あの日の屈辱的光景がフラッシュバックした。冷たく濡れた石の広間、トライアングル状にサツバツナイトを包囲する三人のニンジャ。一人は舌を、一人は左目を、一人は右掌を用いて、サツバツナイトを縛った。 6
2016-12-08 22:44:36広間の奥、奇怪な法衣を纏ったボロブドゥールの王、シャン・ロアが、鮮血のプールで囲まれた祭壇に物憂げに座して、余興めいてそのさまを眺めていた。サツバツナイトは必死でチャドー呼吸を維持し、勝機を探った。ほんの一瞬の隙をついて、彼は宮殿を逃走した。シャン・ロアは触れさえしなかった。 7
2016-12-08 22:47:40サツバツナイトの燃える視界は、苦悶するセストーダルの魂の形を捉えていた。「アバーッ……!」「もはや勝負あった。セストーダル=サン」サツバツナイトは厳かに言った。「眠れ」カイシャクのチョップを振り下ろし、首を刎ねて、ムカデニンジャ・クランのソウル憑依者の命を閉じた。「サヨナラ!」8
2016-12-08 22:52:33セストーダルは爆発四散した。プロゴ川の風が彼の灰をさらっていった。サツバツナイトはセストーダルの眼球をあらためる。裏側に確かにグレイウィルムと同様の印が刻まれている。彼はそれを懐におさめた。顔を上げれば、川の向こう岸、かつて遺跡であったボロブドゥールは邪悪な金の光を帯びて……。9
2016-12-08 22:57:24「……!」ゲオフィルスはアグラ・メディテーションを解き、眉間に皺寄せて立ち上がった。言い知れぬ感傷が突然沸き起こり、脳の奥と右掌が焼けるように痛んだ。同じ感覚をつい先頃も味わった。後になって、それがグレイウィルムが死した瞬間とわかった。つまりそれと同様……きょうだいの死だ。11
2016-12-08 23:04:57「セストーダル=サン……!」ゲオフィルスは胸壁上に仁王立ちとなり、川向うを注視する。風が彼のドレッドヘアーめいた髪を……ムカデそのものの髪を揺らす。瞳のない黒一色の目が怒りに吊り上がり、巨体が怒りに震える。「返り討ちにあったか……!」彼のニンジャ視力は遠い黒煙を捉える。 12
2016-12-08 23:08:34ボロブドゥール。太古の昔はブッダを祀る巨大な寺院であり、それそのものが宇宙を象徴するマンダラであった。シャン・ロアはそこを自らの宮殿に変え、現地の人々を使役して、石の胸壁で囲み、神秘的な城郭とした。ゲオフィルスらは彼の飛ばす夢に囚われ、集められたニンジャソウル憑依者だ。 13
2016-12-08 23:14:16ゲオフィルスは眠らぬカロウシタイを与えられ、近衛隊長としてこの城を守護している。シャン・ロアの近習を繋ぐのはロウ・ワンの印だ。身体のどこかに印が刻まれ、超自然の加護が与えられている。カラテが向上し、過去に非ニンジャであった頃の欲望はよりニンジャ的なものに変質している。14
2016-12-08 23:19:30シャン・ロア王がゲオフィルスの新たな人生を規定した。力は得たが、なにひとつ幸せは得ていない。人の幸せとはなんと儚いものだろう。今の彼は太古の闇の深さを背後に感じながら、なるべくそれを見ぬように努め、最後の正気を保ちながら、ただ不興をかわぬよう、そればかりを考えている。 15
2016-12-08 23:24:43太古の闇。然り。シャン・ロアは幾らでも新たなきょうだいを連れてくるだろう。印で縛り、使役するだろう。きょうだいがカロウシタイを使うように。サツバツナイト。愚かな男だ。シャン・ロアは一騎打ちに応ずると見せて、敢えて三人にアンブッシュさせた。彼が呪いに屈するさまは快かった。 16
2016-12-08 23:29:09何故ならそれは、シャン・ロアの悪意が確実に他者に向いている瞬間だったからだ。シャン・ロアはサツバツナイトを恐れて罠にはめたのではない。ただ侮辱したかったのだ。そして、ゲオフィルスらの恐怖と高揚を楽しみたかったのだ。ゲオフィルスは最も主人に近い位置で日々を過ごす。ゆえにわかる。17
2016-12-08 23:33:13奴は最終的にシャン・ロアへ再び挑む腹積もりであろうか?その可能性を思い巡らすだけで背筋が粟立ち、怒りが湧いてくる。奴は何故さよう愚かな真似を?王を試すなど、万人の不幸にしかならない。王は今、血を愉しんでいる。王が気分を変える前に、自身の手で必ずサツバツナイトを仕留めねば! 18
2016-12-08 23:40:45