「午前0時の小説ラジオ」・「入試カンニング問題と大学」

「午前0時の小説ラジオ」・「入試カンニング問題と大学」
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高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・予告編1・今晩は、「小説ラジオ」をやります。テーマは、京大(を含む複数大学)でのカンニング問題です。最初にいっておきますが、ぽくに、はっきりした「正解」がわかっているわけではありません。それは、これが「大学とは何か」という問題につながっているからです。

2011-03-06 22:08:14
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・予告編2・ぼくにできるのは、可能な限り考えてみることだけだと思っています。今回は、特に大学教員として、さらに、大学入試に深く関わっている関係者として考えてみるつもりです。そして、この事件とある意味でよく似通ったもう一つの事件と比較をしたいと思っています。

2011-03-06 22:12:18
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」予告編3・それは、去年の(小説の新人賞である)「文藝賞」での「インターネットを利用した「盗作」問題」です。受賞作が「盗作」であるとわかった時、出版社とぼくを含む選考委員がもっとも重視したのは、その作者が不必要なバッシングに会わぬようにすることでした。

2011-03-06 22:16:21
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・予告編4・今晩は、ゆっくり、足元を確かめながら、考えてゆくつもりです。では、24時にお会いしましょう。

2011-03-06 22:21:56
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・「入試カンニング問題と大学」1・いわゆる「京大入試問題漏洩」事件が起きた時、最初にぼくが感じたのは、大学当局やマスコミに対する憤りに似たものだった。けれど、日がたつごとに、ぼくの思いは変わっていった。いったい、彼らを責める資格がぼくにはあるのだろうかと。

2011-03-07 00:20:53
高橋源一郎 @takagengen

「大学」2・この問題ばかりではなく「正解」を出せない、出しにくい問題はたくさんある。だから、ぼくにできるののは、どんなように考えることもできるか、と試みることだけだ。誰もが、自分の「正解」を押しつけようとしているように見えることが、ぼくには少し恐ろしい。

2011-03-07 00:27:38
高橋源一郎 @takagengen

「大学」3・「カンニング」問題を考えるために、ぼくは、まず「大学」とは何か、というところから考える他にはないだろうと感じる。そして、それこそが、この件に関して、「正解」のない最初の問題なのだ。「大学」とは何か、という時、大きくわけて、ふたつの考え方が存在している。

2011-03-07 00:31:14
高橋源一郎 @takagengen

「大学」4・一つは、明治5年の「学制」発布に、「大学」の由来を置くものだ。この時、誕生したばかりの近代国家は、(帝国)大学を、というか東京大学を頂点とする教育制度の概観を提示した。大学は、国家有為の人材を輩出するための機関だった。その上部(大学)は官僚や学者を、下部は「製品」を。

2011-03-07 00:35:18
高橋源一郎 @takagengen

「大学」5・いまもそれは変わっていない。今日のように大学が大衆化してしまえば、上位の大学が「人材」を、下位の大学は、とりかえの効く(工場製品)のような、規格品としての人間を生産することが目的だ。ここで、なにより重要なのは、ここでの「大学」は、完全に社会の一部であることだ。

2011-03-07 00:38:36
高橋源一郎 @takagengen

「大学」6・「完全に全に社会の一部」であるということは、社会と同じ価値観を持ち、社会で流通している法を、そのまま受け入れる、ということだ。と書くと、当たり前のように思える。だが、当たり前ではないのだ。なぜなら、「大学」というものを、もっと別の存在であるとする考えがあるからだ。

2011-03-07 00:41:39
高橋源一郎 @takagengen

「大学」7・もう一つの、「大学」に関する考え(「理念」と呼んでもいいだろう)、それは、中世ヨーロッパに発する考えだ。12世紀のボローニャ大学やパリ大学(さらに遡れば、おそらくはプラトンのアカデミア、さらにもっと)は、「学問」の自由を求めて、ついには独自の裁判権を有するに至った。

2011-03-07 00:46:02
高橋源一郎 @takagengen

「大学」8・ここは大学の歴史を詳しく述べる場所ではないので、詳述しない。けれど、近代国家が自分のために作り出した「大学」と、国家や宗教権力と対抗して、それとは別の独立した存在であろうとした「大学」、この二つの、異なった「理念」が共に存在したまま今日に至ったことは理解してほしい。

2011-03-07 00:50:40
高橋源一郎 @takagengen

「大学」9・たとえば、中世ヨーロッパの「大学」の「理念」を受け継ぐとは、本質的に「知」は社会常識と反することだと知ることだ。どの学問においても、先行する多数派的意見を否定することから、その学問の「革新」は行われた。「知」とは、だから、その社会の原理である多数決の否定なのだ。

2011-03-07 00:55:03
高橋源一郎 @takagengen

「大学」10・一つ例をあげよう。今回、問題を漏洩させた若者は、「偽計業務妨害罪」で逮捕された。そのことをある法学者は「法律的にはなんの問題もない」と書いた。ぼくは、呆れるのを通り越して、悲しかった。「法律的にはなんの問題もない」は、この社会(国家)の論理をそっくり是認することだ。

2011-03-07 00:58:27
高橋源一郎 @takagengen

「大学」11・彼がやったことは100%、「罪」なのだろう。だが、同じように、100%「罪」であるのに、大学においてはほとんば罰されなかった「罪」がある。「偽計業務妨害罪」によく似た、その罪は「威力業務妨害罪」だ。戦後日本の、というか、歴史上のすべての学生運動にそれは登場している。

2011-03-07 01:03:13
高橋源一郎 @takagengen

「大学」12・長い、大学における、学生たちの政治活動において、もっとも頻繁に行われたのがストライキであり、無数の講義が「妨害」された。もちろん、あっさりと「威力業務妨害罪」だと被害届を出して、学生を逮捕させた教官もいる。しかし明白に罪であるのに、被害届を出さぬ教官も多かった。

2011-03-07 01:08:12
高橋源一郎 @takagengen

「大学」13・その理由もまた単純ではない。ただ、彼らは、彼らの「教育」という「業務」が、工場で自動車を作る「業務」と同じだとは考えていなかった。「妨害」もまた、そこで目指されているものが、現状にはなにかだとするなら、「教育」の一部であったかもしれないからだ。それが「大学」なのだ。

2011-03-07 01:11:21
高橋源一郎 @takagengen

「大学」14・確かに、教官と学生の関係、そこでの「講義」への「妨害」が、社会的に「罪」であったとしても、今回のようにまだ大学へも入っていない学生が「入試」で犯した過ちは、「罪」ではないのか。これが、社会的には「罪」であることは、もう述べた。だが、ぼくには、彼を責める気になれない。

2011-03-07 01:14:41
高橋源一郎 @takagengen

「大学」15・それは、現行の「大学入試制度」が、あまりにもお粗末だからだ。「社会」そのものである「大学」、そして、ある種の理想である、「知」を追求する場所としての「大学」、その両方をジキルとハイドのように持つ現実の「大学」が行う入試は、「知」とはなんの関係もない。

2011-03-07 01:18:38
高橋源一郎 @takagengen

「大学」16・機械のようになんでも覚え、この受験というゲームのルールを知っている者が勝つシステムであり、「人材」と「製品」を必要としている社会の役には立つかもしれないが、根本からものを考えるという、もう一つの「大学」の理念とはなんの関係もないシステムなのだ。

2011-03-07 01:22:31
高橋源一郎 @takagengen

「大学」17・ぼくは、大学で、入試に深く関わっていて、それ故、内心忸怩たるものがある。カンニングをなくし、知的好奇心にあふれた学生を受け止める試験方法はある。解答するのに3時間はかかる論文を二つ書かせ、その上で、半日ぐらい面接をすればいい。だが、そんなことはできないし、やらない。

2011-03-07 01:26:25
高橋源一郎 @takagengen

「大学」18・いまも「できるだけ勉強せず、とにかく要領よくやって、高い点だけとればいい」という入試を、ぼくたちは行いつづけている。「カンニングをするな」といいながら、実質的には「カンニングを誘発する」入試が続けられている。関係者として、ぼくも同罪だ。彼を追い込んだのはぼくたちだ。

2011-03-07 01:31:29
高橋源一郎 @takagengen

「大学」19・去年、「文藝賞」という、小説の新人賞で、いったん、「受賞作」と決まった作品が、その後、根本的なアイデアをインターネットから無断でもってきたことが判明して、受賞を取り消される、ということがあった。その賞をバックアップしている出版社にとっては、大きな痛手だった。

2011-03-07 01:36:17
高橋源一郎 @takagengen

「大学」20・その賞の作品は、その出版社にとってもっとも売れるコンテンツだったからだ。その作品がなければ、他の作品が受賞していただろう。だが、(多くの場合)、文学の賞で「繰り上が」」当選はない。出版社は(正確に計算することなど不可能だが)、もしかしたら億単位の損失を出した。

2011-03-07 01:39:19
高橋源一郎 @takagengen

「大学」21・この賞をとることに、全知全能を賭けていた他の候補者も深く傷ついた。だが、最初にも言ったように、出版社も、ぼくたち選考委員も、なにより、その(「盗作」した)作者の情報が漏れ、彼がバッシングにあわぬことを第一に考えた。それは、状況がどのようなものであっても……

2011-03-07 01:43:33