好きな馬がいますか?ver2.0

@glassracetrackさんの秀逸連載をトゥギャりました。
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治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

【競馬をもっと好きになる7つの道】「好きな馬がいますか?」1・私にとって競馬の最大の素晴らしさとは何か?それは、いいものと悪いものの差がはっきり分かる、というところだと思う。正直に言うと、競馬を始めた頃から、同じような感覚はあって―ほとんどは思い込みに過ぎなかったのだが―、

2011-03-14 00:48:08
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「世界」が見える、という言い方をしていた。競馬を通して「世界」が見れるのか、競馬の「世界」がよく見えるのか、そのどちらもなのか、分かっていなかったのだが、なんとなく競馬のことを考え始めると、「世界」がはっきりと見えるような気がしたのは確かである。

2011-03-14 00:54:10
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」3・あれから20年が経ち、もう少し分かりやすく、「いいものと悪いものの差がはっきり分かる」と説明できるようになった。大きな差も分かるし、中ぐらいの差も分かるし、場合によってはものすごく微小な差も識別できる。もちろん、それは私にとってということであり、

2011-03-14 01:01:53
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」4・ただの個人的基準にすぎないのではあるが、その差が分かるのと分からないのとでは、人生の質というものも大きく違ってくるのではないかと思う。村上春樹流に言うと、「価値基準の絶え間ない堆積が僕らの人生をつくっていく」ということである。

2011-03-14 01:06:18
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」5・それは人によって、写真であったり、音楽であったり、ビリヤードであったり、旅であったりするわけだが、私にとっては競馬であったということなのだ。だからこそ、美しいサラブレッドや最高のレース、素晴らしい騎乗、会心の的中に巡り合ったときの喜びは、

2011-03-14 01:12:12
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」6・極端な話、もう死んでもいと思えるほどのものである。いや、これだけ被災者が出ている状況では相応しくない言葉なので言い換えるべきであろう。またそういう瞬間に巡り合うために、なんとしてでも生きていたい、今生きていることの幸せを感じさせてくれるということだ。

2011-03-14 01:17:52
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」7・それでは、競馬がもっと好きになるために、つまり、「いいものと悪いものの差がはっきり分かる」ためのきっかけは、好きな馬ができるということだと思う。そうやって、私たちは競馬にはまってきたのだし、そうあるべきだとも思う。そうすることでしか「世界」は輝かない。

2011-03-14 01:28:29
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」8・好きな馬を人と置き換えて考えてもらってもいい。好きな人がいると「世界」がキラキラと輝くのは、細部を見るようになるからだと思う。好きな人にまつわる細部からあらゆるものにおける細部まで、驚くべきほどの鋭さをもって、はっきり感じることができるようになる。

2011-03-14 01:35:18
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」9・その鋭さは、私たちに最上の喜びを与えるだけではなく、時には傷つけることもあるし、悲しみに暮れさせることもあるだろう。喜怒哀楽のあらゆる感情が現れては立ち消える。そういう過程を経て、私たちはものが見えるようになる。ものが分かるようになる。

2011-03-14 01:45:57
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」10・私はヒシアマゾンという馬に競馬の素晴らしさを教えてもらったと言えるだろう。ヒシアマゾンは私が今までに好きになった馬の中でも、最も喜怒哀楽を一緒に味わった馬だからだ。今でも、ヒシアマゾンの走ったひとつひとつのレースを思い出すだけで、胸が熱くなる。

2011-03-14 01:52:29
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」11・私がヒシアマゾンに初めて出会ったのは、1993年の暮れに行われた阪神3歳牝馬S(現在の阪神ジュベナイルF)であった。まだ1勝馬であったヒシアマゾンだが、前走、京成杯3歳Sで牡馬を相手に2着した実績が買われて、シスターソノに次ぐ2番人気に推されていた。

2011-03-14 01:58:21
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」12・ちなみに、シスターソノはあのロジータ(南関東の3冠を制した名牝)の仔である。2戦2勝で負けなし。3番人気には2連勝中のタックスヘイブンが続き、レベルが高い混戦であった。私はたまたまヒシアマゾンの単勝を買った。なぜかどうしても理由は思い出せないのだ。

2011-03-14 02:10:28
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」13・当時はまだ競馬を始めて3年目。私なりの理由があってヒシアマゾンを買ったのだろうが、今となっては思い出せないほどだから、明確な理由などなかったのかもしれない。レースはスタートし、単勝馬券を片手に握り締め、私はヒシアマゾンだけを見た。

2011-03-14 02:18:09
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」13・第4コーナーでの手応えは、今でも鮮明に蘇ってくる。中館英二騎手を背に、他馬とは全く違う脚色とフットワークで、第4コーナーを回ってきたのだ。あの瞬間のヒシアマゾンの馬体と中館英二騎手が被る帽子の黒さ、バンテージの白さと青のラインがまるで生きもののよう。

2011-03-14 02:25:29
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」14・私は競馬を始めて3年目にして、1頭の牝馬に完全にノックアウトされたのだ。私が見てきた中でも最高に強い馬だ。この馬にどこまでもついて行こう。2歳牝馬のG1レースをひとつ勝っただけにもかかわらず、この馬より強い馬はいないと確信したのだから恐ろしい。

2011-03-14 02:32:59
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」15・ヒシアマゾンの単勝は5.2倍もついた。“も”ついたのだ。そこから私たちの冒険は始まった。私の隣にいた青森出身の友人は、ケイアイメロディとの馬連を買ってハナ差で馬券を外した。ハナ差でお金を失うことの不条理をひと晩考えた挙句、競馬をやめてしまった。

2011-03-14 02:43:09
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」16・阪神3歳牝馬Sを5馬身差で圧勝したヒシアマゾンは、外国産馬(マル外と呼ばれた)として一気に頂点に立った。が、当時は外国産馬にはクラシックレースへの出走権が与えられていなかった。ヒシアマゾンはあんなに強いのに、桜花賞もオークスも出られなかったのだ。

2011-03-14 22:48:56
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」17・クラシックに出走できないことが、サラブレッドにとってどれだけ大きな意味を持つのか、その頃の私には分からなかった。オグリキャップのことも、マルゼンスキーのことも、そのあたりの事情は良く知らなかった。もし知っていたなら、こう言っていたに違いない。

2011-03-14 23:09:13
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」18・「大外枠でもいい。賞金なんか貰わなくていい。他の馬の邪魔もしない。この馬の力を試したいからヒシアマゾンに桜花賞やオークス、いや日本ダービーを走らせてくれ!」と。何の根拠もなかったが、それぐらい強い馬だと信じ切っていた。

2011-03-14 23:12:18
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」19・その年のクラシックには、牡馬はナリタブライアン、牝馬はチョウカイキャロルという最高に強い馬がいた。それでも、ヒシアマゾンが負けるはずがないと思っていた。さすがに、ナリタブライアンが皐月賞で超ハイペースを前々で追走し、直線で後続を突き放した時以外は。

2011-03-14 23:33:42
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」20・あの皐月賞はナリタブライアンのベストレースだと思う。まだ観ていないのなら観るべきである。今まで、あれほどの勢いで皐月賞を勝った馬はいないだろう。それほど完成度が他馬とは違っていた。ヒシアマゾンを溺愛していた私は、ナリタブライアン恐るべしと警戒した。

2011-03-14 23:38:34
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」21・もう1頭のチョウカイキャロルも実に強い牝馬であった。栗毛と流星がきれいな牝馬で、見かけからは想像がつかないが、父ブライアンズタイム、母父Mr.Prospectorという血統を絵に描いたような、力強くて地脚の強い馬だった。

2011-03-14 23:45:15
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」22・桜花賞こそ間に合わなかったが、忘れな賞を制して、オークスへと駒を進めた。オークスではオグリキャップの妹オグリローマンに次ぐ2番人気に推され、その期待に応えるように、横綱相撲で着差以上の完勝であった。私はヒシアマゾンの良きライバルの誕生に微笑んだ。

2011-03-14 23:50:40
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」23・余裕綽々の私を後押しするように、ヒシアマゾンは優雅に勝ち続けた。京成杯こそビコーペガサスに負けはしたものの、その後、裏街道を3連勝して春シーズンを締めくくった。この3連勝の中に、あの追い込み列伝にもよく登場するクリスタルカップがある。

2011-03-15 00:02:46
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」24・今、改めてそのレースを映像で観てみたときの感覚と、当時、私が生で観たときのそれを比べると、何かが大きく違う。「来る、来る」と思いながら観るのと、何も知らずに観たのとの違い。タイキウルフが逃げ切った「ああっ」と思ったその瞬間、「あっ」と風が吹いたのだ。

2011-03-15 00:11:41
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