マスメディアの「無言の禁忌」について

@hirougaya氏によるマスメディアの「無言の禁忌」について。マスメディアの商業的な側面によって発生したタブーが、いかにマスメディアから発信される情報に影響を与えるのか。
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烏賀陽 弘道 @hirougaya

残念ながら(多くの期待に反して)被災者が抱く感情は「悲しみ」「嘆き」「悔しさ」「無力感」などだけではなく「怒り」など攻撃的な部分もあります。それも記録されているのです。

2011-03-20 02:00:30
烏賀陽 弘道 @hirougaya

マスコミは「読者が読みたい被災者像」「読者が期待している被災者像」に記事を合わせようとしますので、記事は空想的(=頭で考えたような)あるいは非現実的なものになっていきます。

2011-03-20 02:02:05
烏賀陽 弘道 @hirougaya

その「被災者像」は往々にして「被害者像」「弱者像」というステレオタイプに落としこまれていきます。そこでは「被害者」「弱者」は「P被害者」「Q弱者」(P、Q=経済、犯罪、情報、過疎、交通事故、冤罪など)という「マスコミ的現実」(読者が期待する、読みたいような現実)への姿を変えます。

2011-03-20 02:05:48
烏賀陽 弘道 @hirougaya

「読者が読みたい現実」というのは「読者が読みたいとマスメディアが思っている現実」と言ったほうが正確かもしれません。

2011-03-20 02:06:33
烏賀陽 弘道 @hirougaya

「P被害者」「Q弱者」(P、Q=経済、犯罪、情報、過疎、交通事故、冤罪など)という「マスコミが描写する現実」は「障害者像」に非常に象徴的に表現されています。

2011-03-20 02:16:38
烏賀陽 弘道 @hirougaya

マスコミが描く「障害者」像はきわめて宗教的ともいえるほど禁欲的で、道徳的です。飲んだくれ、イヤな性格(傲慢、差別的、冷笑的)、女好き、カネに汚い、鬱的、暴力、ファッショナブルである、などの障害者は描かれません。

2011-03-20 02:19:56
烏賀陽 弘道 @hirougaya

おそらくマスコミがこれから報道していく「東日本震災被災者像」も「障害者像」と類似していくでしょう。禁欲的で、道徳的。飲んだくれ、イヤな性格(傲慢、差別的、冷笑的)、女好き、カネに汚い、鬱的、暴力、ファッショナブルである、などの被災者は描かれない可能性が高い。

2011-03-20 02:21:22
烏賀陽 弘道 @hirougaya

阪神大震災では「被災者の下半身」というのは実は切実な問題だったこともあります。トイレの不足でぐちゃぐちゃになった公衆トイレ、女性の生理用品の欠乏、突然プライバシーが乏しい空間に放り込まれてセックスやオナニーが自由にできなくなった、風俗産業が壊滅した、など。

2011-03-20 02:23:29
烏賀陽 弘道 @hirougaya

日常生活とは、こうした「マスコミ的現実から意図的に省かれた窮乏」がとてつもない障害になることが多いのです。そして、そうした問題は「公的論点」から除外されるため、「ひそひそ話」のたぐいに落とし込まれます。

2011-03-20 02:24:56
烏賀陽 弘道 @hirougaya

しかしよく考えてみると、マスメディアが提示する現実とは、障害者や被害者に限らず、飲んだくれ、イヤな性格(傲慢、差別的、冷笑的)、女好き、カネに汚い、鬱的、暴力など「ネガティブであると判断される」人物像は(警察に逮捕された人など省いて)登場しません。

2011-03-20 02:30:11
烏賀陽 弘道 @hirougaya

よって、マスコミが提示する現実は、障害者や被害者であろうと、その反対であろうと、非現実的で空想的であるという点では同じです。

2011-03-20 02:31:16
烏賀陽 弘道 @hirougaya

これは「事実を報道する」という報道の原則からすれば奇妙な逸脱です。そこに書いてあることは事実なのに、それが形成する認識は極めて非現実的なのです。

2011-03-20 02:31:46
烏賀陽 弘道 @hirougaya

意外に聞こえるかもしれませんが、これは商業マスメディアが自分たちの紙面や番組を「商品」として認識している、という「経済原則」による部分が大きい。

2011-03-20 02:33:00
烏賀陽 弘道 @hirougaya

余談。河合香織さんの「セックスボランティア」はそういう障害者像が蔓延する中に「障害者だって性欲がある。女と(男と)ヤリたいんだ」という現実を書いて鮮烈でした。

2011-03-20 02:35:38
烏賀陽 弘道 @hirougaya

私が警察記者をしていた新人時代、逮捕された人の顔写真を新聞に掲載するかどうかデスクに相談したら「そんな不細工な顔を載せたら紙面が汚れる」と言われたことがあります。

2011-03-20 02:37:13
烏賀陽 弘道 @hirougaya

私がアエラで「包茎治療は不安商法だ」という記事を書いたとき、同じ朝日の地方支局の裁判所担当の若い記者から相談の電話をもらいました。やはりその県(四国)でも包茎治療の被害者がいて、民事訴訟になった。それを記事にして社会的被害を訴えようとしたら、デスクに(つづく)

2011-03-20 02:38:54
烏賀陽 弘道 @hirougaya

(つづき)「わが社(朝日新聞)の紙面に『包茎』という言葉は掲載できない」とボツにされた、というのです。つまり、そのデスクの価値観では、医療被害者を報道することより、紙面に「禁句」を掲載しない「品質管理」のほうが優先されるということになります。

2011-03-20 02:40:42
烏賀陽 弘道 @hirougaya

これは恐ろしい発想で、病気の種類がマスメディアのいう「禁句」(性器、肛門など)なら、その人々は公的議論には入れてもらえないということになります。これは恐るべき差別的発想なのです。おそらく、昔はハンセン氏病など「禁忌」の対象だった病気がそうだったのではないか。

2011-03-20 02:43:26
烏賀陽 弘道 @hirougaya

「こんな夜更けにバナナかよ」の主人公は、人工呼吸器(タン取り)がないと生きて行けないのに、傲慢で殿様体質のイヤなヤツの障害者で痛快です。

2011-03-20 02:45:21
烏賀陽 弘道 @hirougaya

脱線。こうした「禁忌の領域」が商業マスコミにあるのは、そうした「現実」を記事にすることによって「紙面が汚れる」(あえて言葉を強めれば、ですが)という発想があります。

2011-03-20 02:46:52
烏賀陽 弘道 @hirougaya

実は、マスコミのタブーとはこうした領域こそがもっとも問題になるタブーなのです。天皇陛下とか右翼とか部落解放同盟とかは、目くらましでしかない。ソッチの方に目がそれているうちに、どんどん「本当の禁忌」は拡大しています。

2011-03-20 02:48:04
烏賀陽 弘道 @hirougaya

端的にいえば、マスメディアがこうした「禁忌」を持っているのは、記事そのものが媒体という商品を直接構成しているからです。「記事=ブランド価値」といってもいい。

2011-03-20 02:50:38
烏賀陽 弘道 @hirougaya

しかし、ここには極めて深刻な問題が隠れています。「現実」を「媒体/メディア」という商品の価値で「報道する/しない」を決定していいのでしょうか?公的議論の対象とする/しない(アジェンダとする/しない)を決定していいのでしょうか?

2011-03-20 02:52:03
烏賀陽 弘道 @hirougaya

実は、新聞やテレビの記事/番組が「つまらない」「おもしろくない」「平凡」「凡庸」「いつも予想の範囲」「似たり寄ったり」なのは、こうした「禁忌の領域」が無原則に拡大した結果、「非禁忌の領域」が極端に小さくなってしまったからともいえます。

2011-03-20 02:53:44
烏賀陽 弘道 @hirougaya

もし報道が「現実」「事実」「真実」に忠実なのなら、メディアの禁忌=ブランド維持のための基準線という商業的判断と、「報道」の判断は、隔絶しているのが当然です。しかし実際はそうなってはいない。

2011-03-20 02:55:59