ニンジャスレイヤー二次創作 『ザ・ナイツ・オブ・ガンズ・アンド・アイリス』 #1

@NJSLYR で大人気連載中、ブレッドレー・ボンド=サン&フィリップ・モーゼズ=サン作のサイバーパンク・ニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』の二次創作。主に自分用備忘録。
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にるば @nirvanaheim

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:なんの変哲もない保険代理店のごく平均的なサラリマンであるマキタ=サンは、いつものようにコミューター=チンチン=トレインの駅へ向かってサビス残業で疲れた身体を急がせていた。

2011-04-06 18:49:15
にるば @nirvanaheim

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:その時、彼の視界の隅に、昨日までは無かったはずの辻占い師の屋台が引っかかったのだ。

2011-04-06 18:50:20
にるば @nirvanaheim

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:粗末な木の看板には、“アタルもハッケヨイ””ほとんど確実”といったありふれた煽り文句が、黒ペンキと毛筆によるマッポーめいた書体で殴り書きされている。

2011-04-06 18:51:42
にるば @nirvanaheim

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:いつもならこんなオカルト・スパスティシャスめいたものには手を出さないマキタ=サンだが、帰り道にひっかけた合成ドブロクの粗悪なアルコールが、彼の理性を眠らせていたのかもしれない。

2011-04-06 18:52:21
にるば @nirvanaheim

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:「ひとつ、頼めるかい、ばあさん」マキタ=サンは、合成ドブロクの釣銭を、薄汚れたミコ=ローブを羽織った妖しげな老婆の前に無造作に投げ出したのだった。

2011-04-06 18:52:48
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:「ファッファッファッ」艶の失せた白髪をミズラ・スタイルに結った老婆は、所々歯の抜けた口を開けて笑った。「アタシに目をつけるとはお目が高いね。これでも昔は、『ネオサイタマの母』なんて呼ばれたセンリガンだったのさ」

2011-04-06 22:00:49
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine@FroisL:そのウメボシめいた顔に刻まれた深い皺の数々は、顔面の表面積を2、3倍に引き上げ、老婆の経てきた年季をものがたっている。「何を視るかい、お兄さん。それによって道具も変わる。手相に水晶玉、洋物だがタローなんぞも使えるよ、アタシゃ」

2011-04-06 22:05:26
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「そうだな・・・・・・」マキタ=サンはしばし逡巡し、言った。「何でもいい。俺には占いのことなんか良く判らないし、ばあさんが一番得意なやつで頼むよ。追加料金が必要かい?」さらに一枚、すすけたコインをベニヤの台に載せる。

2011-04-06 22:07:55
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「ファッファッファッ」老婆は再び、所々歯の抜けた口を開けて笑った。「いまどきの若者にゃ珍しく、年寄りに対する礼儀を弁えてると見えるね。いいだろう、とっておきのヤツで占ってやろうじゃないか」そう言って足元の容器から取り出したのは・・・タコヤキ?

2011-04-06 22:11:36
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「おい、ばあさん、これは」戸惑いを隠せないマキタ=サンに、老婆はタコヤキのパックを突きつけた。容器に保温機能があるのだろう、まだうっすらと湯気が立っていて、たっぷりまぶされたカツブシとアオノリがふわふわと踊っている。「タコヤキ占いさ。ひとつ選びな」

2011-04-06 22:13:26
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine マキタ=サンはキツネにつままれたような顔のまま、言われるままにバイオバンブー製のクシを手に取った。マキタ=サンは生真面目な事以外にこれといって取り得のないごく普通のネオサイタマ市民であり、殆どの者がそうするように、並んだタコヤキは端から食べる。

2011-04-06 22:16:05
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine だがその日は何故か、普段通りの食べ方をする気にならなかった。8つ並んだタコヤキ、まず中央の4つに目星をつけ、やや小ぶりな右下の球にクシを突き刺して口の中に放り込む。まずカツブシとアオノリ、次いで食べなれたソースの風味が広がり「・・・・・・ウッ!?」

2011-04-06 22:20:07
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 生クリームだった。カリっと焼き上がった皮の内には、本来あるべきとろみのある生地ではなく、甘ったるい生クリームが詰まっていたのだ。免罪符の如く、大きめのタコがちゃんと入っていたが、この破壊的味覚に晒されたマキタ=サンにはなんの慰めにもなるはずがない。

2011-04-06 22:23:29
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「ブ、ブッダ!」マキタ=サンは苦情処理の仕事で培った自制心を最大限に発揮し、口中のシロモノを路上に吐き出したい衝動をかろうじてこらえた。「ファッファッファッ!」みたび、所々歯の抜けた口を開けて笑う老婆を、涙の滲んだ目で睨みつける。

2011-04-06 22:27:30
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「ばあさん、ふざけてるのか。こっちは真面目に」「焦りなさんな。お代を頂いた以上、仕事はきっちりやるとも。なんたってアタシゃ『ネオサイタマの母』だからね」マキタ=サンの小銭を、ミコ・ローブの袂に仕舞うと、ウメボシめいた皺の奥で老婆の瞳が鋭くなる。

2011-04-06 22:31:11
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「お兄さん、アンタはクシを刺す前に少し迷った、そうだね? いつも端から食べてるのに、今日はそれじゃつまらないと思ったからだ」アタリだ。「で、見事、1つしかない生クリームタコヤキを引き当てた。こいつの意味する所はだね」

2011-04-06 22:33:27
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine マキタ=サンはいつしか、身を乗り出して老婆の言葉に聞き入っている自分に気付いた。頭のどこかでくだらないと思いながらも、与太話だと笑い飛ばせない荘厳な雰囲気が老婆の語る占いにはあったからだ。「――今夜は、いつもとは違うことが起こるよ」

2011-04-06 22:35:37
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「いつもとは違う選択をしたお前さんのクシが、その未来を示している。そして、甘いタコヤキ」じゃらん、と、老婆の手首でビーダマめいた数珠が鳴る。「生クリームは甘い。だがタコヤキの中に混じってたら罠だね。甘い罠。そう、女だ。女難の相が出てるよ、お兄さん」

2011-04-06 22:38:07
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine マキタ=サンはコミュータ・チンチン・トレインを降りた。(女難の相だって。何をバカな)自慢ではないがマキタ=サンはモテない。運動も勉強もそこそこ以上のものではなかったハイスクール時代も、サラリマンになってからも、彼女などついぞ出来たことがないのだ。

2011-04-06 22:41:37
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine マキタ=サンは最寄駅から自宅までの15分程度の夜道を歩く。(結局、マズいタコヤキを食わされただけ損だったか)もう、あと20分で日付が変わる。家に帰ったらシャワーを浴びて眠り、夢もろくに観ないまま目覚めて、代わり映えのない明日が始まるのだ。

2011-04-06 22:43:39
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine いつもと違うことなど、何ひとつ起きない。前をゆくOLがマキタ=サンを不審者と勘違いして脚を早めるのも、いつも前を通る家の飼い犬が何故か敵意をこめてマキタ=サンに吠えかかるのも、全ていつも通りだった。

2011-04-06 22:46:31
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine マキタ=サンは払ったコインの重さ以上の落胆を胸中に抱きながら、自宅である古ぼけたアパートに辿り着いた。吝嗇な管理人による節約の結果、1つおきにワザと切らしてある蛍光灯が、殺風景な廊下を薄暗く照らし出す。何の変わり映えもしない風景。そのはずだった。

2011-04-06 22:50:14
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine はじめは、酔っ払った隣人のサラリマンが倒れているのだと思った。だが、薄暗い蛍光灯の明かりの下でも、丸みを帯びた腰や後ろで束ねた長い髪がはっきりと視認できて、マキタ=サンは自室のドアの前でうつ伏せに倒れているのが女であると認識するに至った。

2011-04-06 22:54:50
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine 「お、おい、アンタ! 大丈夫か!」営業カバンを放り出し、マキタ=サンは駆けよった。駆けよって、倒れている女が奇抜な装束に身を包んでいるのに気づく。袖のないキモノに短いスカート、腕と脚はクサリカタビラめいたメッシュで包まれていた。

2011-04-06 23:00:24
フロイス @FroisL

#NJSLYR_Fanzine そして女の装束より奇抜だった点が3つあった。顔が仮面舞踏会めいたメンポで隠されていたこと、背中に明らかにジュートーホー違反の刀を背負っていたこと、最後に腹部に開いた裂傷から流れ出る血で、全身が朱に染まっていたことだ。「ブ、ブッダ!」

2011-04-06 23:03:40