ビンラディン殺害を巡る日米の受け止めの相違を巡る考察

ビンラディン殺害を巡り、日米間には①殺害という手法は法的・道義的に妥当だったのかという問題、②殺害を賞賛し歓喜する米国人に対して日本人の一定数が感じるらしいある種の違和感に関する問題、の二点において受け止め方に相違があるように感じられる。その相違についての考察。
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fj197099 @fj197099

ビンラディン殺害に関してもしかしたら日米では相反する受け止め方があるのかもしれない。問題は大きく分けて二つあるが一つ目は殺害という手法は法的・道義的に妥当だったのかという問題、二つ目は殺害を賞賛し歓喜する米国人に対して日本人の一定数が感じるらしいある種の違和感に関する問題である。

2011-05-05 17:12:43
fj197099 @fj197099

一つ目の殺害が法的・道義的に妥当だったのかという問題は、所謂「正戦」論で言うところの「戦争における正義(jus in bello)」の問題である。これは国際法上の問題を孕み、簡単には答えられないが、米国としては一応法的正当化が可能だと十分判断しての殺害という結果と推測できる。

2011-05-05 17:14:42
fj197099 @fj197099

米国に限らずあらゆる国家でそうであるが、特に米国では特定の軍事行動が国際法又は国内法に違反しないかどうかを考慮する軍の法律顧問というものがきちんと存在し意思決定者に法律上のアドバイスをする。今回どのような法的正当化が行われたかはおいおい取材もされていくだろうが一定の想像は可能だ。

2011-05-05 17:17:31
fj197099 @fj197099

すなわち米国は現在ビンラディンを匿ったタリバーン政権に対して自衛権を発動した武力行使を継続中である(「不朽の自由作戦=OEF」)。この観点から言えばビンラディンはタリバーン政権と共に米国の自衛権発動の原因を作った交戦当事者なのであり武力行使における正当な標的とみなされる事になる。

2011-05-05 17:21:18
fj197099 @fj197099

これはすなわち相手が非武装であっても、正当防衛や緊急避難の形を採らなくても、殺害は正当な行為として容認されるということである。もちろん相手が投降の意思を示せば戦時捕虜(POW)としての扱いを約束しなければならない訳だが、今回ビンラディンは武装はせずとも投降はしなかったという話だ。

2011-05-05 17:23:54
fj197099 @fj197099

「ビンラディンが武装をしていない」というのもおそらくは殺害後に判明した結果論なのであり両手を完全に上げて投降の意思を示すのでもなければどこに武器が隠されておりどんな反撃を受けるか判らない。突入時、他での銃撃戦が続いていたとされており、特殊部隊には咄嗟の判断が迫られてもいただろう。

2011-05-05 17:27:02
fj197099 @fj197099

こうした事情を考慮すれば少なくとも「戦争における正義」の観点や交戦規定(ROE)の観点からビンラディン殺害を非難するのは難しいだろう。もちろん、これはおいおい詳細が判明し法的検討が整理されてから確定する話ではあるが。

2011-05-05 17:28:54
fj197099 @fj197099

また、付け加えればこの作戦はパキスタンの主権侵害であることは間違いない。米国はパキスタンにははっきり事前通告していないと言っており、パキスタンは事前同意をしていないことは明白である。よって米国の作戦が主権侵害であることは確かで、この点では法律上の問題が惹起する余地がある。

2011-05-05 17:30:00
fj197099 @fj197099

しかしこの主権上の問題も多面的な観点から考察すべき話である。そもそもパキスタン政府が国内の対テロ活動にきちんと取り組んでおれば米国も情報漏れを懸念することなく作戦をパキスタン軍との調整の上で行うことが出来たろう。あまつさえ現在パキスタンはビンラディンを支援していたと疑われている。

2011-05-05 17:31:43
fj197099 @fj197099

タリバーンとアルカイダは米国の正当な交戦相手(自衛権発動の対象)であるが、パキスタンはずっと彼らを裏で支援しているのではと疑われて来た。これが事実なら「テロリストを匿う国もテロリストと同じ」なのであるから、パキスタンも米国の自衛権発動の対象になりかねないのである。

2011-05-05 17:33:18
fj197099 @fj197099

無論状況はそこまで至っていないが、問題はパキスタンがタリバーンやアルカイダ掃討について十分な努力を行っていなかったことである。国内の能力の限界から自国内の国際テロリストを掃討できないならそのような国にあらゆる外部からの干渉行為を排除する十全な主権を認めるべきか否かには議論がある。

2011-05-05 17:35:27
fj197099 @fj197099

ある国家が主権的権利を主張するなら同時に果たさねばならない義務というものがある。国内で人権侵害をしない、というのはその一つだが(人道的干渉の論理と関連)、テロリストの活動やWMDの拡散をきちんと防ぐ、というのも重要な要素である。出来なければ外部からの干渉があってもやむを得ない。

2011-05-05 17:37:24
fj197099 @fj197099

この観点から言えば今回の軍事行動をパキスタンの主権侵害だと一方的に主張することには限界がある。すなわちパキスタンは国際テロリストの掃討という主権に伴う責務を十分に履行してこなかった。この結果としてパキスタンの主権は外部からの軍事干渉に対して一定の制約を受けざるを得ないという訳だ。

2011-05-05 17:39:08
fj197099 @fj197099

長くなっているが、二つ目の問題、すなわち殺害を賞賛し歓喜する米国人に対して日本人の一定数が感じるらしいある種の違和感、に移りたい。今回、やや意外だったのは相当数の日本人がビンラディン殺害に歓喜する米国人に対して「ぞっとする」「はしゃぎすぎ」などの違和感を感じているらしいことだ。

2011-05-05 17:40:35
fj197099 @fj197099

以下の毎日新聞北米総局長の見解(http://bit.ly/mauC6n)はその一つだが、要するにごく単純に米国人は人の死がそんなに嬉しいのか、という違和感を日本人として感じる所があるのであろう。これは文明論的な相違に係る問題でもあるが、日本人はやや米国人を誤解してもいると思う。

2011-05-05 17:55:28
fj197099 @fj197099

私の見るところ米国人は別にビンラディン個人の死を喜んでいる訳ではないと思うからだ。そうではなく彼らはビンラディンという人物が体現していた無差別テロの恐怖、アルカイダの脅威に象徴的な終止符が打たれたということを喜んでいるのである。

2011-05-05 17:57:21
fj197099 @fj197099

すなわちビンラディン殺害は米国人にとっての戦勝記念日なのである。1945年にヒトラーが死んで第二次大戦が終わった時、1953年にスターリンが死亡して朝鮮戦争が終結する見通しが立った時、ビンラディン殺害はこれらと同様の戦闘終結、出征した兵士=家族の帰還のきっかけとなる出来事なのだ。

2011-05-05 17:59:52
fj197099 @fj197099

そう考えればビンラディン殺害と対テロ戦争終結への期待の高まりは米国人にとって極めて個人的なエモーショナルな要素の強い出来事だという事が理解できるのではないか。10年掛かったがようやく米国を恐怖の状態においていた無差別テロの悪の元凶が退治され、戦争は終わり家族が帰ってくるのである。

2011-05-05 18:03:07
fj197099 @fj197099

こうした出来事であるから米国人が「正義は成就された」と歓喜に沸くことを私としては非難できない。それは単に個人の死を喜ぶ態度ではないと思うからだ。それを非難するならヒトラーやスターリンの死により戦争終結を祝った過去の米国人の態度も非難せねばならない。だがそれはおそらく無意味だろう。

2011-05-05 18:07:42