長編小説執筆における『描写』の分類と時系列

鳥山仁(@toriyamazine)氏のTweetを中心に。 類似・関連まとめ:  鳥山仁先生の「フィクションとノンフィクションの文章作法」   http://togetter.com/li/110004 続きを読む
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鳥山仁 @toriyamazine

(1)娯楽に限らず、長編小説における文章の上手い・下手を判断する方法はそれほど難しくない。文章を仮にA・情景描写、B・行動描写、C・心理描写と分類して、あるシーンから次のシーンに切り替わる際に、行動描写をつなぎとして使っているかどうかを見ればいい。

2011-05-22 05:25:48
鳥山仁 @toriyamazine

(2)文章の下手な作家は、ほぼ例外なく心理描写をシーンの切り替えのつなぎに使う。だから、行動描写に意味が無くなり、ページを稼ぐための文字の羅列になる。上手い作家は、キャラクターの行動が次のシーンを「引き起こす」ように書けるので、文章に途切れ目がなく、滑らかな読み味になる。

2011-05-22 05:30:32
鳥山仁 @toriyamazine

(3)行動描写をシーン毎の「つなぎ」に利用できると、ストーリーの展開を時序列通りに書き進めることが可能になる。ところが心理描写をシーン毎の「つなぎ」に利用すると、キャラクターの=作家の思いついた順序に話が展開してしまうため、ストーリーの時間序列がぐちゃぐちゃになってしまう。

2011-05-22 05:39:36
鳥山仁 @toriyamazine

【自分用メモ】前にもツイートしたが、物語を偶然・必然のスペクトラムで分類する方法と、キャラクター重視・事象重視のスペクトラムで分類する方法を、X軸・Y軸で表現することは可能か? その代表としてヒッチコックが言っていたように、サスペンスとミステリで説明することは可能か?

2011-05-23 16:49:14
前河原正之助 @kkb0023

@toriyamazine 文章の下手な作家は、とあるのですけれども、これからのお手本といたしく、個人情報で発表できないとは存じますが、ご教示頂けると。文章の下手で食えるのは超天才かと。

2011-05-29 16:19:23
鳥山仁 @toriyamazine

@kkb0023 いや、文章が下手な作家はいっぱいいますよ。大手出版社は専門の校正を雇っているんで、出版物になった段階でそれなりに体裁が整ってるだけです。絵描きと違って、作家の大半はストーリーを書きたい「だけ」なんで、文章単独の練習をすることはまずないのが原因です。

2011-05-30 19:55:48
前河原正之助 @kkb0023

@toriyamazine  文章が下手な作家はいっぱいいますよ。作家の大半はストーリーを書く、要するに、スケッチから基本設計へですな。

2011-05-30 21:00:50
鳥山仁 @toriyamazine

@kkb0023 プロの作家でも大半は情景描写が下手です。これは、風景を見てそれを文章に起こすという練習を全くしていないからです。次に下手なのは行動描写で、これは人間の身体の動きを分解して時系列順に説明する練習をしない事に起因します。

2011-05-31 02:10:11
鳥山仁 @toriyamazine

(1)詰まらない話で、読者を惹きつける有効な方法は1つしかない。それは「情報を隠す」だ。ミステリはその典型で、殺人事件(あるいは単なる事件)の犯人と犯行動機、犯行の方法を「隠す」。こうすることによって、読者の興味(もしくは知的好奇心)を刺激して、「続きを見たい」と思わせるわけだ。

2011-06-01 03:23:19
鳥山仁 @toriyamazine

(2)もしも、最初から犯人も犯行動機も犯行の方法も分かっていたら、大半の読者の気を惹くことは難しいのは自明の理で、これを避けたい場合は「犯人が捕まるか逃げ切るか?」を主題にしなければならない。ミステリの世界では、これを「倒叙」と呼ぶが、実は娯楽作品としてはこちらが正統である。

2011-06-01 03:28:58
鳥山仁 @toriyamazine

(3)こちらはジャンル的に「サスペンス」と呼ばれるもので、その語源は「宙ぶらりん・どっちつかず」を意味するsuspendという説がある。両者の違いを上手に説明したのは、著名な映画監督であるアルフレッド・ヒッチコックだ。彼は「爆弾」のたとえでミステリとサスペンスの区分をした。

2011-06-01 03:33:59
鳥山仁 @toriyamazine

(4)ヒッチコックによれば、ある場所に爆弾が仕掛けられていたとして、その爆弾を「誰が仕掛けたのか?」がテーマになるのがミステリで、「その爆弾が爆発するのか? あるいは未然に止められるのか?」がテーマになるのがサスペンスである、ということになる。繰り返しになるが、この説明は上手い。

2011-06-01 03:36:23
鳥山仁 @toriyamazine

(5)この両者は、一見すると水と油の関係だが、必ずしも1つの作品に2つの要素が入らないというわけではない。たとえば、殺人事件が次々と起こり「誰が次に殺されるか分からない」という状況下で犯人とその犯行方法、動機も調べなければならない、という作品は創れるし、また複数の作品が存在する。

2011-06-01 03:48:19
鳥山仁 @toriyamazine

(6)ただし、その際にできる限りやらなければならないことがある。それは、ストーリーの時序列を可能な限り事件が起きた順番に並べる、というものだ。要するにサスペンスは「爆弾が爆発するかどうか?」によって興味を惹く方法なので、最初からその結果が分かっていたら意味が無くなってしまうのだ。

2011-06-01 04:06:33
鳥山仁 @toriyamazine

(7)ところが厄介なことに、情報を隠す最も手っ取り早い方法は「時序列を滅茶苦茶にする」なのだ。たとえば、殺人事件が起きてから探偵が現地にやってくる、という展開のミステリの場合、最初に起きた事件の概要は後から犯人、もしくは探偵によって語られるという感じで時序列が逆転している。

2011-06-01 04:25:44
鳥山仁 @toriyamazine

(8)この方法を、もっと大胆に使用すると、最初に印象的な事件を書いておいて、次の章から時間を「巻き戻して」その事件が起きた経緯を語れば、トリックやアリバイなどのパズル的な要素が全くなくてもミステリが「成立」してしまう。これが、娯楽小説における時序列問題だ。

2011-06-01 04:30:51
鳥山仁 @toriyamazine

(9)時序列問題が何で「問題」なのかというと、これがあまりにもお手軽すぎて、すぐに手品のタネが読者にばれてしまうことだ。先述のように、詰まらない話で読者の興味を惹く有効な手段は、情報の欠損を作り、そこに話の焦点を当てていけばいいわけだが、これを時序列の倒置でお手軽にやっていると…

2011-06-01 04:41:56
鳥山仁 @toriyamazine

(10)…読者も馬鹿じゃないので、二冊目、三冊目で「またこの手口かよ」となって、購入リストから外してしまうのである。つまり、待っているのは廃業という厳しい現実で、長続きしなかった作家の大半が、実はこのメソッドで作品を創っている。もちろん、処女作でこの方法を使い……

2011-06-01 04:47:29
鳥山仁 @toriyamazine

(11)……大ヒットを飛ばした作家は例外で、順調にパイは縮小しても食っていける可能性が残っているが、それ以外の作家は「何か一工夫」をする必要がある。ライトノベル系で、この「一工夫」が恐らく最も上手いのは榊一郎だろう。時序列をひっくり返したがる傾向のある作家には参考になる作家だ。

2011-06-01 05:04:27
鳥山仁 @toriyamazine

(13)ただ、それでも時序列を倒置させることによって、情報の欠損を作り、同時にオープニングにインパクトのあるシーンを持ってくることによって、読者の興味を惹くという方法はリスクが高い。その理由は「読みにくくなる」で、これもこのタイプの作家に共通した問題点だ。

2011-06-01 05:12:59
鳥山仁 @toriyamazine

(14)読みづらくなる理由については説明不要だろう。読者が一度読んだ内容を読み返す、あるいは思い返さなければならないからだ。これが一度で済むなら、娯楽小説の範疇を逸脱しないが、同じ作品内で何度も時間序列の転倒をやっていると、大半の読者は途中で作品を投げ出してしまう。

2011-06-01 05:31:56
鳥山仁 @toriyamazine

(15)また、作家が作品内で頻繁に時間をひっくり返したがるのは、どこかで作家本人が自分の創る作品に対して「時序列通りに話を書いていたら、詰まらないからひっくり返すか」と思っている証拠で、その段階でお話としては黄信号なのだ。自分が詰まらないと思っている作品を、読者が喜ぶ確率は低い。

2011-06-01 05:37:55
鳥山仁 @toriyamazine

(16)以上、時間序列をひっくり返す作話技法のメリットとデメリットを記述した。それにしても、まさか自分がこんな商売上のテクニックについて話をする年齢になるとはねえ……。昔は失敗して沈没する作家を指さして笑ってたのになあ。ああ、嫌だ、嫌だ。

2011-06-01 05:44:36
@MinoZippo

@toriyamazine フォローありがとうございます。突然にTL上に先生の名前が出てきてビックリしております。先生のログを今追いかけておりますが納得する部分が多々あり驚いております。確かに見た風景をそのまま文章にするなんてめったにやらないことですし、難しい話です。

2011-06-01 05:45:33
鳥山仁 @toriyamazine

@MinoZippo 喜んでいただいたのは大変嬉しいんですが、先生は止めてぇ……。それ、業界用語の蔑称ですから。話はさておき、情景描写の練習をやっていて有名な作家はトルストイだったりします。古風ですが、確かに上手いですよね。

2011-06-01 06:15:11