ウェルカム・トゥ・ネオサイタマ #3
ギュウイーン……ラブ……ラブイズペイン……ラブイズディザスター……ユーアーサッチアペイン……ライク・サンズリバー……。ギュウイーン……ディキディキ、ディキディキディキ……
2011-06-05 13:43:24完全防音の車内は、ひんやりしたエレクトロダークポップの支配するゼンめいた小宇宙。真空に放り出されるダストめいて後方へ吹き飛んでゆく周囲の風景は、まるで他人事のように無味乾燥だ。逆モヒカン・ヘアーとサイバーサングラスが特徴的な運転者の表情もまた、無感情の極みである。
2011-06-05 13:55:36冷たいマシーナリー・ビートを時折ザラザラしたノイズが乱す。「……突入……天守閣……」だがこれは彼自らが進んで違法に傍受しているマッポ無線だ。彼、ミフネ・ヒトリ、通称デッドムーンはクロームシルバー塗装された武装霊柩車を駆る。ネオサイタマをほとんど横断するルート。目的地はマルノウチ。
2011-06-05 14:14:44ネズミハヤイはマルノウチのジャンクションを通過。列をなすネオン・トリイをくぐり抜けると、車載モニターの表示がマルノウチからトコロザワへ切り替わる。「だいぶもうすぐです」とマイコ音声。トーチのように炎と煙を吹き上げるスゴイタカイビルを横目に、デッドムーンは淡々とアクセルを踏み込む。
2011-06-05 14:27:36マッポ無線の傍受はデッドムーンの日課だ。タフな仕事なのだ。闇の帝王ラオモトの死、トコロザワピラーを包囲する軍隊めいた規模の機動隊員。情報の断片はダークエレクトロポップをオツに彩るエフェクトとなり車内を漂う。前方の空を横切るヘリコプター……。ギュウイーン……ラブイズテイストレス……
2011-06-05 14:32:20やがて前方にトコロザワピラーの威容。ディキディキディキディキ、ラブイズディザスター……ラブイズユー、ユーアーラブ……アイヘイトラブ……「違いない」デッドムーンは感傷的な歌詞に同意した。「右手の反対に進め」古式めかした語り口でマイコ音声がガイドする。デッドムーンはハンドルを切った。
2011-06-05 15:09:01「ノボルタ」「亀センベイ」「30時間働いた」。セーラー服と黒髪をなびかせ、極彩色のネオン看板を次々に飛び移る制服姿の女子高生あり。
2011-06-05 17:05:40彼女ヤモト・コキのこの深夜行の目的は、ネオサイタマのあちこちで勃発しているとおぼしきテロ騒ぎの正体を見極めることであった。彼女がかつて通ったハイスクール周辺にまでその災禍が及ぶようであれば、事態はより深刻だ。
2011-06-05 17:07:39炎上する幾つかの建物へ実際近づき、焼け出された人間を行きがかりで助けもした。市民への無差別な攻撃?どうも違う。内向的な一生徒に過ぎなかったヤモトは、この世界の仕組みについてほとんど知りはしない。だがそんな彼女でも、犠牲となる建物や人々に、ある種共通するトーンを読み取り始めていた。
2011-06-05 17:11:59破壊されているのはほとんどが会社事務所や店舗だ。それも、どことなく後ろ暗さを持ち、それを過剰な装飾やハイ・テンションで押し隠すような店構えばかり。ドンブリ・ポン・チェーンのCMの、「あの感じ」だ。
2011-06-05 17:16:12ドオン!前方で爆発。近い!ヤモトは屋根から路地裏へ飛び降り、野次馬に紛れて、その建物へ目立たぬように近づいた。
2011-06-05 17:24:13「アイエエエエ!」背中に火をつけて中から転がり出て来たサラリマンは叫びながらアスファルトの上をのたうちまわる。巨大なマネキネコをモチーフにし、「顔が効いて間違いがない不動産」と看板を掲げた店舗が窓から黒煙を吹き上げている。
2011-06-05 17:31:34近隣の人々はマネキネコ店舗を遠巻きにするが、近づいてサラリマンを助けるものはいない。「アイエエエ!」眼帯をして顔に「一流」と入れ墨を入れたそのサラリマンは、どう見ても何らかのヤクザクラン関係者だ。「抗争か?」「物騒だね……」「テレビもおかしかったし」編笠をかぶった市民が囁きあう。
2011-06-05 17:35:51「誰がどう見ても不動産」「間違いがない」と擬態的な文言をショドーしたノボリが二階の窓から突き出しているが、これにも火がつき、煙を噴き出しながら燃えている。それぞれのノボリに描かれたエンブレムがヤモトのニューロンをヒットした。交差するカタナの意匠。ヤモトには覚えがある。
2011-06-05 17:43:01(「ドーモ、ヤモト・コキ=サン。俺様はソウカイ・シックスゲイツのニンジャ。ソニックブームです。」)……あれからどれ位経ったのだろう?苦い、ただ苦いあの別れの日、出発の日の痛みが浮かび上がり、ヤモトの胸を刺す。
2011-06-05 17:55:27(「シンジケートは何でも知ってるぜ、運命に身を任せな!エエッ?悪いようにはしねぇよ……」)あの日、すべてをぶち壊し、ヤモト自身の手によって死んだ、あのニンジャ……ソニックブーム……あのニンジャのメンポにも、クロス・カタナの意匠が確かにあった。
2011-06-05 17:58:02それを皮切りに、彼女の記憶フィードバックは暴れ出す!「ソウカイ・シックスゲイツ」!これまで彼女が倒してきたニンジャ達はどうだった?バイコーン、シルバーカラス、マンティコア……ソウカイヤを名乗るニンジャ達に、あのクロスカタナの意匠は無かったか?あった!確かにあった!
2011-06-05 18:16:54今日見てきた被害建築物はどうだろうか?ヤモトはこめかみを押さえた。確かに……クロスカタナ……それとなく……まるで自然に……!「アイエエエエ!」死にかけの眼帯サラリマンが店内を指差して絶叫した。黒煙の中からニンジャが現れたのだ!
2011-06-05 18:19:40「ドーモ、カイシャクドーモ」あざ笑いながらサラリマンへ近づく青装束のニンジャ。「アイエエ!ニンジャアイエエエ!」群衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ始める!ヤモトもそれに紛れ離れざるを得ない。走りながら振り返ると、その青ニンジャが眼帯サラリマンの首をキックでへし折った瞬間だった。
2011-06-05 18:24:41ヤモトの心は乱れた。ニンジャだ。となれば、他の爆発もニンジャだ。組織立った破壊活動!一斉に、ソウカイヤにゆかりのある場所を攻撃しているニンジャ達がいるのだ。なぜ?ヤモトにはわかりようがない。電柱から看板へ飛び移り、屋根へ上がる。
2011-06-05 18:33:33アサリ!ヤモトは親友の事を思う。様子を見に行くべきか?守るべきか?だがそれがかえってニンジャをアサリのもとへ近づけるかもしれない。むしろその恐れが大きい。大丈夫……襲われているのはソウカイヤ……アサリはきっと大丈夫だ。そう祈るしかない。
2011-06-05 18:37:59「フィーヒヒヒ!夜のランデブー!フィーヒヒヒ!」ヤモトの耳元で囁く声!なんと!屋根から屋根へ飛び移るヤモトに、ぴったりと併走してくる存在あり!「え……!」「女子高生フィーヒヒヒ!」下卑た息遣いと笑い声混じりの声がヤモトにまとわりつく!
2011-06-05 19:03:47「イ、イヤーッ!」併走者のドロリとした悪意に対し、ヤモトは反射的に腰のカタナでイアイ攻撃した。シルバーカラスから奪った小振りのカタナ「ウバステ」が今のヤモトの得物だ。「フィーヒヒヒ!」併走者はブレーサーでカタナを受け流す。しかも追跡をやめぬ!タツジン!「ネオサイタマの女子高生!」
2011-06-05 19:11:08