マーメイド・フロム・ブラックウォーター #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二話「キョート殺伐都市」:「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」#1

2011-06-08 14:14:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【またも市民平和を脅かす爆発事故!】 先日の謎の同時爆発事件から日常の平穏を取り戻しつつあったネオサイタマであるが、昨晩またしても事件が起こった。ノビドメ・シェード運河を巡っていたオイラン屋形舟「紀州」が、何者かによって爆破されたのだ。

2011-06-08 14:25:49
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この爆発により、船内にいたサタマ金属の社員数名とクロキ自動車社員数名が全員死亡した。ナムアミダブツ!最有力候補ラオモト・カンの死のどさくさでまんまと再当選したサキハシ知事の情けない治世だからこんな事になる。貴方の給料も多分アブナイからとっととリコールしたうえで内閣も不信任だ。

2011-06-08 14:32:22
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ガンッ!ガンッ!ガンッ!ハンマーが赤熱した鋼を繰り返し打ちつける音が、マシーナリービートめいて空気を揺らす。穴だらけのショウジ戸から入り込む光が乱雑なガレージ内に入り込み、隅に集められたバイク群に光のマダラ模様を落とす。バイク鍛冶屋のマチノは来客に気づき金床から目を上げた。

2011-06-08 14:48:28
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「ドーモ」「ドーモ」ハンチング帽を目深に被り耐汚染トレンチコートを着た来客はマチノのアイサツに答えた。「そこにあるからちょっと確かめてみてください」マチノは額の汗を拭い、ハンマーでガレージ隅を示した。

2011-06-08 14:59:14
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ハンチングの男がPVCシートの覆いを払うと、現れたのは黒光りする鋼鉄のモーターサイクル、ヘルヒキャク社のアイアンオトメだ。「実際イカツイもの使われてますね」マチノは言った。「現物を見たのは初めてだし、ずいぶん改造もされていますが、エレガントな仕事ですよ」「……」

2011-06-08 15:33:34
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「詮索はしませんよ」マチノは先回りして言った。「これに使われているカーボンナノチューブ部分の調達が色々と骨折りでした」「どの道すぐまた傷だらけになるが……」「そこがいいんですよ、味があります、そのバイクは。展示場じゃない。道路が似合いです」「なるほど」

2011-06-08 15:46:07
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奥の赤錆びたドアが開き、小柄な男が現れた。マチノ同様、作業着は油で汚れている。両手をネズミめいて胸の前で垂らし、口を開けてハンチングの男を見つめる。「あんた……あんたライダー?UNIX、UNIXちゃんと調整した、ダイジョブ。ステルス機能もダイジョブ」「何だカキオ」マチノが咎める。

2011-06-08 15:52:15
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「スミマセン、弟です。こいつ口の利き方知らないんです。奥にいろって言ってるんですが」マチノは詫びた。「でも電気関係はしっかりしたものなんです、うちのカキオは」「いえ。ドーモ」男はカキオにオジギした。カキオは怯えた表情で後ずさった。「ダイジョブ……」

2011-06-08 16:02:43
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男がアイアンオトメにまたがりキーを回すと、合成音声が告げた。「ハローワールド。アイアンオトメ、デス。レディーゴー」インジケータに映る「大人女」の漢字。ジゴクの獣めいた排気音が唸る。「前金だったな」「ハイ、頂いていますよ」マチノはオジギした。「またヨロシク!オタッシャデー!」

2011-06-08 16:31:13
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……男が爆音とともに走り去ると、カキオは胸の前に手を垂らした姿勢のまま、くるりと踵を返して自室へ小走りに戻って行く。マチノは肩を竦め、再び金床へハンマーを振り始める。

2011-06-08 16:35:02
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……カキオは自室に入るなりすぐにドアをロックした。基板類や小型モニタ、テープレコーダーといった電子物が積み上がった小部屋は足の踏み場もないほどであり、壁には色褪せたハニワ型ロケットの宣伝ピンナップが何枚も貼られている。「宇宙時代……軌道上にございます」。潰えた未来の夢の残滓だ。

2011-06-08 17:23:05
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あまりチューニングのよくないラジオからは懐古趣味の歌謡がザラザラした歌声を流し、それが置かれた机の半開きの引き出しにはイミテーションの宝石類がぎっしりとしまわれている。ここはカキオの作業場であり、城であった。マチノも決してここに足を踏み入れることはない。

2011-06-08 17:27:45
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「ダイジョブ……きっとダイジョブ」小刻みに頷きながら、カキオは部屋の奥に鎮座するマネキンにしゃがみ込む。いや、マネキンではない。胸から腰にかけての左半分を大きく欠損した人体?コワイ!いや!人体でも無い。人ならざるもの……オイランドロイドである。

2011-06-08 17:31:29
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人工心臓が収まっているべき箇所はぽっかりした虚無で、複数のオレンジ色のチューブが伸びている。チューブはゴミ箱の隣に置かれたポンプめいた機材に接続されている。「ダイジョブ……ダイジョブ、きっとね」カキオはエンジニアグラスを装着し、ドリームランド埋立地めいた部品の山をかき混ぜ始めた。

2011-06-08 17:34:55
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オイランドロイドの頭部には損傷が無い。綺麗なものだ。目を閉じ、角度によっては微笑んでいるようにも見える。「ダイジョブ。ダイジョブ……」

2011-06-08 17:43:38
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「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」正座した六人のクローンヤクザの前を、ドレッドヘアーのリアルヤクザが罵声を浴びせながら歩き回る。まるでゼン・トレーニングめいた光景だ。リアルヤクザが手に持っているのは棍棒ではなく青龍刀であり、正座しているのも当然ボンズでは無い。

2011-06-08 18:02:34
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「ナッコラー!なんで全員上がってねえんだ?エッコラー!責任取れんのかコラー!」クローンヤクザ達は神妙な顔でドレッドヤクザの叱責を聞いている。一人が口を開く。「流れが早くて、流されてしまっグワーッ!」「スッゾコラー!」ドレッドヤクザの蹴りが飛んだ!「川が怖くて商売になるかコラー!」

2011-06-08 18:07:16
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雑居ビル屋上で暴力的なやり取りをする彼らの頭上で、満月が雲を透かす。下の道路ではそんな殺伐を露も知らぬ市民が、この週末に行われるネブタパレードの準備に忙しい。まだ明かりの灯されていないチョウチンや「ヨッソイ」と陽気にショドーされたノボリが、こうしている間にも次々掲げられて行く。

2011-06-08 18:23:38
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「で、見つかったのか?」「ヒッ!」ドレッドヤクザは横から飛んできた新手の声に竦み上がった。「ドーモ!デスナイト=サン!アリガトウゴザイマス!」痙攣めいて震えながら、彼は声の方向へ最オジギした。「……見つかったのか?」そのニンジャ、デスナイトは、ツカツカと歩み寄りながら繰り返した。

2011-06-08 18:28:04
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関節部に甲冑めいたプロテクターを持つ特殊なニンジャ装束に身を包んだデスナイトは、冷たい目でドレッドヤクザを見据える。「……まだか?」「こいつらが使えねえせいで、やはりその、一人回収できておりませんで!今からケジメさせます!」ドレッドヤクザはツキジのマグロめいて口をパクパクさせる。

2011-06-08 18:31:54
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「フー」デスナイトは無感情に溜息を吐いた。「殺しただけでは口封じにならんのだ、殺しただけではな」「アイエエエ!その通りです!全力で!ケジメさせて……」「いや、必要無い」デスナイトは首を振った。その背後、満月を鳥の影が横切った。

2011-06-08 18:36:42