「電波女と青春男」脚本・綾奈ゆにこさんによる『家に帰らせてもらいます』別視点妄想SS

TVアニメ「電波女と青春男」シリーズ構成:綾奈ゆにこさん @unicococ 同上・キャラクターデザイン:西田亜沙子さん @asakonishida
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綾奈ゆにこ @unicococ

行きはよいよい帰りは怖い。あれって、なんで怖いんだっけ。そんなことを考えながら、俺は夏の故郷を歩く。春、期待に胸ふくらませ走った道を、実家へ帰るために。距離感が把握出来るためか、帰り道はひどく味気ない。あっという間に到着。半年ぶり、いや五ヶ月ぶりの我が家。こんなに小さかったっけ

2011-06-23 23:47:22
綾奈ゆにこ @unicococ

目的のものは、すぐ見つかった。ある場所の電話番号を記したメモ。母親に頼まれたそれは、冷蔵庫前の床に落ちていた。メモを片手にケータイを取り出し、電話をかける。コール数回。『おかけになった電話は現在電波の届かない場所に…』 仕方ない、後で折り返すか。

2011-06-24 00:04:08
綾奈ゆにこ @unicococ

シンクの蛇口をひねる。水は出ない。「ですよねー」 台所を出て、薄暗い廊下を歩く。なんとなく間取りを思い出し、闇に目が慣れる前に居間へたどり着く。がたがたと雨戸を開け、網戸にする。さっそく入ってきた風に、レースのカーテンがふわりと舞った。うーん、夏っぽい光景。ちょっとカビくさいけど

2011-06-24 00:09:52
綾奈ゆにこ @unicococ

居間で遅めの昼食。行きに買った冷やし中華は、すでにぬるい。黄色い麺にきゅうりの千切りやハム、ゆで卵をのせ、付属のタレをかける。「いただきます」 もぐもぐ、自分の咀嚼する音が響く。蝉の声。カーテンの隙間から、眩しい日差しが差し込んでいる。外に出るのは、やっぱり日が陰ってからだな

2011-06-24 00:22:08
綾奈ゆにこ @unicococ

ブブブ。テーブルの上でケータイが震える。画面には、見慣れた名前。「もしもし」 ……。返事なし。「もしもし?」 少し語気を強めると、ようやく返事があった。『だれ?』 母親の声だ。間違えるはずがない。ちなみに、二ヶ月に一度くらいの頻度で電話をかけてくるおかげで、懐かしいと思う隙も無い

2011-06-24 00:34:51
綾奈ゆにこ @unicococ

「俺のケータイにかけてるんだから、言うなら、『だーれだ?』じゃない?」 実の母親に言われたって嬉しくも可愛いくもないけど。『だって、可愛い息子の可愛い彼女が出る可能性だってあるじゃない』 えー、誠に遺憾ながら彼女いない歴=年齢です言わせんな恥ry

2011-06-24 00:53:12
綾奈ゆにこ @unicococ

『メモあった?』「うん。えー…」『あ、ちょっと待って』 メモメモ…と言いながら、電話の向こうで移動する気配。俺は手にしたメモを眺めて待った。メモには2つの番号が書かれている。一方は052始まりの番号。もう片方は… 『もしもし、お待たせ』「えーっと、これ俺のケータイ番号ですよね」

2011-06-24 01:14:47
綾奈ゆにこ @unicococ

『そうよ』 あっさりと肯定。「お母さん?」 語気強め。あなたの可愛い息子は今かなりキテおります。『マコトの番号知らないと、いざって時困るでしょ?』 そういえば、両親はいつも藤和家の電話にかけてきた。そういうことでしたか。「もう1つの番号は?」『女々ちゃん家の番号』 おい。

2011-06-24 02:04:29
綾奈ゆにこ @unicococ

「来る意味なかったじゃねーか…」 ため息をつく。電話の向こうにも聞こえたらしく、ごめんごめんと形ばかりの謝罪。『でもこんな理由でも無い限り、面倒くさがって帰らないでしょ』「まあ…特に理由もないし」『空気の入れ替えしてくれた?』 それが本命か。

2011-06-24 02:35:19
綾奈ゆにこ @unicococ

片道2時間半、往復5時間返せ。まあ、暇を持て余してたからいいけど。『せっかくだし女々ちゃん家に電話してみたら? 住んでる家に電話かける機会なんてそうそうないでしょう』 電話なんてしたら、きっと女々さんが『きゃーマコ君たらホームシック? ホームシック?』とハシャぐに決まってる。却下

2011-06-24 02:36:44
綾奈ゆにこ @unicococ

「それじゃ、色々気をつけて」『マコトもね』 主に叔母さんからの奇襲に注意します。電話を切ると、はぁ、とまたため息が出た。母親のノリは女々さんに通ずるものがある。やっぱりあの二人、姉妹なんじゃね? ケータイで時刻を確認する。現在、15時過ぎ。日差しはまだ強いが、そろそろ出るか

2011-06-24 02:37:24
綾奈ゆにこ @unicococ

雨戸を閉めると、居間はまた元通り暗くなった。手探りで玄関へ移動。一瞬、自分の部屋を見ておこうかと思ったけど、やめた。行ったって何も無い。引っ越す際、かなり整理したのだ。残っているのは中学の卒業アルバムや、高校を転校する際に撮ったクラス写真。なんとなく、見に行くことを避けた

2011-06-24 02:48:39
綾奈ゆにこ @unicococ

外は日差しが強い。むしろ痛い。隣に前川さんが立っていたら、さぞ日陰に…ならないか。こんな炎天下に出したら1秒で倒れる。やっぱ帽子とか持ってくるべきだったなーなどと後悔しながら、脳裏によぎる黄色のヘルメット。いや、ヘルメットの場合、逆効果だ。汗でめるとーってなる。byリュウシさん

2011-06-24 02:49:46
綾奈ゆにこ @unicococ

電車の時刻まで余裕があるので、少し遠回り。誰かに会うかもしれないという期待は外れ(会っても困るけど)、春先まで通った高校の校舎を一人あおぎ見たり、何か生き物がいないかなと一人、田んぼをのぞき込んだりした。はたから見れば多分、不審者。まるで、この地に初めて来た人みたいだと苦笑する

2011-06-24 03:16:53
綾奈ゆにこ @unicococ

実際、見たことの無い景色だった。校舎の窓には「県大会出場」なんて垂れ幕がかかっていたし、行きつけのコンビニは潰れてテナント募集中だった。懐かしいと思う瞬間は、一度もなかった。最後に、小さな公園の横を通った。中央に置かれた古びたベンチ。入り口の自販機は、電球が2つ切れたままだった

2011-06-24 03:17:47
綾奈ゆにこ @unicococ

駅へと向かうあぜ道を歩きながら、うーんと伸びをしてみる。大きく深呼吸。これから、無機質なビルの立ち並ぶ都会へ戻るのだ。…けれど、嫌な気はしない。都会といっても、期待したほど金物臭くなかったし。においといえば、ピザとか、潮のかおり。あと叔母の…(絶賛後悔中

2011-06-24 03:19:52
綾奈ゆにこ @unicococ

田舎の空は広い。広く、高く、どこまでも青い。ふと、自転車で空を飛んだ時のことを思い出す。あの時、俺たちはあそこにいた。海の青と、空の青の真ん中に、たった一瞬だけ。田舎にいた頃は、都会へ行って、まさか空を飛ぶことになるなんて思いもしなかった。エリオに出会うなんて、思いもしなかった。

2011-06-24 03:30:11
綾奈ゆにこ @unicococ

駅舎が見えてくる。電車が来ようとしていた。「やべ」 時刻表変わってる! あわてて走り出す。あの春と同じように。あの時、胸ふくらませた期待は一つもない。ただ帰るのだ。あの町へ。宇宙人の見守る町へ。俺はまだ、よそ者かもしれない。けれど、俺は帰ったらきっと、「ただいま」って言う

2011-06-24 03:32:03
綾奈ゆにこ @unicococ

ぬるい風が頬をなでる。頬をたたき、吹き抜けていく、自転車に乗った時のような心地良い風には遠く及ばない。帰ったら、自転車に乗ろう。あいつを乗せて。まだ、夏は終わらない。 完!

2011-06-24 03:36:36
綾奈ゆにこ @unicococ

Cとあの花OA前に完結予定が…(白目) でんぱBD・DVD第1巻限定版、入間さんの書き下ろし外伝『家に帰らせてもらいます』の別視点妄想でした。外伝ものすごく素敵なの…!! ところで真の母は女々さんのこと何て呼んでるのかな。とりあえずちゃん付け

2011-06-24 03:57:53
西田亜沙子(終末トレイン作業中!) @asakonishida

例のごとく ゆにこさんのSSに勝手に挿し絵付けてみたの巻 http://togetter.com/li/153403 http://twitpic.com/5fxelk

2011-06-24 12:20:13
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