五代ゆう先生の描写論ー「設定」と「描写」の違いー、及び榊一郎先生によるネタ出し論 ー農業を例にー

前半は五代ゆう先生による、「小説の描写」と「設定をただ書き連ねた文」がどう違うかという例と解説。 更には「誰も見たことの無い物」を「あたかも実在するかのように描写する」ための表現能力、語彙を如何に獲得するかという五代先生の経験談。ただしこういった方法論は「ガラスの仮面」などを見れば分かるように、表現活動一般に共通する論理なので、汎用性は高いかと思います。 後半は榊一郎先生の解説と、おなじみ「小説のネタをどうひねり出すか」の例解。 今回は農業がテーマ。 続きを読む
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五代ゆう @Yu_Godai

ちょっと榊さんの真似して、描写とか設定とかの書き方伝え方、について書いてみようかと思います。#sousakuタグお借りします>榊さん#sousaku

2011-06-24 00:01:57
五代ゆう @Yu_Godai

こないだ創作支援センターでファンタジーについての講義をさせていただきましたが、その時に、「ないものをあるように書く」ファンタジーというのは、実は特にリアリティある細やかな描写が必要である、という話をしました。#sousaku

2011-06-24 00:02:22
五代ゆう @Yu_Godai

初心者の方には、「ドラゴン」と一言書けばそれでドラゴンが書けたと思ってたり、「エルフ」と書けばエルフが書けたと思ってらっしゃる方をときどき見かけますが、それではファンタジーは成立しません。#sousaku

2011-06-24 00:02:39
五代ゆう @Yu_Godai

「ないもの」であるドラゴンやエルフ族を、あたかも「あるもの」であるかのように錯覚させるほどの、きちんとした描写、実感を伴った描写をすることが肝要なのです。#sousaku

2011-06-24 00:03:58
五代ゆう @Yu_Godai

といっても私は本能で書いてる人なので、実際の文章がないと説明できないタチなのでちょっと例文書きます。お付き合いを。#sousaku

2011-06-24 00:04:12
五代ゆう @Yu_Godai

ドラゴンは苛立ったように頭を振り、竿立ちになった。額石が赤く燃え上がる。膜質の翼が大きく広がり、逆立って震えた。鞍がいきなり持ち上がる。リジィは必死にしがみつこうとしたが、伸ばした手は頭絡をかすめて空を切った。天地がぐるりと回って、背中に激しい衝撃が走った。#sousaku

2011-06-24 00:04:43
五代ゆう @Yu_Godai

「おい、こら!」誰かが大声を上げて駆けてくる。すぐそばで砂煙が立ち、目の前に鉤爪をそなえた巨大な脚がずしんと踏み下ろされた。心臓が見えない手でぎゅっと握られる。恐怖が大きな塊になって喉につっかえた。声が出ない。#sousaku

2011-06-24 00:04:59
五代ゆう @Yu_Godai

「この小娘!」襟首がひっつかまれた。首を振りたてて鼻孔から煙を噴いているドラゴンの腹の下から、リジィは引きずり出された。硫黄の臭いが鼻をつく。#sousaku

2011-06-24 00:05:44
五代ゆう @Yu_Godai

巨大な爬虫類はまだ翼を上下させながら、金色の混じった紫色の奇妙な瞳をくるめかせてリジィを睨みつけた。何人かの竜使いが集まり、突き棒でドラゴンを静めようとしている。#sousaku

2011-06-24 00:06:01
五代ゆう @Yu_Godai

「どういうつもりだ?おまえ一人でドラゴンに近づくなと何度も言ってあるだろうが、この〈イクシック〉が!」親方の怒鳴り声も耳に入らなかった。震えが止まらない。あともう少し、指くらい近くにドラゴンが脚を下ろしていたら、今ごろリジィの顔の半分はなくなっていただろう。#sousaku

2011-06-24 00:06:24
五代ゆう @Yu_Godai

「いいか、もう二度と囲いに近づくんじゃないぞ、〈イクシック〉!おまえは水汲みやら薪割りやらだけやってりゃいいんだ」頭を垂れてリジィは聞くしかない。もつれた赤い髪が涙を隠してくれる。やせっぽちのくるぶしとひざ小僧が埃で白くなっている。#sousaku

2011-06-24 00:06:41
五代ゆう @Yu_Godai

竜使いの男たちがうんざり顔でこちらを見ていた。見習い小僧たちがささやきあってクスクス笑っている。〈イクシック〉、〈石っころ〉。自分につけられたあだ名がそれだ。#sousaku

2011-06-24 00:07:09
五代ゆう @Yu_Godai

どんなに人慣れしているドラゴンも、何故だか自分だけには触れることを許してくれない。だから〈石っころ〉。もっとも高貴な獣であるドラゴンに顧みられない、石娘。#sousaku

2011-06-24 00:07:25
五代ゆう @Yu_Godai

親方に追い立てられてドラゴン囲いを後にしながら、リジィはそっと後ろを振り返ってみた。ようやく静まったらしいドラゴンがなめらかな動きで囲いの奥へ動いていく。その緑色と金の混じった鱗の輝きに、胸を突き刺される思いがした。額石の赤い光が目に痛い。#sousaku

2011-06-24 00:07:42
五代ゆう @Yu_Godai

どうしてあんなに恐ろしい獣が美しいのだろう。いや、美しいから恐ろしいのだろうか。よくわからない。どちらにしろ〈石っころ〉娘のリジィは、〈石っころ〉のくせに、あの獣の中の宝石、生物の中の帝王に心惹かれてならないのだ。そっと両手に目を落とす。#sousaku

2011-06-24 00:08:02
五代ゆう @Yu_Godai

目をこすりながらそっと服の中に手を入れる。ようやくふくらみかけたばかりの胸の間に、しっかりした革紐でくくられた小さな袋がぶらさがっている。悲しい時はいつもそうするように、中身を手のひらにふり出してみる。#sousaku

2011-06-24 00:08:19
五代ゆう @Yu_Godai

それは半ば透き通った乳白色の石のかけらで、傾きによって青や紫、緑や黄色とさまざまな色が虹のようにきらめく。大きさや形は、ドラゴンが額に生まれながらに持っている石#sousaku

2011-06-24 00:08:53
五代ゆう @Yu_Godai

──『額石』と呼ばれる、ドラゴンの生命の精髄──に似ているけれど、こんな色の額石を持ったドラゴンなど聞いたことがない、とだれもが言う。#sousaku

2011-06-24 00:09:11
五代ゆう @Yu_Godai

石は三分の一ほどのところに大きなひびが走っていて、そのあたりから全体が白っぽく濁ってしまっている。透明なところはほんの少しだけ。それでもリジィはその石を捨てることはできなかった。#sousaku

2011-06-24 00:09:25
五代ゆう @Yu_Godai

親を知らないリジィが唯一持っている形見らしきもの、というのみならず、少しでもドラゴンを思わせるものは、ドラゴンに触れられない〈石っころ〉娘にとって、かけがえのない宝物だったのだ。#sousaku

2011-06-24 00:09:43
五代ゆう @Yu_Godai

……と、ここまでほぼ即興で書いたのでこのリジィなる女の子が何者でどうなるのか私は知りませんが(電波の人がなんか言ってますがとりあえず無視)ここまでの場面描写エピソードで出てきた設定を書き並べてみますと、#sousaku

2011-06-24 00:10:09
五代ゆう @Yu_Godai

1.主人公はリジィという名前の女の子2.リジィは孤児(赤毛・やせっぽち)3.この世界ではドラゴンが飼い慣らされ、竜使いという仕事が成立している4.ドラゴンの姿や動き(鉤爪、目、翼、鱗等)5.ドラゴンは『額石』と呼ばれる石を額に持っている#sousaku

2011-06-24 00:10:37
五代ゆう @Yu_Godai

6.リジィは何故か竜に触れず、〈イクシック〉(石っころ)と呼ばれて蔑まれている7.彼女は親の形見(?)として、竜の額石に似た不思議な石を持っている←たぶんこれが今後の話のキー#sousaku

2011-06-24 00:10:54
五代ゆう @Yu_Godai

で、これだけの設定を、主人公リジィの内面にも入り込みながら、「リジィが乗れないドラゴンに無理に乗ろうとして踏み殺されかける」というエピソードを書き(この中でドラゴンという生き物がどんなものか描写し)、#sousaku

2011-06-24 00:11:12
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