リキシャー・ディセント・アルゴリズム #5
(あらすじ:ザイバツとヨロシサン製薬の陰謀を収めたフロッピーを偶然入手してしまった、リキシャードライバーのアナカ。私立探偵ガンドーの事務所にフロッピーを持ち込むが、そこへザイバツの刺客やニンジャスレイヤーが現れ修羅場に。アナカはガンドーの忠告を聞かず、フロッピーを持って逃げ……)
2011-07-09 21:29:49「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」アナカは目を血走らせながら、アンダー・ガイオンの猥雑たる繁華街を駆け抜ける。ストリートオイラン、ヤクザ、無軌道学生、夜勤サラリマンなどを乱暴にかきわけながら。「スッゾコラー!」「ザッケンナコラー!」ヤクザたちの罵声は、すぐに後方へと消えていった。
2011-07-09 21:43:42(((まさかニンジャが実在するなんて…)))アナカがこれまで抱いていた世界に対するリアリティが、ニューロンの中で激しい音を立てて崩壊を始めていた。一般的な日本人にとってニンジャは半神的存在であり、フィクションの中の怪物と考えられている。
2011-07-09 21:48:39(((くそったれめ!ニンジャが何だ!俺にはこれしかない!俺みたいな労働者が妻を連れてアッパー・ガイオンに行くには、どうしてもこのフロッピーで大金を掴む必要があるんだ!ヨモコ!待っていろよ!大金を持って帰るからな!)))アナカは自分を言いくるめるように、ニューロンの中で独りごちた。
2011-07-09 21:52:19急性バリキ中毒とニンジャリアリティ・ショック症状を同時に起こしてしまったアナカの頭は、ひどく混濁していた。だが、仮に彼が正気だったとしても、ガンドーという協力者無しでどうやってフロッピーからカネを作るのか、そしてカネを手に入れたらどうするのかについて、ビジョンは皆無だっただろう。
2011-07-09 21:56:40(((フロッピーと拳銃、フロッピーと拳銃だ!どうやってカネを作る?考えろ!考えろ!考えろ!…いや、今は走れ!ニンジャから逃げ切るんだ!)))アナカは思考を停止した。彼は意固地になっていた。どう考えても現状を打開する術はない。その事実から無意識のうちに目を背け、アナカはただ走った。
2011-07-09 22:00:13信号で一時停止を余儀なくされていると、「サービスの範囲内」と書かれたプラカードを持つストリート・オイランの腕がアナカの肩に絡みつき、犯罪的に豊満な胸の谷間を押し付けてきた。バリキ中毒で覚醒した脳が、香水やフェロモン臭をいつもより敏感に感じ取って、アナカの心臓を激しく拍動させる。
2011-07-09 22:03:34「ウ?ウワーッ!ウワーッ!」罪悪感と激しい欲情がニューロンの中でヨコヅナ級タイトルマッチを開催し、アナカは頭を掻きむしる。右手にオートマチック拳銃を握ったまま。「アイエエエエ!サイコ野郎!?」身の危険を感じたストリートオイランは、咄嗟に悲鳴を上げ、アナカを車道に突き出した。
2011-07-09 22:08:34ブロロロロロン!!パパオー!モウン!!モウーン!!パッパパパパパオー!!水牛を満載にしたチョッコビン・エクスプレス社のトレーラーが、四つん這いのアナカめがけ猛スピードで突っ込んでくる!コワイ!ズバリ中毒にあるアナカの目には、それが巨大なピンク色の象に見えた!「アババババーッ!?」
2011-07-09 22:12:35「アイ!アイエエエエ!」アナカは道路に身を投げ、咄嗟に仰向けになる。ナムサン!暑い排気ガスが、アナカの頬を撫でた。力無く失禁。チョッコビン社のトレーラーは、幸運にも鼻先数センチの場所を通過してゆく。「アイエエエエ!」アナカはフラフラと起き上がり、頬を叩くと、再び闇雲に駆け出した。
2011-07-09 22:18:48「ハァーッ!ハァーッ!」それから数十分、アナカは走り続けた。あてどもなく階層を上下し、裏路地や雑踏を駆け抜けた。ケミカル臭の汗が滴る。今、彼を最も力強く誘惑するのは、ストリートオイランではなく、100メートルおきに等間隔で配置されたヨロシサン製薬のバリキドリンク自販機であった。
2011-07-09 22:23:02ブルゾンの中には、家から持ってきた百円玉が数枚。僅か数百円ではあるが、絶対に無駄にしたくない。妻とアッパー・ガイオンに行くために、職場での付き合いを拒否し続けて貯めたカネだ。だがバリキ自販機が現れ、その横に立つ扇情的なノボリを見るたび、スリットに百円玉を入れたい衝動に駆られる。
2011-07-09 22:26:51(((アイエエエエ!駄目だ!バリキドリンクなんか買っていたら駄目だ!頭がこれ以上おかしくなったらどうする!それに、スリットに100円玉を入れている間にニンジャに追いつかれるかも?!相手はニンジャだぞ!購入ボタンを押したらドリンクの代わりにニンジャが出てくるかもしれない!)))
2011-07-09 22:29:05それでも「実際安い」というノボリを見ると、アナカはついフラフラと自販機の前でスピードを落とし、100円玉をスリットに投入してしまうのであった。キャバァーン!思考力を奪う戦闘的な電子音が鳴り響き、激しいレインボーパターンで購入ボタンが点灯する!ナムアミダブツ!
2011-07-09 22:32:24「ウワーッ!!ちくしょう!ちくしょう!何で薬物がこんなに簡単に手に入るんだよこの国は!」アナカはドリンク取り出し口に向かって叫びながら、さらにオートマチック拳銃を突っ込み、わけのわからないことを叫びながらトリガーを3度引いた。「アーレー!」「コワイ!」周囲の市民は逃げ出していた。
2011-07-09 22:36:56キャバキャバァーン!!アナカの撃ち込んだ銃弾によって誤作動が起こったのか、自販機に備わったディジタル・スロットが回転し、「ヨ」「ロ」「シ」「サ」「ン」の5文字が揃った!取り出し口から無数のバリキドリンク、ザゼンドリンク、タノシイドリンク、コブラ9などが吐き出される!
2011-07-09 22:40:04「バリキドリンクだ!」「タノシイドリンク!」遠巻きに成り行きを見守っていた市民たちが、銃を持ったまま取り出し口に向かって叫び続けるアナカのことも忘れ、ジゴクのグールたちのようにドリンク剤に群がり始めた。ヨクバリ!まさに古事記に予言されたマッポー・アポカリプスの一側面である!
2011-07-09 22:43:25「俺のドリンクだ!俺のドリンクを取るな!!」アナカは上に向かって一発発砲し、強欲な下層市民たちを威嚇してから、道路に散らばったドリンク数本を手当たり次第にポケットに押し込み、そのまま走り去る。アナカがいなくなると、再び下層市民らがこれに群がって、見苦しい奪い合いを始めた。
2011-07-09 22:46:36それからどこをどう走ったのか。気がつくとアナカは、長い一本道のシャッター街を駆け抜けていた。そうとう深い階層まで来たのかもしれない。シャッターや壁にも「アブナイ」「法律が通用しない」「スラムダンク」などの、剣呑なスプレー文字が目立ち始めた。ドラム缶もそこかしこに転がっている。
2011-07-09 22:50:48重低音と炎の灯りが、先のL字路を曲がった先から漏れ出してくる。何かまずい場所……ギャングのアジトや、ペケロッパ・カルトのネストのような一帯に足を踏み入れてしまったのでは?アナカは本能的にそう感じとった。しかし戻る道は無い。一本道を引き返せば、ニンジャに掴まってゲームオーバーだ。
2011-07-09 23:00:09ナムサン!アナカは勢いに任せL字路を曲がった!その直後、交代で見張りに立つために歩いてきていた逞しいモヒカンが、アナカと出会い頭で衝突する!ふらつくアナカ。反射的にモヒカンは、鋼鉄トゲ付きリストバンドが巻かれた腕でアナカを捕まえる!「アイエエエ!?アナカ!?アナカじゃねえの?!」
2011-07-09 23:09:24このモヒカン、カナリハヤイ社の同僚、サトウ=サンでは!?サイオー・ホース!目の前には、タジモト率いるリキシャー・ギャング団のアジトが広がっていたのだ!L字路の先は隙間無く積み上げられた赤いショーユ・ドラム缶で行き止まりになっており、タタミ百畳ほどの小さな空間が横たわっていた。
2011-07-09 23:15:59この掃き溜めのような空間には、ありとあらゆるアナーキー的な要素が押し込められていた。粉っぽいガレキ、トゲトゲのレザーを着たモヒカンやチョンマゲ、ブラックメタルを流し続ける大型スピーカー、イカを焼くドラム缶、文字にするのもはばかられるネオンサインの数々、有刺鉄線で囲われた土俵……。
2011-07-09 23:21:54そしてその中央には、大型ハーレーによって引かれるけばけばしい改造リキシャー!座席部分はタタミと豪奢な紫色のフートンで形作られ、両脇にストリート・オイランを侍らせたタジモトが、とても高級なオーガニック・トビッコスシを喰らっていた!
2011-07-09 23:25:44