米国内のリアリスト批判:クリストファー・レインの訳書刊行を契機として
奥山先生の新訳というのはこの本でしたか。大戦略を巡る議論で原書を熟読した過去を思い出すなぁ。@masatheman 幻想の平和 1940年代から現在までのアメリカの大戦略 クリストファー・レイン http://t.co/zPNwMCE
2011-07-23 13:26:44クリストファー・レインは一度じかに会話したこともあったが、何と言うか、極めて純粋な形のリアリストであると思う。ウォルツの弟子であり、当人は「構造的リアリスト」と呼ばれるのをあまり好きではないようであったが、思想の骨格には間違いなく構造的リアリズムが重大な影響を与えている。
2011-07-23 13:29:59彼はオフショア・バランシングという大戦略を称揚するも本を読む限りではその実態は限りなく新孤立主義に近いようだ。とにかく米国の外交政策のあるべき姿として、部分的に選択的関与まで含む卓越主義(primacism)というものを徹底的に拒否する姿勢が彼のアイデンティティに近いものである。
2011-07-23 13:33:46古典的/構造的を問わずリアリストには共通の要素だが、没価値的な大国間協調(Concert of Great Powers)を好むという性格がある。レインも例外ではなく、オフショア・バランシング推薦の背景には大国間協調により国際秩序を安定化できるとの思考が顕著に存在している。
2011-07-23 13:36:53例えば米中二カ国でアジア太平洋の秩序維持が可能という発想である。ブレジンスキーらのG2論に近いものといってもいい。レインは他の大国(中国)が大国間協調の枠を超えて拡張主義を見せた場合には米国はオフショアながらバランシングすべきと主張するが、基本的に軍事介入には極めて消極的だ。
2011-07-23 13:38:28だがこうした米国の姿勢は同盟国たる日本にとっては大いに問題となるものだ。とどのつまり、リアリストとは大国間関係中心で物事を考えているから、大国間の協調こそ第一であって、同盟国の安全や利益は二義的になる。秩序維持のため勢力分割をした時、同盟国の利益が損なわれる懸念には敏感でない。
2011-07-23 13:40:16リアリスト最大の弱点はそこにある。没価値的な大国間協調に過剰な期待を抱く余り、価値を共有する同盟国との関係を容易に深刻化させてしまう。レインがオフショア・バランシングで前方展開を下げてもいい、という発想を安易に持ち出してくるのも同盟国には大迷惑だ。ある種の単独主義といってもいい。
2011-07-23 13:43:47現実の米国の外交政策はリアリストが主張する形では動いておらず、故にリアリストの外交提言はしばしば頓珍漢な形となって現れる。最近の好例がFA誌の今年3/4月号に載ったチャールズ・グレイザーの、米国は台湾を見捨ててもいい、という議論である。これは現実の政策論としては破滅的なものだ。
2011-07-23 13:47:49グレイザーは理論的にはそこそこ注目される人物であるが(個人的にはアンドリュー・キッドには到底敵わないと思っているが)、その政策提言は酷いものだ。彼は台湾を中国に譲歩しても日韓への信頼性ある拡大抑止は提供可能としているが、台湾を一度採られれば第一列島線で中国をストップできなくなる。
2011-07-23 13:50:06第一~第二列島線の間を中国海軍の大艦艇が日常的に周遊するようになれば、もはや米国は空母打撃群を西太平洋に接近させることなど出来るはずもない。戦略核抑止で総ての抑止が代替できる訳ではない以上、そうした戦略環境の変化は同盟の信頼性を顕著に弱体化させ得る。それがわかっていないのだ。
2011-07-23 13:52:12事実はおそらくわかっていないのではない。同盟国の安全などグレイザーや他のリアリストにとってはどうでもいいのである。彼らの第一の目的は米中の大国間戦争を阻止することであり、その目的の為なら同盟国の安全でも何でもどんどん譲歩すればよいと思っているのだ。ミュンヘン的発想があるのである。
2011-07-23 13:54:37レインのオフショア・バランシング論も畢竟これに同じだ。レインと話した際に日本は今後もっとロシアとの協力を強化すべきと言われたが、それはつまり北方領土問題を諦めろという主張に等しい。かほど左様に彼らリアリストの日本への関心は低い。米国内で彼らが力を持たぬ事が日本にとって利益である。
2011-07-23 13:57:33