ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル」#1

2011-08-09 23:52:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオカブキチョにある、薄暗いウェスタン相撲バーにて。

2011-08-10 00:08:12
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重金属酸性雨に湿ったコンクリートの壁に、アミーゴハットを被ったスモトリの奏でるアコースティック・ギターの乾いた音色が、ゼンめいた調和とともに響き渡る。カウンター上に掲げられたバッファローの頭骨が「本格派」とミンチョ体で書かれたネオンサインの火花によって、ピンク色に照らし出される。

2011-08-10 00:13:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カソックコートを纏い、ウェスタンハットで顔に影を落とした男が、暗い奥の席に独り。ブラウン管テレビに映る相撲映像を眺めながら、バンザイ・テキーラを呷る。スモトリの爪弾く曲が、伝説のヨコヅナ「オオキイウミ」の勇ましい入場テーマに変わった。男は自然と、ブーツの踵と木床でリズムを取る。

2011-08-10 00:25:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

見も知らぬ女が、男の向かいの椅子を引いた。その服装から察するに、ゲイシャだ。「合席してもいいかしら?」と問う。男は機嫌が良かった。『酒』、『暗がり』、『音楽』、『ゼン』……ここに『失われた日常』の手札を作るための最後の一枚、『女』が揃ったからだ。男は頷き、帽子を脱がずに会釈した。

2011-08-10 00:35:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「トビッコ・ギムレットを奢らせてくれよ」男は昔のように言った。「悪いわ」ゲイシャは作法どおり断ると、どこか寂しげな笑みを浮かべながら、男の向かいの木椅子に座った。「そう言わず」「じゃあ」。すると行司が、爽やかなターコイズ色の宝石のようなトビッコの沈むギムレットを運んできた。

2011-08-10 00:43:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人は、しばらく静かに会話を楽しんだ。男はテキーラを浴びるように呑んだが、シツレイな酔い方は決してしなかった。ゲイシャは、男の全身から漂う猛烈なアルコール臭に気付きはしたが、カソックコートの奥から密かに発せられる腐臭や、肋骨を伝って床に垂れるテキーラには気付かなかった。

2011-08-10 00:49:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男の名と静かな日常は失われて久しい。彼の現在の名はジェノサイド。腐り行く肉体を持つ、呪わしきゾンビーニンジャだ。相撲バーの暗いアトモスフィアと、ウェスタンハットの影に隠された彼の顔は、包帯めいた黒ニンジャ頭巾で覆われている。彼の目に瞼は無く、歯列を隠す肉さえも腐り落ちているのだ。

2011-08-10 00:55:39
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ゲイシャはユリコと名乗った。男は頑なに名乗らなかった。彼女はどうしてか、名も知らぬこの男に惹かれた。気がつくと、話すつもりの無い事まで話していた。前の男に棄てられ、ネオサイタマで仕事を続けることも難しくなったので、キョート・リパブリックで人生の再出発をはかるのだと彼女は語った。

2011-08-10 01:06:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「新幹線か?それとも空路か?」男がテキーラを呷りながら訊いた。「新幹線よ、金もないから」ユリコはトビッコ・ギムレットのようにドライに笑った。「命がけだな」「人生なんて、そんなものでしょ」そう答えつつも、目の前の男が車中で横にいたらどれほど頼もしいものかと、ゲイシャは思うのだった。

2011-08-10 01:11:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」薄暗いステージでは、スモトリがギターを裏返し、ボディを手で叩いてリズムを取る。もう一人のスモトリが、情熱的かつどこかひっ乾いたバンジョーのソロをかき鳴らしながら、店内を歩き回っていた。その時!ウェスタン風のドアを押し空け、4人のニンジャが不意に姿を現す!

2011-08-10 01:18:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ?!ニンジャナンデ?!」女は反射的に絶叫を上げた!テーブルの上をタンブリング技で飛び渡りながら、ニンジャ達は一直線に接近してくる。「アバーッ!」スモトリが死亡!「アイエエエエ!」客が卒倒!「アッ!」行司が死亡!「アイエエエエ?!」客が失禁!「アバーッ!」スモトリが死亡!

2011-08-10 01:29:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゲイシャは横を向き直った。男が立ち上がって臨戦態勢を取り、ウェスタンハットを投げ捨てていた。ニンジャ達に向かって何か呪いを言葉を吐き捨てているようで、唇のない口が裂けんばかりに大きく広がっていた。じゃらじゃらと鎖の鳴る音が聞こえ、男の袖口から不吉なバズソーの回転音が聞こえた。

2011-08-10 01:33:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐怖と混乱の余り、一時的にゲイシャは耳が聞こえなくなっていた。(((ゾンビ!?ゾンビナンデ!?)))彼女は叫びながらテーブルの下に身を隠す。テキーラの水溜りと、部位のよく分からない肉片が床にあった。ジェノサイドはそのテーブルを蹴り、四人のニンジャ達に向かって真っ向から飛び掛った。

2011-08-10 01:38:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゲイシャは腐臭の微かに混じったテキーラの水溜りの中で失禁し、その身を横たえていた。ニューロンが恐怖に対して防衛手段を講じ、哀れな彼女の意識をシャットダウンさせようとしていたのだ。薄れ行く意識の中で、彼女は聞いた。バズソーの回転音を、絶叫を、何かが切断され叩きつけられる音を。

2011-08-10 01:44:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして、何か得体の知れない音と、あの男のあげる苦悶の声を。最後には、死の静寂に包まれた店内に発せられる、ニンジャ達の声を。「……リー先生、ジェノサイドの捕獲に成功しました……実際すごい効き目ですよ、これは……ハイ、ハイ……ハイヨロコンデー!……キョートへの凱旋の……手土産に……」

2011-08-10 01:48:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鮮血を浴びたのがいけなかったのか、バチバチとひときわ激しい火花を散らして、「本格派」と書かれたネオンサインが焼ききれた。バッファローの頭骨がゆっくりと落下し、地面に仰向けに転がったスモトリのギターを鳴らす。(……キョート……ジェノサイド)ゲイシャは心で必死に呟きながら気を失った。

2011-08-10 01:51:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル」#1終わり #2へ続く

2011-08-10 01:54:10