ブレードヤクザ・ヴェイカント・ヴェンジェンス #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブレードヤクザ・ヴェイカント・ヴェンジェンス #2

2011-08-28 15:25:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ハエの煩わしい羽音とカボスの腐臭が彼を目覚めさせた。独房めいたワンルーム。ブラインド窓から差し込む横縞模様の光が、フートンの隣で寝息を立てる裸の女の背中を前衛的に色分けしている。男が起き上がると、女も目を開いた。

2011-08-28 15:31:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなたステキとてもダッタワヨ」女は片言で呟き、男の脇腹を指でなぞる。男は女をちらりとも見ずに、チャブの上の腐ったカボスを眺めていた。ハエがふらふらとその周囲を飛んでいる。やがてそのハエは男のほうへ飛んできて、目の前を横切ろうとする。男は無造作にそのハエを掴み取り、潰して殺した。

2011-08-28 15:37:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなたスッゴイワ」女が言った。「ミヤモト・マサシの映画見たワ。同じみたい」「……」埋め込み式サイバーサングラスとへの字の口に隠れ、男の表情は読み取れない。「その入れ墨もテクノね」Y-13という文字列を女が指で触れようとしたとき、男は立ち上がった。「……」

2011-08-28 15:44:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワタシこれビジネスだけどまた呼んでねアナタ」「……」男はチャブの上のボトル入り濾過水を手に取り、飲んだ。そして言った。「夢を見た」「夢?ステキネ」「……中身は忘れた。だから夢を見たと証明する事ができない」「そうなの?ステキネ」女は適当に相槌を打った。

2011-08-28 16:00:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男は女の見ている前で濃紺のニンジャ装束を着込んだ。「アナタ、本物のニンジャみたい」女は目を擦った。男はさらにその上に毛皮コートを羽織る。殺したヤクザから奪ったものだ。チャブの上に二万円素子を投げ、キツネのオメーンを装着すると、ケジメニンジャは振り返りもせず、退廃ホテルを後にした。

2011-08-28 16:09:00
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高級流しソーメン料亭「美の波風」。回転スシ店めいたドーナツ型のカウンターテーブルはコンベアーベルトではなく、かわりに溝の中をローマ水道めいてひっきりなしに水が流れている。その水の中で、生きた金魚とともに浮いたり沈んだりしている白くきらめくヌードルが、ソーメンだ。

2011-08-28 16:27:33
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「オットット」「オットット」「金魚はいけませんよ!」「オットット」スーツ姿のかしこまったサラリマンが白いソーメンを楽しげに手繰る。だが、半数のスーツ姿の者達はせっかくのソーメンにまるで手を付けず、彼らを不満げに見据えたままだ。この者らはスーツ姿であるがサラリマンではない。

2011-08-28 16:34:21
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「どうなすったんで?」「せっかくのソーメンですのに……」「オットット!」嬌声をあげる彼らのスーツにはヨロシサン製薬のバッヂが輝く。ヨロシサン製薬はキョート、サイタマ、ともに最大シェアを誇る製薬企業であり、闇社会においてバイオ悪事の九割の発端とも囁かれる暗黒メガコーポである。

2011-08-28 16:42:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らに対するスーツの者らは、誰あろう、エルダーツチノコクランのグレーターヤクザ達だ。当然ヨロシサンのサラリマン達はそれを承知の上でこの席に臨んでいる。それを承知の上で、この自覚・無自覚も定かでない慇懃無礼……万魔殿ヨロシサンの人間は一筋縄ではゆかぬのだ。

2011-08-28 16:47:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やおら、エルダーツチノコクランの中央のヤクザが水流にハシを挿し入れ、ソーメン二玉をひとまとめに掬い上げると、ショーユもつけず、大口を開けて一息で咀嚼した。そこには金魚も混じっていた。「話、いいですかな?エッ?」ダークスーツに包まれたグリズリーめいた巨体を乗り出す。コワイ!

2011-08-28 17:00:02
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「アッそうですね!そろそろやりますか!」「ズルルーッ!」「オットット!」読者の皆さんの中で、あるいはこのヨロシサン製薬の態度に疑問を持たれた方もいようか?おそらくそのような方はこれまでにソウカイ・シンジケートあるいはザイバツを接待する彼らの姿をご覧になっていたのではないだろうか。

2011-08-28 17:18:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エルダーツチノコクランとソウカイヤあるいはザイバツでは格が違うのである……エルダーツチノコクランがキョートにおいてのし上がったのも、彼らヨロシサン製薬の提供する最新型クローンヤクザY-13の力があればこそ。ゆえにヨロシサンは居丈高にもなる。

2011-08-28 17:21:44
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そうは言っても、彼らとていっぱしのグレーターヤクザ。彼らが一様にソーメンをひと飲みにして睨みを効かせると、ヨロシサンのサラリマンは曖昧な笑みを浮かべ、カウンターテーブルにハシを置いてかしこまった。「……例の件でございますね」「そうだよ……わかってんだろうが……」

2011-08-28 17:55:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「このたびは、実にこう災難といいますか」ヨロシサン社員は笑顔を崩さない。「ニンジャによるヤクザクラン襲撃とは……恐ろしい出来事もあったものです。ですが、ご安心ください、今回、クローンヤクザの再発注、セプク価格でご奉仕させていただきます……」「ザッケンナコラー!」

2011-08-28 18:23:21
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グリズリーめいた最も屈強なグレーターヤクザが立ち上がった。「しらばっくれんのかコラー!スッゾオラー!」「アイエッ!」グリズリーヤクザは社員めがけて写真を投げつける。監視カメラ映像のUNIXプリントアウトだ。そこには惨殺死体の中に立つニンジャ装束の男……クローンヤクザの顔が露わだ!

2011-08-28 18:31:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こいつクローンヤクザじゃねえかコラー!スッゾオラー!ナンオラー!てめぇんとこのニンジャじゃねえのかオラー!マッチポンプザッケンナコラー!弁解してみろオラー!チェラッコラー!」「アイエエエ!」ヨロシサン社員の最も若い一人が恫喝に負けて失禁!

2011-08-28 18:37:34
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エルダーツチノコクランの疑念とはすなわち、ヨロシサン製薬がクローンヤクザめいた自前のニンジャを用いて取引先のクローンヤクザを虐殺、その補充と称して無理やりに買い替え需要を作り出そうとしたのではないかと言う事である。実際その思考は自然であった。社員はハンケチで額の汗をぬぐった。

2011-08-28 18:47:46
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「こ、これは断じて違いますよ!我々の故意では無いですとも」気圧されながら、チーフサラリマンが弁明した。「原因は目下調査中ですが、」「ヴォラッケラー!」グリズリーヤクザが悪罵を極めた上級ヤクザスラングを叫ぶ!「ドグサレッガー!こっちはクローンじゃねえ兄弟も殺されッコラー!」

2011-08-28 18:54:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

グリズリーヤクザは己の放った言葉によって自らさらに激昂の度合いを強める。顔は紅潮し、怒声はなおもボリュームを増す。コワイ!「調査中!?って事は出所はテメェらって事じゃねえかオラー!?アッコラー!」「アイエエエ!」三人のヨロシサン社員の二番手社員も恫喝に陥落し失禁!

2011-08-29 00:59:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあまあ、オチャノ=サン」グリズリーヤクザの隣の金髪ヤクザが制した。「怒鳴っても始まらん」そしてヨロシサン社員へ獰猛な笑みを浮かべる。「誠意見せてくれますよねェ?」誠意!この、どうとでも取れる言葉こそ、日本社会の奥ゆかしさを逆手にとった悪辣なるトラップなのだ!

2011-08-29 01:03:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

金髪ヤクザは続ける「近頃はウチもお金が無い。一円も無いくらいです。誠意が見たい!」「アイエエエ!」失禁済みの二人の社員がガタガタと震え悲鳴を上げる。一円も無いという言葉は謎かけである。決して言質を取らせず、暗に「無料でクローンヤクザの補填を行うべし」という圧力をかけるやり口だ!

2011-08-29 01:06:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……本社に持ち帰らせていただいて、前向きに検討しましょう」黒髪をポマードで撫でつけた課長サラリマンはアルカイックな笑みを浮かべてそう答弁した。前向き……言わばゼロ回答。このサラリマンの上手である。「明日には回答もらえますよねェ?」金髪ヤクザは食い下がった。「連絡させます」

2011-08-29 01:33:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

課長サラリマンはハンケチで額を拭い「さあ、お昼も終わりだ」席を立とうとした。その時、入り口のシークレットショウジ戸が開かれ、このVIP流しソーメン部屋に、出入口警護のクローンヤクザがまろび込んで来た。「ア、アバッ!」クローンヤクザは乞うように両腕を掲げた。両肘から先が無い!

2011-08-29 01:35:16