死ぬのがこわくなくなる話 第5話

Twitter上で連載中の渡辺浩弐さんの長編小説をまとめました。
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渡辺浩弐 @kozysan

「死ぬのがこわくなくなる話」第5回目に進みます。話がまた飛びますが、ここまでのコメントの流れから、やはり、早めに、DNA/遺伝子については、話しておかなくてはと思った次第です。

2011-08-17 00:15:38
渡辺浩弐 @kozysan

あなたが、天国だの地獄だのという荒唐無稽な妄想にとりつかれているとしたらその理由は、死がこわすぎるからだ。死後の世界が存在するとあなたが考えている理由は、死をきちんと見つめる勇気がないからだ。

2011-08-17 00:16:17
渡辺浩弐 @kozysan

まともに考えると、正気でいられなくなってしまうかもしれないと、あなたの深層心理は主張している。だから考えないことにする。あるいは自分で自分をごまかそうとする。

2011-08-17 00:16:39
渡辺浩弐 @kozysan

ではなぜこわいのか。不思議ではないか。死とは無だ。ゼロだ。こわがるどころか考える対象になるものすら、そこにはない。こわくないし、面白くもないし、楽しくもない、辛くもなければ痛くもない。そこには何もない、はずなのだ。

2011-08-17 00:16:58
渡辺浩弐 @kozysan

それをあなたは本当は既に知っている。理性では、死をこわがるなんて、馬鹿馬鹿しいとわかっている。しかしあなたはどうしても、そう考えることができない。あなたの心を制御する、その力は、何なのだろう。

2011-08-17 00:17:12
渡辺浩弐 @kozysan

その答えも、はっきりしている。遺伝子だ。DNAというシステムのせいだ。

2011-08-17 00:17:32
渡辺浩弐 @kozysan

遺伝子とは、生き物の設計図だ。それは分子配列のパターンである。それは複製され、生き延びる。

2011-08-17 00:17:45
渡辺浩弐 @kozysan

いや逆だ。遺伝子が、時を超えて生き延びるのではない。時を超えて生き延びることを使命としたプログラミングのことを遺伝子と呼ぶのだ。

2011-08-17 00:18:00
渡辺浩弐 @kozysan

鉄で作ったものでも、コンクリートで作ったものでも、いつかは壊れる。しかし遺伝子は、壊れつつ同時に自己複製する絶妙なシステムだ。ミクロ世界でDNAがコピーされ続けることにより、マクロな世界で生物は類似形態を再現され続ける。つまり、いつまでも生き延びる。

2011-08-17 00:18:18
渡辺浩弐 @kozysan

そして、生き延びるために最も効果的だったのは、乗り物として使っている生物に、イマ・ココにある個体を死守する、という本能を設定することだった。

2011-08-17 00:18:35
渡辺浩弐 @kozysan

とりあえず「自分」が死なないように行動させる。そのために、苦痛や恐怖といった感覚を植え付けたのである。

2011-08-17 00:18:47
渡辺浩弐 @kozysan

ではなぜ、遺伝子は生き延びようとするのか? その設問自体が間違っている。生き延びようとするものが、生き続けたいものが、遺伝子なのだから。そういうものだからこそ、残ったのだから。

2011-08-17 00:19:21
渡辺浩弐 @kozysan

あなたが生きていて、死ぬのがこわいのではなくて、死ぬのがこわいから、あなたは、生きている。生き延びたいという本能があるから、あなたの属する種は、今まで続いてきた。それだけだ。

2011-08-17 00:20:47
渡辺浩弐 @kozysan

死の恐怖はDNA の仕掛けだ。人間として死がこわい理由。それは死がこわいから人間として生き続けることができた、からだ。死ぬことがこわくなかったら、人類は絶滅していたからだ。

2011-08-17 00:21:03
渡辺浩弐 @kozysan

それぞれの人は、あるいは全ての生き物は、ひどく死をこわがりながらも結局最後には死んできた。死を逃れられた人間はこれまで存在しなかった。しかし遺伝子は個体の死を乗り越えてちゃっかりと生き延びた。個体を生殖によって複製し、死んでいく世代から次の世代に乗り換えることによって。

2011-08-17 00:21:23
渡辺浩弐 @kozysan

生物は、進化の初期で、すなわちウィルスと細菌の境界あたりで「死」を獲得した。細胞分裂の回数に限界が設定された。以降全ての生物は例外なく死ぬことになった。

2011-08-17 00:21:41
渡辺浩弐 @kozysan

それは進化のプロセスで獲得した、れっきとした能力なのだ。人類の細胞を調べると、テロメアと呼ばれる部分に回数券機能つまり分裂の回数限界を「あえて」設定していることがわかっている。生物は、人は、「あえて」死ぬことになっているのだ。

2011-08-17 00:21:56
渡辺浩弐 @kozysan

死なない、というシステムだって不可能ではなかったはずだ。一個体の中で無限に細胞分裂を繰り返すという方法があっても不思議ではない。しかし、それは選択されなかった。その取捨には大きな意味があったはずだ。それが摂理だったのだ。

2011-08-17 00:22:36
渡辺浩弐 @kozysan

一つの個体がいつまでも生き続けることはDNAにとっては非効率的なのだ。例えば、周囲の環境の変化に対応することが難しくなる。よって、その、生き続けたいというプログラムを常に踏みにじる形で、個体に「死」を与えてきたのだ。

2011-08-17 00:22:58
渡辺浩弐 @kozysan

個体は、その時、遺伝子からだまされていたことを知る。その裏切りは、ショッキングだ。古来、死とはそういうものだった。

2011-08-17 00:23:13
渡辺浩弐 @kozysan

それでよかった。そういう仕組みが有効に機能してきた。これまでは。生命体として最高レベルである人類の知性が、あるレベルに達するまでは。

2011-08-17 00:23:30
渡辺浩弐 @kozysan

しかし、個体が集まって社会となり、文明を進歩させ、ついにはDNAの存在を意識するようになった今この時、人類は間違った一歩を踏み出そうとしているのではないか。     明日から、重要な問題提起を始めたい。

2011-08-17 00:23:58
渡辺浩弐 @kozysan

今日の「死ぬのがこわくなくなる話」は、ここまでです。

2011-08-17 00:27:21
太田克史 @FAUST_editor_J

@kozysan 渡辺さん、先週の『ガキ使』はご覧になられましたか? あの世界のヘイポーさんが、芸人さんの家にお泊まりにいく企画…。ラストシーンで、僕は“あの”ヘイポーさんによりによって感動してしまうとともに、ちょっとこわくなってしまったんです。

2011-08-17 00:29:42
渡辺浩弐 @kozysan

@FAUST_editor_J 見ました! あれ本当にすごかった! ヘイポーで泣けるとは!! 嘘と本当の間をジャンプしてしまう力は、やっぱり人生かけてやってるからだと思います。

2011-08-17 00:44:57