死ぬのがこわくなくなる話 第15話

Twitter上で連載中の渡辺浩弐さんの長編小説をまとめました。
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渡辺浩弐 @kozysan

さて。『死ぬこ話』 (しぬこわと読みます/ソースは松原真琴先生)第15話、始めます。

2011-08-27 00:24:23
渡辺浩弐 @kozysan

人工冬眠サービスのアルコア社のリポートの続き。長い観念的な話の後、ブリッジ氏は我々を連れて施設の中を案内してくれた。最初に一番奥の、暗い倉庫に導いた。そこに3メートルくらいの銀色の、小型ロケットのようなカプセルが、何十個も立ち並んでいた。 http://t.co/xWsAJBh

2011-08-27 00:28:02
渡辺浩弐 @kozysan

この中に実際に人体が保管されているのです、と平然とそう言った。彼は体(ボディー)もしくは患者(ペイシェント)と呼び、死体という言葉を一度も使わなかった。ステンレス製の円筒形カプセルの脇には、2人で登れる大きさのはしごが掛けられていた。促され、その一つに、ブリッジ氏と一緒に登った。

2011-08-27 00:29:59
渡辺浩弐 @kozysan

はしごの最上部に立つと、カプセルを真上から覗き込む姿勢となった。氏は手を伸ばし、バルブのいくつかを素早く回転させていた。そしてカプセルの蓋を取ってしまったのだ。ほら、ここに人が眠っている。氏は指さした。

2011-08-27 00:30:16
渡辺浩弐 @kozysan

白い湯気がふわっと立ち上った。その奥は暗く、死体いや人体は見えない。氏は手に持ったコップでおもむろにその表面をすくってみせた。それでカプセル内部は液体で満たされていることがわかった。コップからも白い煙がたなびいた。唖然としている僕の顔をめがけて、その液体を、ばっと浴びせかけた。

2011-08-27 00:33:16
渡辺浩弐 @kozysan

もう少しではしごから転がり落ちるところだった。液体は僕の顔や服にかかったが、その瞬間に、手品のように消えた。氏はげらげら笑ってから、これは-186℃の液体窒素です、と説明した。 http://t.co/A3SrcqR

2011-08-27 00:34:59
渡辺浩弐 @kozysan

液体窒素はじかに触っても、危険なものではないのか。霜の付いた頬に手を当てて呆然としている僕に、ブリッジ氏は笑顔で解説を続けた。実はこのカプセルにはまだ人間は入っていません。準備ないしチェックのために液体窒素だけを入れたものです。

2011-08-27 00:37:31
渡辺浩弐 @kozysan

人体が入ってからは内部に強い圧力がかけられた状態で完全密封される。液体窒素は圧力によって低温を維持する。このシステムならば、電気を供給し続ける必要がない。たまに液体窒素を補給するだけでいい。

2011-08-27 00:38:23
渡辺浩弐 @kozysan

この中で、人間は逆立ちの姿勢で眠っています。と、ブリッジ氏は言った。万一の事故で液体の供給が止まったとしても、あるいは漏れだしたとしても、液体がなくなっていくのはカプセルの上の方から、少しずつ、ということになります。

2011-08-27 00:39:03
渡辺浩弐 @kozysan

足、腰、腹、の順で解凍されていったとしても、最も大事な脳がやられるまで、1週間から10日の時間がかせげるという。

2011-08-27 00:39:21
渡辺浩弐 @kozysan

同じ場所に、一回り小さなカプセルもあった。子供用か、と考えていると、ブリッジ氏が教えてくれた。それは、頭部だけを保管するためのものです。1つに4人分の頭が入ります。

2011-08-27 00:39:43
渡辺浩弐 @kozysan

眠りについた人間の首を切って頭だけを冷凍する作業を想像していると、「冷凍のプロセスを見て頂けたらよかったんですが」そう言いながら氏はカプセルの蓋を閉じた。「いつまで滞在されますか、その間にもし患者を冷凍する機会があれば連絡しますよ」

2011-08-27 00:40:40
渡辺浩弐 @kozysan

冷凍という特殊な作業が、取材者とはいえ第三者にまで公開されうるものだということを知った。そうだ、ここには死という概念が存在しない。そして敬虔さという概念も。          続きます。

2011-08-27 00:41:09
kenkenken @ken3now

既にアルコア内部の写真が掲載されてた。 http://t.co/GuE4GuW  そして、「砂漠の乾燥地帯にぽつんとある街の、そのまた外れ」での渡辺さんの格好が、当時のいつもの格好だ。ジョブズと同じブレない男さを感じる! http://t.co/uVrEHxm @kozysan

2011-08-27 01:18:35
渡辺浩弐 @kozysan

@ken3now たしかに時代を問わず季節も問わずそして世界のどこに行く時も同じ格好です。

2011-08-28 00:36:15
hauN / es+ @cardinalcross

@kozysan たった一人でも、死ぬ前に冬眠措置を受け、その後再び再生された人はいませんか?調べた限りでは居ないのですが…

2011-08-27 02:32:56
渡辺浩弐 @kozysan

@cardinalcross 人為的措置で再生した例は人間ではまだ発表された例はありませんね。

2011-08-28 00:38:16
vuking𝕏vine𝕏P 「𝕏」 @vuking

@kozysan 精巣の中には、短くなったテロメアを延長させる機構かあるとテレビで聞いたことがあります。しかし、高校の家庭科の授業では、使われなかった精子は、体内で分解されてしまい吸収されてしまうと習った気がします。

2011-08-27 03:28:09
渡辺浩弐 @kozysan

@vuking 女の子を説得する時に使えるネタですね。

2011-08-28 00:39:16
内藤ふらい斗 @knight_flight

@kozysan 冷凍保存で今の時間の連続性を失ってウラシマ効果で絶望するのと、それでも生き続けられるということを天秤にかけるのは難しいですね。周囲の環境、社会が一掃された世界でも生きたいと思えるか。案外生きる欲望も自分以外に左右されてる気がします。

2011-08-27 12:05:45
渡辺浩弐 @kozysan

@knight_flight アルコア周辺のサイトをみるとそういう議論も盛んに行われていますね。会員というかスリーパーどうしの絆を深くするということで未来の絶望を回避しよう、という考え方がよく見受けられます。

2011-08-28 00:41:10