死ぬのがこわくなくなる話 第20話

Twitter上で連載中の渡辺浩弐さんの長編小説をまとめました。
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渡辺浩弐 @kozysan

さて『死ぬのがこわくなくなる話』その20を、はじめます。途中参加でも、疲れてる日には流して読んでいただいても、いいと思いますので、引きつづきよろしく。

2011-08-31 23:58:13
渡辺浩弐 @kozysan

話が前後するが、僕に人工冬眠のアルコア財団を紹介してくれたのは前出の心理学者、ティモシー・リアリー氏だった。はるか遠くの国から来た無名のライターの取材を受けてもらえた理由は、この人が口利きをしてくれたからだ。

2011-08-31 23:59:53
渡辺浩弐 @kozysan

リアリー氏と知り合ったきっかけは、1990年頃、確かサンフランシスコの会議場で開かれたマルチメディア(当時はこういう言葉があった)関連のイベントだ。その姿を間近で見かけ、つい「不老不死について勉強しています」と話しかけたら、「では一度、話をしに来たまえ」と、言ってくれた。

2011-09-01 00:00:54
渡辺浩弐 @kozysan

それから交流が始まった。LAはハリウッドにほど近い丘の上の自宅までよく伺い、菜食料理をごちそうになった。凄く若くて、そしてボディビルディングで体を鍛えておられる奥さんと、DJをやっているハンサムな息子さんがいた。

2011-09-01 00:11:09
渡辺浩弐 @kozysan

また、彼が来日した折には日本の雑誌やテレビに出てもらったりもした。http://t.co/TtozI8f

2011-09-01 00:11:23
渡辺浩弐 @kozysan

彼と会えばテレビゲームの話をすることが多かった。この、当時70歳を過ぎたカウンターカルチャーの教祖と呼ばれる人物と、マリオやソニックの攻略法について話すのは、今思うととても面白い体験だった。http://t.co/kNex3n2

2011-09-01 00:12:32
渡辺浩弐 @kozysan

ゲームの話がスムーズに、サイバネティクスの話へとつながっていく。彼にとってゲームは、あるいはコンピュータは、かつて自分がドラッグに見出していた意識開放のためのツールだった。ゲームにハマっている時の脳の状態は、瞑想によって得られる境地に近いと彼は言った。

2011-09-01 00:13:40
渡辺浩弐 @kozysan

脳の中の新しい回路を開く状態だ。それをかつてはドラッグによって行おうと試みていたのだ。

2011-09-01 00:14:04
渡辺浩弐 @kozysan

コンピュータがパーソナル化し、さらにはそれで脳を遊ばせるようになった。その時、脳が覚醒し始めたのだ。それはつまり、デジタルネットワークに向けて細胞が開いたということ、あるいはそういう状態にスイッチングされたということだというわけだ。

2011-09-01 00:14:25
渡辺浩弐 @kozysan

さらに彼は人間とコンピュータ、あるいは現実社会とバーチャル環境がボーダレスになる状況を予想し、それを前提に様々な可能性を語った。

2011-09-01 00:16:53
渡辺浩弐 @kozysan

デジタルメディアに、個人の、人間の永遠性を閉じこめていくこと。それが人類を次の段階に進化させる方法だという。

2011-09-01 00:17:44
渡辺浩弐 @kozysan

そんな彼が不老不死について語る時、よく古代エジプトのファラオのことを引き合いに出した。

2011-09-01 00:18:16
渡辺浩弐 @kozysan

近年、ピラミッドに保存されていたミイラから、完全なるDNA を抽出することを試みている学者がいる。もしそれが成功して、さらにクローニング技術を駆使してその肉体を再現することができたら、来世に蘇る、というファラオの願いがついにかなうことになるというわけだ。

2011-09-01 00:18:44
渡辺浩弐 @kozysan

ただし、生き返るためには技術だけでは済まされない問題がある。莫大な費用だ。そのことを古代エジプト人は知っていた。そこで膨大な金銀財宝をピラミッドに収めていた。

2011-09-01 00:19:02
渡辺浩弐 @kozysan

またその方法で生き返っても、自分のミーム、あるいは個人的な記憶は失っているだろうということも知っていた。さらには壁画や壁文字、そして様々な副葬品によって自分の記憶や文化的アイデンティティーを保存しようとしたのだ。

2011-09-01 00:19:17
渡辺浩弐 @kozysan

リアリー氏はそう語った。だけではなくそのコンセプトを現代に継承しようとしていた。彼は壁画や副葬品よりもずっと密度の高いアーカイブシステムとして、コンピュータや周辺機器の進歩に期待していた。そして、デジタル機器に記憶をアーカイブする計画をいろいろと話してくれた。

2011-09-01 00:19:36
渡辺浩弐 @kozysan

ただ、まだハードディスクがメガバイト単位で、外部記録メディアとしてはフロッピーが全盛期の頃である。インターネットもまだ普及していなかった。

2011-09-01 00:20:04
渡辺浩弐 @kozysan

アップロードの方法についても彼は早い時期から取り組んでいた。実のところ、記憶を効率よく整理分類しつつ保存するシステムを60年代に既に提唱していて、それがアップル社のマッキントッシュ・コンピュータのコンセプトに大きく影響していると言われているくらいなのだ。

2011-09-01 00:20:27
渡辺浩弐 @kozysan

90年代時点の彼は、自分の全ての記憶をデジタル化しようとしていたわけではなかった。その代わりに、考え方や哲学などをアルゴリズム化することをもくろんでいた。あと10年いや15年長生きしたら、それに近いことはできていたのではないかと思う。

2011-09-01 00:20:50
渡辺浩弐 @kozysan

さて僕は彼がアルコアに登録していると思いこんでいた。ちょうど僕がアルコアを訪問しはじめた頃に彼は亡くなったのだが、なんと冷凍されなかった。彼の遺体は宇宙葬に付された。

2011-09-01 00:25:24
渡辺浩弐 @kozysan

ただそれはそれで納得できる選択だった。彼は宇宙移民思想の熱烈な推進者であった。単にセンチメンタルな理由ではなく、そして葬儀された気すら実はなく、いつの日か未知の文明の技術により未知の場所で目覚めることをもくろんだのではないかと僕は推測する。

2011-09-01 00:26:37
渡辺浩弐 @kozysan

宇宙の真空・無菌状態は、ピラミッドの石棺よりも死体保存には適しているのである。目覚めが何億年何兆年先のことであれ、彼にとっては一瞬、なのである。

2011-09-01 00:27:46
渡辺浩弐 @kozysan

アルコア側のコメントには、リアリー氏は死の直前まで会員だったとある。                    続きは明日。

2011-09-01 00:32:17
くめぴん @kumepin

@kozysan 早すぎた…よくある話ですね

2011-09-01 00:45:58
渡辺浩弐 @kozysan

@kumepin 1996年に亡くなられたことは、その後のネットやパソコンの進化と拡充を思うと本当に惜しいのですが、ただ僕らで受け継げることはありますね。

2011-09-01 16:26:11