クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド #4

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二部「キョート殺伐都市」より:「クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド」#4

2011-09-20 13:39:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ロッカールームめいて正方形の四角い鉄扉立ち並ぶ通路を歩く編笠姿の男の足取りは重い。この扉群はロッカーではない。コフィン・ホテルのおよそ最もひどい営業形態であり、中には一人ずつ、生きた労働者がスシ詰めで眠っているはずだ。編笠の男は溜息をひとつ吐き、エレベーターに乗り込む。

2011-09-20 13:56:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ロビーに到着しました。出るドスエ」マイコ音声すらもがどこか剣呑で、彼はひどく侮辱された気持ちになる。だがこれからは毎日このマイコ音声を聞く事になるのか。この生活に慣れねばならないのだろうか。

2011-09-20 14:03:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

慣れる?この環境に?慣れるほどにこの生活を今後も維持できるのか?手持ちはもうあまり無い……。男は暗澹たる気分で考える。とにかく仕事……日銭を稼がねば。玄関のノレンをくぐって外に出ると、そこは第13層の「屋外」……それは巨大な洞窟のようでもある。

2011-09-20 14:08:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

はるか頭上には最小限の鉄骨を張り渡して補強しただけの、地盤むき出しの層天井。足元の地面は硬い粘土質そのままだ。鉄条網で根元を覆われたタングステン・ボンボリが要所要所に配置され、この暗鬱な世界を照らし出す。道端ではコフィン・ホテルにすら泊まれぬ者らがゴロ寝している。

2011-09-20 14:13:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男は首を巡らし、列を為す人々を見やった。バス乗り場だ。次々にバスがやって来ては、人々をピックアップしてゆく。行き先はリフト駅、あるいはこの同じ13層のどこかの現場だ。「仕事……」男はヨロヨロと列に加わろうと歩き出した。「おい待て。券あるのか券」くたびれた制服姿の人間が呼び止める。

2011-09-20 14:18:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「券?」編笠の男が鸚鵡返しにすると、制服の男は舌打ちした。「あのな、仕事の手配はあっちのセンターなの!ワカル?」制服の男は高台の建物を指差す。瓦屋根のその建物には巨大な看板が掲げられ「手配のセンター」と書かれている。「券無い奴は無い、今日の仕事はもう無い!早い者勝ち!」「な……」

2011-09-20 14:40:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「邪魔!」制服の男が無慈悲に言い捨てた直後、後ろからやってきた労働者が編笠男の背中を押し退け、制服の男に無言で券を渡した。「ハイ、あんたはあっちのバスね。ハイ。次の人。ハイ……おい、邪魔だ、いつまでも立ってるんじゃないよ。排除させるぞ」「……!」なんたる横柄!編笠男は拳を握った。

2011-09-20 14:43:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが直後、わなわなと震える拳は力無く下ろされた。怒りのままにこいつを殴り殺しても騒ぎになるだけだ。そして一銭にもならない。無駄なカロリーの消費にしかならないのだ……。編笠男は肩を落として踵を返した。「カスめ」容赦ない侮蔑がその背中に吐きかけられる。

2011-09-20 14:47:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

編笠男はトボトボと坂を下って行く。己の不遇を嘆かずにはいられない。キョートへ来てからボタンを掛け違えたように何もかもうまくゆかぬ。仲間ともはぐれ、あっという間に下層……もはや当初の覇気は失せた。何がマズかったのか、未練がましく記憶を辿り脳内でシミュレーションを繰り返すばかり。

2011-09-20 14:54:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

13層に降りて来たばかりの頃はまだ良かった。鉱山で仕事もあった。いずれ上へ戻るつもりだった。だが彼が暮らしていた区画は突然現れたメガコーポ勢力によって理不尽に閉鎖された。遠くで不吉にライトアップされる製鉄所めいた無骨な建造物を恨めしく見やる。かつて彼が生活していた区画の現在を。

2011-09-20 14:59:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フー……」彼はもう一度溜息をつき、視線を戻した。彼は目を見開いた。目の前を、よく肥ったバイオモグラが横切ったのだ。「なんだと!」彼はそれを追って駆け出した。周囲を見回す。誰もいない!「おっ、俺のものだ!」

2011-09-20 15:03:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

脂肪とうまい肉を震わせて逃げるバイオモグラに彼は飛びかかった。「イヤーッ!」アメリカンフットボール選手めいて見事にダイビング・キャッチ!「タンパク質ヤッター!」その後方から走り来る輸送バス!アブナイ!彼はモグラを抱えて咄嗟に横に転がり、轢き殺されるのを回避!「ザッケンナコラー!」

2011-09-20 15:13:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

走り去るバスへ向かって毒づいた彼は腕の中で暴れるバイオモグラの首を掴み、一捻りで絞め殺した。ああ!この生暖かい感触!錆びつきかかっていた生存本能がニューロンを輝かせる。そのひとときの甘美な快楽に、男は酔いしれた。そして叫んだ。「モッチャム!モッチャム!」

2011-09-20 15:29:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴゴーッ!砂利を跳ね飛ばし、続くもう一台の輸送バスが通過する。編笠の男は、すれ違いざま、そのバスの中でつり革につかまる男を……ハンチング帽を目深にかぶった男を見上げた。研ぎ澄まされていた彼の鋭敏な知覚力は一瞬で答えを導き出した。「ニンジャスレイヤー!?」

2011-09-20 15:35:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その瞬間、彼は砂利を蹴って全速でダッシュする!「イヤーッ!」バイオモグラを抱えたままバス目掛けてジャンプし、そのバスのリアパネル金具を片手のニンジャ握力でしっかりとグラップ、取りついた!

2011-09-20 15:42:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッハーッ!」先程までの意気消沈からはまるで想像のつかぬ豪放な笑いを、彼は荒野に轟かせた。「俺のニンジャ洞察力は誤魔化せぬぞニンジャスレイヤー=サン!ではあのアンコールワットが補給基地か……よかろう!ゲリラ!ジェロニモ!」何も知らぬ輸送バスは向かう……製鉄所めいた巨大建造物へ!

2011-09-20 16:02:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

輸送バスが急ごしらえの駐車場に停止し、労働者達がぞろぞろと吐き出される。その中にニンジャスレイヤーとガンドーの姿もあった。二人は……今のところ……大人しく労働者の列に紛れ、案内役の指示に従っていた。駐車場に待機していた案内役は、当然のごとくクローンヤクザであった。

2011-09-20 18:29:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「工期厳守」「もちろん安全は大事」「礼儀を尽くせ」「コンプライアンス」といったミンチョ体スローガンが砂利道の左右に抜け目無く配置され、労働者を威圧している。歩きながら二者は眼前の巨大建造物をあらためて眺める。製鉄所、あるいは巨人の顕微鏡といったシルエットだ。

2011-09-20 18:45:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

柱状のハンマーシリンダー上部は頭上の層天井を貫通している。いわばこれは鋼鉄製の巨大なウスとキネ……だが突くのはモチではない。足下の地盤であり、階層を隔てる隔壁であり、14層の層天井であり、その下で日々を暮らす人々の住処である。それらを理不尽な雷めいて貫通し破砕する悪魔装置なのだ。

2011-09-20 18:51:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「テメッコラー!」案内クローンヤクザが大声を出して解説した。「この物件の用途は考えなくていい!鋼板一枚、歯車一つ、てめぇらの命より高い!それだけ覚えとかんかい。これから各グループで分けて配置する。組み立て作業は実際締めの工程だぞ!キリキリ作業せんかい。スッゾコラー!」

2011-09-20 19:15:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーとガンドーは厳しく目配せする。だいたいの手はずは打ち合わせ済みだ。この現場の関係者達は労働者を無力な蟻扱いしており、IDチェックもずさん、はなから身体検査も金属探知も無かった。安心し切っているのだ。

2011-09-20 19:23:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、下の14層の該当居住区は軟禁めいて封鎖されており、移動や逃走ができぬよう見張られているのだろう。リフトも13層から下は「メンテナンスにより利用不可」とされていた。知識や問題意識を持った人間は、はなからこの掘削計画自体を知りようがないようになっているのだ……通常ならば。

2011-09-20 19:25:42