高橋源一郎さん「メイキングオブ『悪と戦う』より「左利きの卒業式祝辞」

高橋さんがtwitterで24時から行っている、ご自分の小説について(主にメイキング)のツイートで、ゲド戦記作者の講演を全文翻訳・紹介されていたものをまとめました。 「もしかしたら私たちは権力の言葉はもう充分に獲得し、人生の戦いについて議論しているのかもしれません。もしかしたら私たちには弱々しさを表す言葉が必要なのかもしれません。」 「暗闇こそあなたの国、あなたが生活し、攻撃したり勝利を収めるべき戦争のないところ、しかし未来が存在するところなのだということを思い出してほしいのです。私たちのルーツは暗闇の中にあります。大地が私たちの国なのです。」 続きを読む
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高橋源一郎 @takagengen

メイキングオブ『「悪」と戦う』6の① これは『ゲド戦記』の作者、アーシュラ・K・ル=グインがある女子大で行った「左ききの卒業式祝辞」というタイトルの祝辞です。ぼくは自分の本で引用しています。「左きき」は少数派である「女性」をまず意味し、そして潜在的にはあらゆる人々も意味するのです

2010-05-07 00:01:08
高橋源一郎 @takagengen

6の②「公の席で堂々と女性の言葉でお話しするという類まれな機会を与えて下さったミルズ・カレッジ、1983年ご卒業のみなさんに御礼申し上げたいと思います。男子学生も卒業していくことも存じております。彼らを無視しようなどとは思っておりません。しかし、卒業式というものは……」

2010-05-07 00:04:28
高橋源一郎 @takagengen

6の③「…卒業生たちはみな男子であるか、あるいは男子であるべきだという暗黙の了解のうちに執り行われるものです。だからこそ私たちはみなこのような十二世紀の衣裳を身につけているのです。おかげで男性は見映えがしますが、女性はきのこか妊娠したコウノトリのように見えるじゃありませんか」

2010-05-07 00:06:44
高橋源一郎 @takagengen

6の④「知的な伝統とは男性ものなのです。演説は公の言葉、つもり国家あるいは部族の言葉でなされます。そして私たち部族の言葉は男性の言葉です。もちろん女性もその言葉を学びます。私たちは馬鹿じゃありませんからね。その話の内容から、マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガン、あるいは」

2010-05-07 00:09:14
高橋源一郎 @takagengen

6の⑤「インディラ・ガンジーとソモザ将軍の区別がつく方はどうかその見分け方を教えて下さい。ここは男性の世界です。ですから世界は男性の言葉を話すのです。言葉はすべて権力の言葉です。みなさんもずいぶん頑張りましたね。でも道のりはまだまだ遠いのです。自分の魂を売ったところでゴールに…」

2010-05-07 00:11:33
高橋源一郎 @takagengen

6の⑥「…到達することはできません。なぜなら、そこにあるのは彼らの世界であって、みなさんの世界ではないからです。もしかしたら私たちは権力の言葉はもう充分に獲得し、人生の戦いについて議論しているのかもしれません。もしかしたら私たちには弱々しさを表す言葉が必要なのかもしれません」

2010-05-07 00:14:25
高橋源一郎 @takagengen

6の⑦ 「今、みなさんが大学というこの象牙の塔から現実の社会へと前進し、出世街道を歩むことを私は希望しますとか、あるいは少なくともご主人を助け、私たちの国の力を維持し、あらゆる点で成功を収めることを望みますと言うのではなく……権力を論じるかわりに、もし私がここで、この公の席で……

2010-05-07 00:17:21
高橋源一郎 @takagengen

6の⑧「…女性のように話をしたらどうなるでしょう? それは場違いに響くことでしょう。とんでもないことになるに違いありません。私がまず第一にみなさんに望むことは、もし仮に、もしですよ、子供が欲しいならお持ちなさいということです、と言ったらどうなるでしょう。なにもたくさんはいりません

2010-05-07 00:20:17
高橋源一郎 @takagengen

「…二、三人で充分です。可愛いお子さんだといいですね。みなさんも子供たちも食べるものがちゃんとあって、友人も、自分のしたい仕事も持てるといいですね。さて、みなさんはこういうことのためる大学に来たのでしょうか? それだけのためですか?成功の方はどうなったのでしょう?」

2010-05-07 00:22:45
高橋源一郎 @takagengen

「成功とは他の人の失敗を意味します。成功とは私たちが夢見つづけてきたアメリカン・ドリームです。わが国の三千万人もの様々な地方の人々の大半は貧困という恐るべき現実を見据えながら生活しているのですから。そう、私はみなさんにご成功を、とは申しません。成功についてお話する気もありません」

2010-05-07 00:25:25
高橋源一郎 @takagengen

6の⑪「私は失敗についてお話したいのです。なぜなら、みなさんは人間である以上、失敗に直面することになるからです。みなさんは、失望、不正、裏切り、そして取り返しのつかない損失を体験することでしょう。自分は強いと思っていたのに実は弱いのだと気づくことがあるでしょう。所有することを…」

2010-05-07 00:28:17
高橋源一郎 @takagengen

6の⑫「…目指して頑張ったのに、所有されてしまっている自分に気づくでしょう。もうすでに経験ずみのことと思いますが、みなさんは暗闇にたったひとりで怯えている自分を見いだすことでしょう。私がみなさん、私の姉妹や娘たち、兄弟や息子たちすべての人々に望むことは……」

2010-05-07 00:30:56
高橋源一郎 @takagengen

6の⑬「…そこ、暗闇で生きていくことができますように、ということなのです。成功という私たちの合理的な文化が、追放の地、居住不可能な異国の地と呼び、否定しているそんな土地で生きていくことを願っています。どのみたち、私たちは異国人ですね。女性は女性であるがゆえに、男性が自ら宣言した…

2010-05-07 00:32:59
高橋源一郎 @takagengen

6の⑭「…この社会の規範から除外され、遊離しています。この社会では人間は男(マン)と称し、尊敬すべき唯一の神は男性で、唯一の方向は上昇なのです。そうです。それは彼らの国なのです。私たちは私たち自身の国を探し求めようではありませんか。私はセックスのことを言っているのではありません」

2010-05-07 00:35:51
高橋源一郎 @takagengen

6の⑮「私は社会のこと、いわゆる人間の制度化された競争、侵略、暴力、権威、および権力の世界のことをお話しているのです……そして、それに対して、私は、私たち自身のやり方でことを進めたらどうかとお話しているのです……いえ、彼らに『対抗しろ』と言っているのではありません。なぜなら……」

2010-05-07 00:40:15
高橋源一郎 @takagengen

6の⑯「…それもやはり男性の規則に従ってプレイすることになるのですから。そうではなくて、私たちとともにいる男性と手を合わせて進むのです。これは私たちのゲームなのです。大学教育を受け、自立した女性がなぜマッチョな男と戦ったり、あるいは彼に仕えたりしなければならないのでしょか?」

2010-05-07 00:42:55
高橋源一郎 @takagengen

6の⑰「なぜ彼女は彼のやり方に従って生きなければならないのでしょうか? マッチョな男たちは合理的でも明瞭でも競争的でもない何でもない私たちの流儀を恐れています。ですから、彼はそういったものを軽蔑し、否定するように私たちに教えこんできたのです。私たちの社会の中で女性は人生の……」

2010-05-07 00:45:32
高橋源一郎 @takagengen

6の⑱「…あらゆる側面を生きてきました。そして、それゆえに軽蔑されてきました。人生のあらゆる側面には無力、弱さ、病気、非合理で取り返しのつかないもの、曖昧で受動的で、抑えがきかず、動物的で、不浄なものすべて……影の谷間、深み、人生の深さも含まれています。そうしたもの一切に……」

2010-05-07 00:48:09
高橋源一郎 @takagengen

6の⑲「…対して責任をとることも女性の生きてきた人生なのです。兵士が否定し、拒否するものすべてが私たちに残され、私たちとともにそうしたものを共有する男性は、それゆえに私たちと同様、医者ではなく看護士の役しかできず、兵士ではなく民間人の、酋長ではなくインディアンの役割しかないのです

2010-05-07 00:50:48
高橋源一郎 @takagengen

6の⑳「それが私たちの国なのです。私たちの国の夜の部分です。もし昼間の部分、高い山脈や明るい緑の大草原があるとしたら、私たちは開拓者がそれを語る物語しか知らず、そこにはまだ到着していません。マッチョな男たちの真似をしたところで、そこに行くことはできません。私たちは自らのやり方で…

2010-05-07 00:52:58
高橋源一郎 @takagengen

6の21「…前進し、そこで生活し、私たち自身の国の闇夜を生き抜くことによってのみ、そこに到達するのです。そこで私がみなさんに望むのは、女性であることを恥じたり、精神病室の社会機構の囚われの身であることに甘んじる囚人としてではなく、土着の人間としてそこに生きることです……」

2010-05-07 00:55:30
高橋源一郎 @takagengen

6の22 「みなさんがそこでくつろぎ、家を持ち、自分自身の部屋を持つ自分自身の主人として生きることです。そこで自分自身の仕事に従事することです。仕事は自分の得意なものなら何でもよいのです。芸術であれ、科学であれ、科学技術であれ、会社経営であれ、ベッドの下の掃除であってもよいのです

2010-05-07 00:57:31
高橋源一郎 @takagengen

6の23「それは女のする仕事だから二流の仕事だ、などという人がいたら、くたばっちまえ! と言ってやると同時に、男女平等の賃金を支払わせるのです。また、みなさんが誰かを支配したり誰かに支配されたりする必要に迫られることなく生活していくことを私は希望します。私はみなさんが決して……」

2010-05-07 01:00:04
高橋源一郎 @takagengen

6の24 「…犠牲者になるなどないよう望みますが、他の人々に対して権力を振るうこともありませんように。そして、みなさんが失敗したり、敗北したり、悲嘆にくれたり、暗がりに包まれたりしたとき、暗闇こそあなたの国、あなたが生活し、攻撃したり勝利を収めるべき戦争のないところ、しかし未来が

2010-05-07 01:02:28
高橋源一郎 @takagengen

6の25「…存在するところなのだということを思い出してほしいのです。私たちのルーツは暗闇の中にあります。大地が私たちの国なのです。どうして私たちは祝福を求めて天を仰いだりしたのでしょう……周囲や足下を見るのではなく。私たちの抱いている希望はそこに横たわっています。ぐるぐる旋回する

2010-05-07 01:04:49