【再放送】マグロ・サンダーボルト #2
廃墟ビル内に濃霧めいた硝煙が立ちこめる。「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」右手にLAN直結型オートマチック拳銃、左手に大トロ粉末の入ったジュラルミンケースを持つ男が、息を切らしながら硝煙を抜けて現れた。「「「ザッケンナコラー!」」」姿見えぬクローンヤクザの怒声!追っ手である! 1
2022-10-21 22:41:00男は都市迷彩柄のサイバーコートにニットキャップ、サングラス。そして傍目には解らぬが、全身にサイバーギアを埋め込んでいる。右のサイバネアイが硝煙の先に人型を捕捉!「死ね!貴方!庶子!行け!貴方自身を前後しなさい!」BLAMBLAM!「アバーッ!」待ち構えるクローンヤクザを銃殺! 2
2022-10-21 22:44:00彼の名はラッキー・ジェイク。ネオサイタマ裏社会のチンケな賞金首だ。そして今日の彼はあまりラッキーではなかった。運びの仕事自体が、彼を捕えるためにヤクザクランが張った危険なトラップだったのだ!「クソ、弾切れかよ……!」彼は心の中で神を罵りながら、論理直結銃のマガジンを確認する。 3
2022-10-21 22:47:00「「「ワメッコラー!ワドルナッケングラー!」」」廃ビル内に、威圧的なクローンヤクザの怒号が響き渡る。戦力差は圧倒的であり、まともに戦っても勝ち目は無い。ついにラッキー・ジェイクは、シンカンセンでキョートに向かうことも叶わず、この異郷の地でブザマな死を遂げてしまうのであろうか? 4
2022-10-21 22:50:00(((どうした、ラッキー・ジェイク!このクソ仕事を回しやがったあの情報屋だけは許せないだろ。だから死ぬワケにゃいかない。考えろ……何か無いか……!)))彼は祈るような気持ちでクローンヤクザの死体をあらためた。その時、不意に、彼のサイバネが弱々しいバイタルサインをキャッチした。 5
2022-10-21 22:53:00それは本来ノイズとして除去されて当然のバイタル情報であった。だがラッキー・ジェイクはラッキーだった。彼は地上階の階段の下の暗い影で、壁に寄りかかって項垂れる、昏睡状態の浮浪者を見つけたのだ。ぼろぼろのトレンチコートにハンチング帽。所々に血の跡。横には安物スシとオチャの空容器。 6
2022-10-21 22:56:00この男は何者か。どのような経緯でここにいるのか。そのような事を考えている時間は、ラッキー・ジェイクには無かった。サイバネアイのスキャン情報がこの浮浪者めいた男について『すぐ死にます』と告げると、ジェイクのニューロンの中で激しいスパークが起こった。(((……ハレルーヤ!))) 7
2022-10-21 22:59:00ジェイクはこの哀れな男を目立つ場所に引きずり出し、コートと帽子を自分のものと交換し、サングラスをかけさせた。自分自身でも驚く程の手際の良さだった。細部にもこだわりを見せた。直結銃を握らせ、大トロ粉末ケースも置いた。上からクローンヤクザの死体を転がし、争った形跡すら生み出した。 8
2022-10-21 23:02:00男はまだ死んだように眠り続けていた。「「「スッゾコラー!」」」怒号が近づく。潮時だ。逃げ出そうとして、ジェイクは一旦思い止まり、戻ってきた。罪悪感を覚えたか?いや、違う。彼はケースを開け、粉末パックを自然な形で撒き散らすと、何個かポケットに仕舞った。そして改めて逃げだした。 9
2022-10-21 23:05:00【このアカウントは】 ・「ニンジャスレイヤー」のエピソードをTwitterで連載しています ・今日は過去の読み切り名作エピソードを再放送します ・末尾に数字が振られている。その数字順に読んでいく ・数分ごとにツイートが飛んでくるがそういうわけでバグではない ・#ニンジャスレイヤー で実況
2022-10-25 21:19:00【今回の話は】 ・2030年代の「ネオサイタマ」が舞台です ・ジャンルは「サイバーパンク・ニンジャアクション小説」 ・常人にある日突然ニンジャソウルが憑依してニンジャになる世界観です ・サイバーパンクなので肉体を半機械化している奴も多い ・ニンジャのほうが強い ・治安は終わっている
2022-10-25 21:22:00【マグロ・サンダーボルト】#2 続き pic.twitter.com/FEDagCfljj
2022-10-25 21:33:00男はまだ死んだように眠り続けていた。「「「スッゾコラー!」」」怒号が近づく。潮時だ。逃げ出そうとして、ジェイクは一旦思い止まり、戻ってきた。罪悪感を覚えたか?いや、違う。彼はケースを開け、粉末パックを自然な形で撒き散らすと、何個かポケットに仕舞った。そして改めて逃げだした。 10
2022-10-25 21:36:00きっかり1分後。ジェイクが上階に仕掛けたスモーク・トラップやヤマダ型ディスラプター・デコイに散々手こずらされた挙げ句、四人のクローンヤクザがこの階段下に到着した。そして銃殺されたクローンヤクザの死体と、そのすぐ近くで昏睡するジェイクらしき男を見つけたのだ。 11
2022-10-25 21:39:00一糸乱れぬ動きで、四人のクローンヤクザはジェイクらしき男を囲むように立ち、チャカガンの銃口を向け、四方向から見下ろした。起きる気配無し。無表情に互いの顔を見合わせた後、クローンヤクザは四つ子めいた動きで同時にIRCを送った「「「「ハシバ=サン、ジェイクを捕まえました」」」」 12
2022-10-25 21:42:00だがハシバから返信は無い。すぐ近くで死んでいるクローンヤクザの死体から流れ出た緑色の血が、赤く変わってコンクリートにしみ込んでゆく。四人のクローンヤクザはもう一度ゆっくりと互いの顔を見合わせてから、同時にIRCを送った。「「「「ハシバ=サン、ジェイクを捕まえました」」」」 13
2022-10-25 21:45:00廃ビル近くのヤクザベンツの助手席で、ハシバは道端の小さなトリイを見つめながら、ブルー・メン・タイ刻み入りの手製煙草を吹かしていた。彼の生体LAN端子には情報素子が差され、買ったばかりの電脳麻薬を試している。危険な合わせ技だ。「ハシバ=サン、着信です」と運転席のクローンヤクザ。14
2022-10-25 21:48:00だがハシバはトリイの中に現れた、蛍光青の神秘的なグリッド幻影を見つめていた。果てしない飛翔感。ワープする宇宙船めいて、上下左右に編目模様が見える。左右には二匹のサイバーイルカが飛び、彼に語りかけた。「こんな事してると、ソンケイを失っちゃうよ」「大丈夫さ、時代は変わったんだ」 15
2022-10-25 21:51:00トリップ空間を飛翔するハシバは、微かな震動に気づいた。光沢ヤクザスーツのポケットに手を伸ばすと、IRC端末が震えていた。「ハシバ=サン、着信です」クローンヤクザが再び言った。「…おう」彼は頭を振ってトリップから復帰し、IRCを確認した。まだ頭の中ではイルカの声が鳴っている。 16
2022-10-25 21:54:00