永本哲也 博士論文「1525-1534年ミュンスター宗教改革・再洗礼派運動 ~都市社会運動の総体把握の試み~」紹介

永本哲也が東北大学に提出した博士論文「1525-1534年ミュンスター宗教改革・再洗礼派運動 ~都市社会運動の総体把握の試み~」の、著者自身による紹介です。
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Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

そういえば、私は、昨年度東北大学に博士論文を提出して学位を取ったのですが、東北大学のリポジトリに未だに博論の要旨もアップロードされていないという事で、ここで紹介してみようかと思います。

2011-10-11 22:30:32
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

少ししたら、かなりの数連投すると思いますので、関心がない方は、今のうちリムっておいて下さい。

2011-10-11 22:31:32
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

それでは、博論について連投します。

2011-10-11 22:35:48
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

私の博士論文のタイトルは、「1525-1534年ミュンスター宗教改革・再洗礼派運動 ~都市社会運動の総体把握の試み~」と言います。この論文で私が扱ったのは、ここに挙がっているように、ミュンスターの宗教改革と再洗礼派運動についてです。

2011-10-11 22:36:21
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

1960年代以降発達した宗教改革研究では、都市共同体に注目が集まりました。共同体の宗教的、さらには世俗的な自治権を拡大することが、都市で宗教改革を進めようとした市民たちの動機だったというのです。この考え方は、後にブリックレによって農村共同体にも拡張されました。

2011-10-11 22:39:07
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

しかし、このような研究には大きな問題がありました。それは、都市共同体に属する市民ばかりに注目が集まり、市民権を持たない貧しい男性や女性のことが軽視されてきたことです。都市の人口の大部分は市民権を持っておらず、彼らもまた宗教改革運動に参加していたことを考えれば、これは大問題です。

2011-10-11 22:40:29
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

そのため私は、都市には様々な人々が住んでおり、彼らは各々色々な動機や利害に基づいて宗教改革運動に参加していたと仮定し、そういった多様な人々や集団の個々の動きが、どのように相互作用して、ミュンスターで宗教改革運動、そして再洗礼派運動を進展させていったかを明らかにしようとしました。

2011-10-11 22:41:55
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

これを可能にするために、長い間粘り強く考えて、何とか考え出したのが、以下のような方法です。

2011-10-11 22:43:14
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

先ず、ミュンスターで起こった1525年の騒擾、1530-33年の宗教改革運動、1533-34年の宗派分裂の各社会運動の経過をそれぞれ見ていきました。ここは、通常の歴史学の論文っぽい感じで書いてあります。

2011-10-11 22:43:58
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

しかし、このような経過を追った後が、この論文の本番です。つまり、この三つの社会運動で、様々な集団や階層がどんな主張をして、どんな行動をしていたのかを、全て個別に見ていったのです。

2011-10-11 22:44:47
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

個別に主張と行動を分析したのは、都市制度上の集団である市参事会、全ギルド会議、ゲマインハイト、ギルド、市区、政治的社会階層である門閥市民、二流の名望家、市民、アインヴォーナー男性、女性と、全部で十種類です。

2011-10-11 22:46:02
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

そして、これらの分析結果を踏まえて、彼らのうち運動を支持していたのはどんな人々だったか、人々はどんな動機で運動に参加したのか、彼らの動きがいかに相互作用して運動が進んでいったのかをそれぞれ分析することによって運動の全体像を明らかにしようと試みました。

2011-10-11 22:47:01
ワカサト @wakasato_

今、永本さん@saisenreiha がご自身が書いた博士論文のことについてツイートなさっている。面白いです。16世紀のミュンスターの再洗礼派等について。

2011-10-11 22:48:19
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

その際、市参事会、全ギルド会議などの集団が行う交渉等、都市の制度に基づく領域を「公式な領域」、そこで結ばれる協定や誓約等の合意を「形式的合意」、住民の私的な活動等都市の制度に基づかない領域を「非公式な領域」、そこで私的に結ばれる住民の間の合意を「実質的合意」と概念上区分しました。

2012-07-09 12:29:34
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

何故なら、このような区分を行うことで、都市の制度上の集団や市民たちの活動だけでなく、都市住民の私的な活動や貧民や女性といった都市社会で周辺的な地位にあった者たちの活動も分析対象にすることができるからです。

2011-10-11 22:50:27
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

そして、三つの社会運動についてそれぞれ分析した後、最後にこれらの社会運動を全てひっくるめて分析し、ミュンスターの社会運動の全体像を明らかにしようしたのが私の博士論文です。

2011-10-11 22:51:02
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

その分析過程はかなりややこしくて、紹介しきれないので、このような分析で明らかになったことをまとめてみますと、以下の五点ほどが挙げられます。

2011-10-11 22:51:44
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

一つ目は、非公式な領域で成り立っていた実質的合意が、公式な領域での形式的合意が効力を持つための前提条件になっていたことです。たとえ、市参事会や全ギルド会議といった統治機関の間で形式的合意が成り立っていたとしても、住民が従う気がなければ、合意内容の実行は不可能でした。

2011-10-11 22:52:28
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

二つ目は、非公式な領域で一部の住民によって結ばれた実質的合意を、都市全体で効力を持つ公式な領域での形式的合意にするために、ギルドと全ギルド会議が仲介役として決定的に重要な役割を果たしていたことです。彼らは住民の要求を市参事会に対し伝え、要求を受け入れさせる役割を果たしていました。

2011-10-11 22:53:36
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

三つ目は、市内で実質的合意が成り立つためには、その合意に反対する住民の沈黙が不可欠だったことです。多様な人々が暮らす都市内部で全員の意見や利害が一致することはないし、市参事会には少数派の反対意見を抑圧する力もなかったため、反対派の沈黙が市内で実質的合意が成り立つ際に必要でした。

2011-10-11 22:55:55
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

四つ目は、小規模な集団や個人による活動が、宗教改革の進展に無視できない影響を及ぼしていた事です。宗教改革運動は、多様な都市住民の多様な要求や行動が相互に影響し合いながら進展しており、場合によっては小規模な集団や個人による小規模な行動が、運動の進展を決定的に変えることもありました。

2011-10-11 22:59:29
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

五つ目は、都市住民は、実際には都市全体の利益より自分の利益を重視して行動していたと思われますが、常に公共の福利に配慮していると自分たちの主張や要求を正当化していたことです。その意味で、公共の福利は、たとえ内面化はされていなくても、都市住民全てに共有されている理念だったと言えます。

2011-10-11 23:00:28
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

以上のようなこの博士論文の研究史上の意義は、先ず都市内部の様々な集団や階層が、宗教改革に対して取った態度やその動機、そして運動の進展に与えた影響を個別に検討し、さらにそれら全ての行動がいかに相互作用していたかを明らかにしたことにあるでしょう。

2011-10-11 23:01:27
Tetsuya Nagamoto @saisenreiha

さらに、ゲマインデや市民などの公式な領域での活動に注目してきた既存の宗教改革運動研究に対し、非公式な領域での活動、貧困男性や女性、小集団や個人の小規模な活動もまた、都市宗教改革の進行に決定的な影響を与えていたと実証したことになると思います。

2011-10-11 23:02:20
hajimemasite@頑張れない @pn_hajimemasite

RT、というか @saisenreiha さんの博士論文について。当たり前の事とはいえ、こう鮮やかに博士論文の内容を語られると、例の尋問の時、こういうことをスラスラ言えるべきなんだなって思うと同時に、言えるようになりたいと望んでしまうのだが、それ以上に、この論文が読みたくなる。

2011-10-11 23:03:09
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