デス・フロム・アバブ・セキバハラ #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(第2部「キョート殺伐都市」より 「デス・フロム・アバブ・セキバハラ」#2)

2011-11-10 22:42:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(前回までのあらすじ:イグゾーションに敗れたニンジャスレイヤーは、セキバハラ荒野で数日間に渡って磔にされていた。灼熱の太陽!空腹!サスマタ!拷問!バイオハゲタカ!バイオスズメ!そして狂気の影がニンジャスレイヤーを容赦なく襲う!もはやこれまでか?!だがそこへガンドーが駆けつけ……)

2011-11-10 22:48:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーは敵が潜んでいないことを祈りながら、磔台へと駆け寄った。「スシ……スシ……」フジキドが苦しげに呻く。「待ってろよ、もう少しだぜ」ガンドーはフライパンのように熱くなった磔台の裏側を、素早く手で探った。オブツダン式の小さな隠し蓋を開けて、目当てのLAN端子を発見する。 1

2011-11-10 22:59:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーは素早くLAN直結し、磔台のハッキングを試みる。造作も無いプログラムだ。ファイアウォールも無い。(((こいつがこんなブザマな姿を晒してるのは、実際初めてだな…。急げ急げ、敵が来るやもしれねえ)))10秒後。ピガーーー!抵抗が焼き切れ拘束具部分から圧縮空気が放出された。 2

2011-11-10 23:21:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

忌々しい拘束具が外れてゆく。糸の切れたジョルリめいてフジキドの両腕がガクンと垂れ下がり、それから満身創痍のニンジャは頭から前に倒れ込んだ。キナコめいた乾いた砂が舞い上がる。ガンドーがバイオハゲタカの死骸をブーツで蹴り飛ばすと、群がっていた蝿どもは口惜しそうに飛び去っていった。 3

2011-11-10 23:27:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暫くして。正気を取り戻したニンジャスレイヤーとガンドーは、ともにストーンヘンジに背を預けて横並びに座り、激しい直射日光の熱と乾きから身を守っていた。ガンドーは胸元からマグロスシの入ったタッパーを取り出し、それをニンジャスレイヤーにも供する。ショーユは無いが、贅沢は言えない。 4

2011-11-10 23:37:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暫く二人とも無言で、瑞々しいスシを口に運んだ。「……無線LAN…」やがてフジキドは枯れかけた声で訊く「……無線LANすら届かないこの荒野で、一体どうやって私の居所を……?」「2日前だ」ガンドーが返す「LAN直結してIRCにログインしたまま寝た俺の夢に、ナンシー=サンが現れた」 5

2011-11-10 23:48:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブッダ!俺は実際興奮した。伝説のコトダマ空間に足を踏み入れたかのようだった。実際そうだったのかもしれん。ともかく…彼女は俺に何故か礼を言った。それから、あんたがこのストーンヘンジにいると言い残して、彼女は消えた…」スシは終わり、腰に吊ったサイバー水筒を取ってチャを2杯注ぐ。 6

2011-11-10 23:56:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……フゥーッ……」ニンジャスレイヤーはチャを飲み、安堵の息をついた。完全食品であるスシ、優れた水分補給手段であるチャ、そしてニンジャ耐久力が化学反応を起こし、見る間に乾きが癒されてゆく。ガンドーもまたチャを飲み、世界の果てのような荒野を見ながら、満足げな息をひとつ吐いた。 7

2011-11-11 00:09:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうか、ナンシー=サンが……」まだいくらか意識が混濁しているのか、メンポを直したニンジャスレイヤーは乾いた空に向かって呟くようにぽつりと言う。自分が孤立無援の身であるなどとは、つくづくとんだ思い上がりだ、とフジキドは自省した。そして、隣にいるズバリ中毒者のことを思い出した。 8

2011-11-11 00:17:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オヌシのことは、実際死んだと思っていた」とニンジャスレイヤー「ザイバツニンジャどもがそう言っていたのだ。あれは私の希望を挫くための虚言だったか」「いや、あながち間違いでもないぜ」とズバリタバコを吹かすガンドー「ナンシー=サンがザイバツIRCに侵入して、偽の死亡報告を流した」 9

2011-11-11 00:24:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さらに付け加えておくと、俺の預金口座も一ケタ増えてた。それで俺は、あの夢が現実の電子的事象だったと確信したのさ」ガンドーは彼方の雄大なキャニオンと、その上に聳えるセキバハラジョウ・キャッスルの廃墟を見ながら言った。世界の終焉があるとしたら、こんな光景だろうと彼は思った。 10

2011-11-11 00:31:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……礼を言う」ニンジャスレイヤーもまた、彼方の荒城を見上げながら言った。そして立ち上がろうとするが、膝に力が入らず、産まれたての鹿のようによろめいた後、また同じ場所に腰を下ろす。「オイオイオイ、流石にまだ動けんだろ。……ニンジャってのが、どのくらい回復が速いかは知らんが」 10

2011-11-11 00:36:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのまま二人の戦士は、ストーンヘンジの影の角度が変わってゆく光景を眺めながら、疲れ果てた身体を休めた。乾いた風の音とニンジャスレイヤーの静かなチャドー呼吸音だけが聞こえた。幸いにも、周囲に敵の気配は無かった。十三人の乗り手は皆アジトへ戻り、見張りも配置されていないのだった。 11

2011-11-11 00:44:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方その頃。数マイル離れた谷間に掘られた、イグゾーションの秘密アジトにて。 13

2011-11-11 00:46:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アジト入口は丸い大岩で隠されているものの、その内部にはアッパーガイオンのビルディング内と何ら変わらない、快適なアコモデーションが隠されていた。馬から下りたクローンヤクザたちは自動的にカンオケめいたコフィンベッドへと入り、紫色の光を浴びて荒野の疲れを癒している。 14

2011-11-11 00:54:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

他にもこの施設内には50人近いクローンヤクザ、10人の奴隷ゲイシャと5人の奴隷スモトリもいる。イタマエもだ。作戦司令テーブルにUNIXも5台以上あり、冷暖房やセントウまで完備されている。無いものといえば、ネットワーク環境くらいのもの。それとて、敢えて設けていないのだ。 15

2011-11-11 01:00:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

無線LANすらも届かない広大なセキバハラ荒野は、高度にネットワーク化されたキョート・リパブリックにおいて、ある種の聖域であった。イグゾーションにとってこの一帯は、ザイバツの情報網に察知されることなく秘密裏に事を運ぶための、極めて重要な意味を持つ第二の活動拠点なのである。 16

2011-11-11 01:07:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((むろん、私がロードに二心を抱くわけではない)))イグゾーションは奴隷ゲイシャに身の世話をさせ衣服を着替えながら、心の中で言った。(((むしろその逆だ。あの男…あのダークニンジャとかいう得体の知れぬ疫病神に制裁を下し、シャドーギルドに正しき秩序をもたらさんがため!))) 17

2011-11-11 01:11:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イグゾーションは背を向けたまま、静かなキリングオーラを放つ。奴隷ゲイシャたちは思わず失禁しそうになった。その直後、彼はアメリカ大統領めいたにこやかなスマイルで、エクスキューショナーの肩を叩く。「君には本当に期待しているよ。この極秘任務が終われば、我々の派閥は再び力を得る」 18

2011-11-11 01:17:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ!」上半身裸のエクスキューショナーは、黒い処刑人頭巾の奥で目を輝かせた。「クラミドサウルス君は残念な事故で脱落してしまったが、将来的に彼の穴を埋められるのは……君しかいないと思っているんだ。まだ位階は低いがね。不相応に低い。君の能力はもっと評価されるべきだ」「ハイ!」 19

2011-11-11 01:26:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私はウミノ=サンにインタビューをした後、しばしキョート城へ戻る。あらゆる侵入者からこのアジトの留守を守るのだ」「ハイ!ヨロコンデー!」エクスキューショナーは握り締めた鋼鉄サスマタで大理石の床を叩き、片膝立ちの姿勢を作ると、イグゾーションへの揺るぎない忠誠をアッピールした。 20

2011-11-11 01:30:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

穏やかな笑みを作って頷くと、イグゾーションは部下に背を向け、麻薬的センコの香りが漂う回廊へと向かった。その途端、イグゾーションの顔は驚くほど冷淡で虚無的な表情へと変わる。(((ハン、愚鈍で扱いやすい奴だ。……だがそれでいい。ニンジャも人間も、所詮欲望には勝てぬもの……))) 21

2011-11-11 01:39:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「逃げるところが無い」「外は暑い」「ハゲタカ」等と書かれた警句ショドーの横をつかつかと歩くイグゾーション。彼の心は穏やかではない。近頃、彼の信念を揺るがしかねない敵が…私利私欲をおくびにも出さぬ敵が2人現れたからだ。一者はダークニンジャ、もう一者はニンジャスレイヤーである。 22

2011-11-11 01:49:04