シャドー・コン #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「到着ドスエ」エレベーターが開き、ボンボリで照らされた短い廊下を渡る。護衛ニンジャが深々とオジギするのを横目に見ながら、サラマンダーはフスマを開き入室した。ゼンめいたタタミ敷きの玄室がサラマンダーを出迎える。四方の壁は黒く、中央にイロリがある。正座したキモノ姿の女が一人。 )

2011-12-30 13:02:12
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(「ドーモ」黒髪の女は三つ指をつき、頭を下げた。これはドゲザではない。奥ゆかしいチャドー作法である。女は顔を上げ、曇りガラスめいた、死んだ目でサラマンダーを見た。「……サラマンダー=サン」「ドーモ。ユカノ=サン」サラマンダーは尊大にアイサツを返した。「まことの名には馴れたか」 )

2011-12-30 13:02:44
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第二部「キョート殺伐都市」より:「シャドー・コン」#3

2011-12-30 13:03:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ユカノと呼ばれた女は無表情にサラマンダーを見返す。彼女は日本美に肉体を与えたかのような奥ゆかしい美貌の持ち主であり、着物の上からも、その胸は豊満であった。サラマンダーは言った。「ところでイッキ・ウチコワシのアンサラー=サンは知らぬ男ではない。奴は元気にしておるかね」 1

2011-12-30 13:28:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンサラー=サン」「そうだ。奴はドラゴンドージョーでドラゴン・ゲンドーソーの……そして俺の教えを受けた男」サラマンダーの目が光った。だが、ユカノの表情は動かない。「俺はお前がネンネの娘だった頃を知っているぞ、ユカノ=サン」「……」サラマンダーは笑った。「やはり記憶無しか」 2

2011-12-30 14:15:17
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サラマンダーはユカノにまつわる話をいったん打ち切り、イロリの端に腰をおろした。「チャをくれんか」「ハイ」ユカノは頭を下げ、チャの準備を始めた。天井からこのゼン空間にそぐわぬモニターパネルが降りて来て、点灯した。先程のファランクス対アイアンリング戦の録画映像だ。 3

2011-12-30 15:11:59
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サラマンダーは顎を摩りながら、映像を凝視する。……対角のゲートが開き、二人のニンジャが入場、オジギ。戦闘開始だ。オジギを戻すと同時にアイアンリングが小さく跳ね、構えたばかりのファランクスの顎を蹴り上げる。ファランクスはオジギを終えており、シツレイには当たらない。「見事だ」 4

2011-12-30 15:26:56
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ファランクスは軽い脳震盪を起こしたであろう。よろめいて後退する。アイアンリングはそのまま踏み込み、ジゴクめいた中段突きを叩き込んだ。ポン・パンチ。「これは避けられまいな」吹き飛んだファランクスは金網コーナーに叩きつけられていた。既にアイアンリングはその目の前に接近している。 5

2011-12-30 15:30:15
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「ドーゾ」「ドーモ」サラマンダーはユカノから差し出された茶器を取り、いかめしく飲んだ。「フン」サラマンダーは鼻を鳴らす。「得意のジャベリンパンチもムテキ・アティチュードも出せぬか。ファランクスは決して弱いニンジャではないが、所詮、此奴の相手にはならぬという事よ」 6

2011-12-30 15:47:39
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「……」ユカノはコメントを返さぬので、サラマンダーの独り言めいている。実際サラマンダーのほうでも返事は期待していないのだ。映像には一方的にファランクスを殴りつけるアイアンリングが映っている。既にファランクスに意識は無い。そしてサマーソルトキック。ファランクスが爆発四散する。 7

2011-12-30 15:51:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何も感じぬか?此奴の身のこなし。此奴のこの、サマーソルトキック」「ハイ」「アワレなものよ!」サラマンダーは笑った。「アワレな男!そしてアワレな娘だ」ここでモニタ左上にノーティスが入り、先程のヤクザからの通信が割り込んだ。「ドーモ。セコンドはモミジ・ヤンガです。グリズリー穴の」8

2011-12-30 16:10:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グリズリー=サンとな。ハハハ!」サラマンダーは笑った。「不思議な縁もあったものよ。奴が絡んで来るか。もはや浮上の目など無いアンダードッグが」「は……」「こちらの話だ。たいした意味は無い。ご苦労」「ドーモ!」ヤクザ通信が切断された。入れ替わりに、出入り口フスマが僅かに開いた。 9

2011-12-30 16:23:25
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「オジャマシマス」「よい」サラマンダーはフスマを開けた護衛ニンジャのバンシーを振り返った。バンシーはまずドゲザしたのち、うやうやしく黄金のオリガミメールを掲げて見せた。「パラゴン=サンからのお達しです」「内容は見ずともわかる」サラマンダーは首を鳴らし、立ち上がった。 10

2011-12-30 16:39:58
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「ユカノかどうかの真偽を確認中……とでも答えておけ。待たせてよい」サラマンダーは言った。「イクサ舞台に興を添えてやらねばなるまい。美味いサケが向こうから俺のもとへ転がり込んで来たのだ。俺にはその権利がある!」「ハイ!」バンシーは再度ドゲザした。「仰せの通りに!よしなに!」 11

2011-12-30 16:52:12
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バンシーはドゲザしたまま後ろへにじり下がり、恭しくフスマを閉めた。サラマンダーは肩を震わせ、腹の底から笑いをこみ上げさせた。「勝ち上がって来い。俺の礎になりに来い……」 12

2011-12-30 17:01:03
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「ウオオオ!ウオオオオ!」「ウオオオオ!ウオオオ!」割れ鐘めいた歓声と悲鳴、怒号を後に、モミジとアイアンリング=イチロー・モリタは、鉄板を打ち付けた無骨な廊下を歩いた。モミジは顔を上気させ、何度もアイアンリングの背中を叩いた。「やった!本当にやった!キンボシ・オオキイだ!」 14

2011-12-30 18:20:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、番狂わせである。新人のアイアンリングに目立った戦績は無く、ニンジャ同士の戦いは初めてだ。対する古代ローマカラテ会のファランクスは獅子やバイオスモトリを何度も平均の二倍速度で瞬殺、数度に渡りニンジャをも倒しているベテランだ。オッズは壮絶、ショック死した観客もいるだろう。 15

2011-12-30 18:25:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「へへ……参ったぜ……」モミジは暗く笑った。「信じられねえ」隣のアイアンリングを見る。アイアンリングではないアイアンリングを。悪魔めいた取引。後には戻れぬ。「私に賭けたか」歩きながらアイアンリングが問う。「ああ。賭け金自体がショボいが……それを元手に次はもっとデカく行く」 16

2011-12-30 18:30:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それでいい」アイアンリングは言った。「次も必ず勝つ」「いよいよトーナメントだ」モミジは言った。「いいか、次の相手は……」廊下を抜け、薄汚いロビー、柱に寄りかかるニンジャと目が合った。スクランブラー。隣にタネバと数人のボディーガードもいる。二人は立ち止まった。「こいつだぜ」 17

2011-12-30 18:38:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どういう事だ?」タネバは歯噛みして呻いた。「あいつ、怪我は……」「ドーモ!ゴキゲンヨ!」モミジは不敵にアイサツした。「怪我?いや、ありがてぇぜ、なんだかんだ言ってよォ、お前さんがたの紳士的なスパーリングのおかげさ!こうして後遺症も何も残らず、ピンピンしてやがる!ドーモ!」 18

2011-12-30 18:43:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーモ」タネバは暗い顔でアイサツを返した。「どちらにせよ楽しみにしていますよ。本戦をね」「アイアンリング=サンに賭けとくかい?」「ハッ!」タネバは口を歪めた。「負けしか知らない弱小は、まぐれ勝ち一つで調子に乗り過ぎて困ります。いいですかスクランブラー=サンは……」 19

2011-12-30 18:51:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はそこらのにわかニンジャじゃねえ」スクランブラーが遮った。「コマンドサンボからジュドーに転向、一度も負けた事がねえ。全てイポン勝ちだ。そんな俺にニンジャが憑いた。つまりカラテにカラテをかけて100倍だ。わかるか?この算数が。エエッ?」アイアンリングに顔を近づけ睨む! 20

2011-12-30 18:55:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「悪いがスクランブラー=サンはガイオン開催のジュドー世界大会のタイトル保持者です。わかります?ロシア、メキシコ、アフリカ。磁気嵐を越えてキョートに集まる最強の戦士たち。彼らの中で最強。つまり最強です」タネバがメガネを指で直し、言った。「それがニンジャになった。事件ですよ」 21

2011-12-30 19:00:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「では、それほどまでに事件めいたニンジャが、名も無いニンジャに手も足も出ず倒される。となれば大事件か?」アイアンリングがスクランブラーに顔を近づけたまま言った。「否。三面記事の価値すらあるまい。ありふれたニュービーの挫折の記録だ。ガス中毒者の鼻紙にもならんな」 22

2011-12-30 19:18:54