高橋源一郎氏による「午前0時の小説ラジオ」第一回

高橋源一郎氏による「小説に関するあれこれすべて」。一回目のタイトルは「わからなくっても大丈夫」。
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高橋源一郎 @takagengen

突然ですが、「路上演奏」、今夜から再開します。忙しかったり、体調が思わしくなかったり、準備ができてなかったりで、もう少し、先の予定でした。でも、24時頃、呟くことはずっとしてたし。そもそも、準備が必要なものじゃないはずだし。毎回一時間やる必要もないし。なので、今夜から、やります。

2010-05-23 18:43:02
高橋源一郎 @takagengen

なんで24時から? といわれます。もう少し早い方がいいんじゃないか、って。もっと早いと、子どもたちを寝かしつける時間になっちゃうから。そこしかないんです。前回は「メイキングオブ『「悪」と戦う』」でした。あれは特別版。これからは、「午前0時の小説ラジオ」というタイトルでやります。

2010-05-23 18:46:54
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」の中身は、小説に関するあれこれすべて。小説という表現にとって、およそこの世界に存在するもので興味のないものはありません。だから、話の中身に困ることはないでしょう。今日は、たぶん、『「悪」と戦う』のみなさんの感想から、お話をすることになるでしょう。ではまた。

2010-05-23 18:52:29
高橋源一郎 @takagengen

あと少しで「午前0時の小説ラジオ」始めます。一回目のタイトルは「わからなくっても大丈夫」。では数′後に。

2010-05-23 23:57:43
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の1…最初に、『「悪」と戦う』を読まれた方の感想を、いくつかRTします。「読んで号泣しました」というようなやつではないので安心してください。作者だって、そういう感想をRTするのは恥ずかしいです。じゃあ、始めます。

2010-05-24 00:01:17
高橋源一郎 @takagengen

こういう感想をいただきました。 RT @car03000 @takagengen 『悪と戦う』読了しましたが、多くの問を残したまま、僕の中では未だ未消化です。今、考えなければならない正義とは、未来とは。サンデル教授の問う「正義」と絡めながら、再読しています。「

2010-05-24 00:02:31
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の3…それから RT @y_ogura 「悪と戦う」読了しました。初高橋源一郎本でした。午前中届いて,一気に読みました。分からないことがいっぱいで,とてもよい本に出会えました。うまく言えませんが,不思議な気持ちです。また読み返します。ありがとうございます。

2010-05-24 00:04:09
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の4…さらに、RT @ keitanakamu 『「悪」と戦う』(高橋源一郎@takagengen )を読了。僕にはわかりませんでした。でも、家庭を持ち、子供を持ったら、また読んでみたいです。5年後?10年後?

2010-05-24 00:05:25
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の5…他にもたくさん。いろんな形で「わからない」という感想がありました。でも「もう一回読みます」とか「わからないけど、なんかすごく感じました」とか。ぼくは、それを読んでとてもうれしかったです。小説の最高のほめ言葉は「わかんないけど面白かった」だと思うからです。

2010-05-24 00:08:26
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の6…ぼくは昔から「わからない」に興味をもってきました。いろんなものが「わからない」。でも「わからない」ものにもいろいろある。そもそも、それを作ったひとが他人に理解されようと思ってないから「わからない」もの。複雑な技法に、その人だけの感覚。それはちょっとわからない

2010-05-24 00:10:48
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の7…その作品の所属している「文脈」が見えないから「わからない」もの。特定のジャンルの作品、予備知識のいる作品、お仲間しか「わからない」作品。そこらまでの「わからない」は、ぼくもあまり好きじゃない(好きなものあります)。でも、そうじゃない種類の「わからない」もある

2010-05-24 00:13:47
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の8…意味が全然「わからない」のにドキドキする。なにが書いてあるのか「わからない」のに、好きだと思う。なぜなんだろう。それは、その作品に対するレセプター(受容器)はあるのに、それを説明することばがないからだと思います。自分の中に秘められた感覚を説明することばがない

2010-05-24 00:16:47
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の9…だから、ぼくたちは、それを説明するためには、自分で新しいことばを作るしかない。ぼくが「わからない」(けれど、好きな)ものを、好むのは、それはただ面白いのではなく、それを説明しようとして、ぼくたちは、自分の中に新しいことばを作り出そうとするからです。

2010-05-24 00:18:43
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の10…その時、読書は創作に近づきます。いや、ほとんど創作しているのだと思います。ぼくは、「わからない」ものとの付き合い方を、中学生の頃、「現代詩」を読むことを通じて学びました。一つ、例をあげてみます。「わからない」詩が「わかる」ようになった瞬間の話です。

2010-05-24 00:21:03
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の11…ぼくは周りの早熟な天才たちの真似をして、現代詩を読み始めました。でも、「わからない」。ほんとにほぼ100%意味が「わからない」。無理もないですね。それまで、詩人といえば島崎藤村、というレベルの中学1年生が、現代詩の最先端を読むはめになっちゃったのだから。

2010-05-24 00:23:45
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の12…谷川雁という詩人がいました。たぶん、当時現代詩を読んでいた青少年にとって「神」のような存在の詩人。共産党を脱党して過激な政治行動に走った行動派であり、ラジカルな政治思想の持ち主であり、また、華麗で難解なレトリックでも知られていた(ぼくは知りませんでした)。

2010-05-24 00:26:33
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の13…「男だって虹みたいに裂けたいのさ/所有しないことで全部を所有しようとする/ おれは世界の何に似ればいいのか」。うん、たぶんカッコいい思ったけど、意味がわからない。「存在ははな欠け 現象はゆるみ」って、ちょっと、どう読めばいいんでしょう。谷川さん……。

2010-05-24 00:30:03
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の14…そんな時、彼の代表作「東京へゆくな」を読みました。その詩はこう始まります。「ふるさとの悪霊どもの歯ぐきから/おれはみつけた 水仙色した泥の都/波のようにやさしく奇怪な発音で/馬車を売ろう 杉を買おう 革命はこわい」。まだ「革命」が若者をとらえていた頃です。

2010-05-24 00:33:01
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の15…「馬車を売ろう 杉を買おう 革命はこわい」って、思わずリフレインしました。意味はわかんないけど、なんかすごく素直だ、と思った。詩はさらに「なきはらすきこりの娘は/岩のピアノにむかい/新しい国のうたを立ちのぼらせよ」「つまずき こみあげる鉄道のはて」

2010-05-24 00:35:30
@takagengen

「小説ラジオ」1の16…とつづき「ほしよりもしずかな草刈場で/虚無のからすを追いはらえ」、そして、もっとも有名な次のパートになだれこむ。「あさはこわれやすいがらすだから/東京へゆくな ふるさとを創れ」。この「ふるさと」はロハスな田園生活、という意味なんかじゃありません。

2010-05-24 00:38:08
@takagengen

「小説ラジオ」1の17…敗戦後間もない日本、疲れ果てた田舎です。一方、東京は「文化」や「進歩」や「未来」の象徴。みんなが東京へ向かおうとする。うろたえるな、足下を見ろ、そこにおまえの生きる場所があるじゃないか。もしかしたら、これは「アンチ・グローバリズム」の遠い先駆けかもしれない

2010-05-24 00:41:20
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の18…もちろん、ぼくはそんなことがわかったわけじゃありません。「東京へゆくな ふるさとを創れ」にびっくりした。わからないけど。「東京」ってなんだ。「ふるさと」ってなんだ。面白いのは、びっくりしたことで、その前の「あさはこわれやすいがらすだから」もわかったのです。

2010-05-24 00:43:55
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の19…教科書的にいうと、この谷川雁という人は、打ち捨てられそうな日本の周縁部にメッセージを寄せた、ということになるでしょう。でも、この詩人も、書きながら、はっきりとはわかっていなかったと思う。まずいきなり「東京へゆくな ふるさとを創れ」ということばが噴出した。

2010-05-24 00:46:10
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の20…その「東京へゆくな ふるさとを創れ」ということばの強さを抱いたまま、ふと見上げると、もう朝になっていた。そして、その時、朝はこわれやすいがらすのように思えた、ということだと思うのです。ことばを洗練させたから、この詩ができたわけじゃない。詩人にとっても……

2010-05-24 00:48:32
高橋源一郎 @takagengen

「小説ラジオ」1の21…「わからない」ことばが、見たこともない風景を産む、いつもは見慣れた風景を、新しいものに見せる。ああ、詩っていうのは、こういうものなんだ。「わからなく」っても「わかる」んだ。「わからない」からどきどきするんだ。「わからない」ものがぼくを成長させてくれるんだ。

2010-05-24 00:51:13