@f_zebraさんによる使用済み燃料プールのリスクと福島第一原子力発電所4号機に関する考察

@f_zebraさんによる、使用済燃料プールの燃料棒がメルトダウンするためにはどのような過程を経て、最悪の場合に環境にどのような影響があるのか、福島第一原子力発電所4号機がそのような状況に至る可能性はあるのか、についての考察です。たいへん詳細で参考になるかと思います。 前スレ↓ 「@f_zebra さんによる福島第一4号炉燃料貯蔵プールの状況解説」 http://togetter.com/li/243829
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Flying Zebra @f_zebra

今晩にでも、SFPがメルトダウンに至る具体的なプロセスとその影響、1Fの4号機についての考察を連続tweetします。全部メンションすると煩いでしょうから外します。そのうち誰かが纏めてくれるかな。togetterがよく分かってないので他力本願。@buvery

2012-01-19 18:51:31
Flying Zebra @f_zebra

使用済燃料ピット(SFP)のメルトダウンについて、先日は熱量から原子炉に比べると起こりにくく、緊急時にも対処がしやすいことを説明しました。もう少し掘り下げて、実際にメルトダウンに至るプロセスと起こった場合の影響について考察してみます。

2012-01-19 23:10:04
Flying Zebra @f_zebra

最初にお断りしておきますが、BWRの構造についてはあまり詳しくないので、今回は定性的な話が中心になります。なお、PWRではSFPが原子炉建屋の中ではなく、隣接する原子炉補助建屋にあります。

2012-01-19 23:10:50
Flying Zebra @f_zebra

まず、SFPが空焚き状態になるのは循環冷却が止まった上に給水が長時間途絶えて蒸発してしまう場合と、ピット自体の損傷によって水が抜けてしまう場合が考えられます。後者の方が急速に水がなくなるため、より危険な状態となります。

2012-01-19 23:12:06
Flying Zebra @f_zebra

冷却水が蒸発で全て失われるという状態は、循環冷却が止まっているのに給水しなければ確実に発生します。ただし、給水は比較的容易なので数日以上給水が途絶えるということはあまり考えられません。ここではこれ以上の考察はしません。

2012-01-19 23:13:59
Flying Zebra @f_zebra

さて、より多くの人が気にしているであろうSFP自体の損傷について考えてみます。BWRではSFPは原子炉建屋内にあり、原子炉容器の上蓋よりやや高い位置にあります。PWRでは、原子炉建屋とは別の補助建屋にあります。

2012-01-19 23:15:04
Flying Zebra @f_zebra

BWR原子炉建屋の上部壁面パネルが比較的脆く作られていることは今回の事故で初めて知りました。もっとも、SFPは頑強な本体構造と一体となっているため、地震などで簡単に破損することはまずありません。

2012-01-19 23:16:09
Flying Zebra @f_zebra

これまで世界中の大震災の現場で、周囲の建物がほとんど崩れている中でほぼ無傷で残っているビルがあったりしますね。原子炉建屋は、普通のビルとはおよそ比べものにならないくらい頑丈な造りになっています。我ながらとても定性的ですが…

2012-01-19 23:17:42
Flying Zebra @f_zebra

加えて、日本では原子炉建屋は全て岩盤に直接基礎を打っています。地震の揺れは堆積層で増幅されるので、岩着していると実際の揺れはかなり小さくなります。僅かしか離れていない敷地内の別棟と比べ、最大加速度で数倍の差が出ることは普通にあります。

2012-01-19 23:18:36
Flying Zebra @f_zebra

ここは感覚でしか言えないのですが、構造力学や地盤工学を修めた技術者の感覚として、地震でSFPを含む原子炉建屋が倒壊するようなことはまずないだろうと考えています。可能性はもちろんゼロではありませんが、その時には周辺一帯で建物は一つ残らず倒壊していると思います。

2012-01-19 23:19:28
Flying Zebra @f_zebra

では、地震以外の要因で原子炉およびSFPが破壊される可能性について考えてみましょう。格納容器のないチェルノブイリでは水蒸気爆発で建屋が吹き飛び、福島第一では水素爆発で建屋上部が吹き飛びました。また、イラクのオシラク原子炉はイスラエルの空爆で破壊されました。

2012-01-19 23:20:32
Flying Zebra @f_zebra

原子炉建屋の破壊にどの程度のエネルギーが必要なのか、また水蒸気爆発や水素爆発がどの程度のエネルギーなのかについては全く知識がありません。オシラク原子炉の空爆では2000ポンド爆弾16発が使われ、14発が命中して完全に破壊されたそうです。

2012-01-19 23:23:30
Flying Zebra @f_zebra

水素爆発や水蒸気爆発は原子炉の暴走で引き起こされます。その際にSFPも損傷して水が抜け、SFPの燃料もメルトダウンを起こすという可能性は十分にあるでしょう。その多寡については私は判断できません。ただ、原子炉に問題がなく、SFPだけが損傷することは考えにくいでしょう。

2012-01-19 23:24:21
Flying Zebra @f_zebra

つまり、SFPが単体で問題となることは考えにくいものの、過酷事故では爆発などによって二次的にSFPの使用済燃料がメルトダウンし、被害規模を拡大することはあり得るでしょう。ここまでは一般論です。福島第一4号機の現況については後ほど改めて考察します。

2012-01-19 23:25:26
Flying Zebra @f_zebra

その前に、使用済燃料が実際にメルトダウンした際の影響について考えてみます。メルトダウンが起こるとすれば、その際にはピットにほとんど冷却水が残っていないと考えられます。原子炉内でも同様ですが、まず融点の低い被覆管が溶け落ち、その後砕けてスラグ状になったペレットが落下します。

2012-01-19 23:26:52
Flying Zebra @f_zebra

熱量が小さいことと、周囲の空気による熱の発散が原子炉内より大きいことから、空焚きになった後もメルトダウンに至る過程は炉心よりもずっとゆっくりしたものになるでしょう。また、未臨界から時間が経っているので短半減期の核種はほとんど残っていません。

2012-01-19 23:28:08
Flying Zebra @f_zebra

被覆管が溶けた時点から燃料が外気と接触します。原子炉からの蒸気の放出がない、あるいは収まった後では、セシウム等が建屋の外、更に上空へ輸送されるモードは気体の拡散と加熱された空気による上昇気流だけとなります。

2012-01-19 23:29:34
Flying Zebra @f_zebra

チェルノブイリ事故のように黒鉛火災が延々と続いている状態ならば、使用済燃料からの生成物や燃料そのものもどんどん上空に巻き上げられ、風に乗って拡散するでしょう。一方、軽水炉ではこのような大量、長時間の上空への輸送はあまり考えられません。

2012-01-19 23:31:13
Flying Zebra @f_zebra

ウランやプルトニウムが飛び散ると考える人もいるようですが、これらは沸点が高いため気化せず、大部分はスラグ状に固まった燃料片に残ります。これは炉心でも同様です。チェルノブイリですらプルトニウムの飛散は限定的でした。

2012-01-19 23:33:58
Flying Zebra @f_zebra

ウランやプルトニウムが大量に遠くまで飛ぶには、燃料の位置で燃料が粉々に飛散する規模の爆発が起き、更に粒径の大きな燃料片を上空まで輸送する現象が必要です。このような現象は核爆発くらいしか考えられず、発電用燃料が核爆発を起こすことは有り得ません。

2012-01-19 23:35:05
Flying Zebra @f_zebra

以上より、使用済燃料のメルトダウンは発電所敷地内や近隣に深刻な汚染を引き起こす危険がありますが、ある程度(数km?)以上離れた地域への影響は限定的と考えられます。理由は、放射性物質の輸送手段が限られるからです。

2012-01-19 23:36:02
Flying Zebra @f_zebra

なお、使用済燃料がメルトダウンし、放射性物質が大量に放出されるという状況は、原子炉自体からそれを凌ぐ規模で放出が続いている場合にほぼ限られると思われます。あまり意味のある議論ではありませんが、比較をすれば原子炉からの放出の方がずっと重大でしょう。

2012-01-19 23:37:10
Flying Zebra @f_zebra

それでは、いよいよ1Fの4号機SFPについての考察です。正直なところ、これまであまり関心がなく、とても心配している人がいるのを不思議に思いつつもちゃんと調べることもしていませんでした。東電や保安院の発表からも、特に大きな危険が潜んでいるようには読み取れませんでした。

2012-01-19 23:39:00
Flying Zebra @f_zebra

4号機の爆発(火災?)の原因が分からなかった当初、使用済燃料からの水素発生を疑う報道がありましたが、すぐにSFPに十分冷却水が入っていて、燃料に大きな損傷も見られないことが確認されました。やっぱりな、とほっとして、その後特に注意してフォローすることはありませんでした。

2012-01-19 23:40:05
Flying Zebra @f_zebra

実は、最初から水素発生(=燃料損傷)がないと確たる自信があったわけではありません。1、3号機の水素爆発も全く予見できなかったので、自分の専門家としての感覚に対する自信が大きく揺らいでいた時期でした。過酷事故を未然に防げなかったのは我々原子力技術者の不徳であり、深く反省しています。

2012-01-19 23:42:06