アウェイクニング・イン・ジ・アビス #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アウェイクニング・イン・ジ・アビス」 #2

2012-01-29 09:26:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「闇……母胎にも似て暖かいこの深淵……まるで……」そのニンジャは遺跡の門の周辺をそぞろ歩き、ぶつぶつと呟いていた。彼の背後には、いつの世に建造されたとも知れぬ巨大遺跡「コフーン」が。そして前方には、隧道の突き当たり、急ごしらえの隔壁貫通エレベーターの不粋な金属が見える。 1

2012-01-29 09:33:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

背後にある巨大な門を四つ経る事で、ようやく遺跡の本殿への入り口が姿を現す。驚異的な古代建造物の中に身をおくこの若いニンジャは、正体のわからぬ感動と不安とに、どうにも落ち着かず、遺跡内にあてがわれた自室から忍び出たのである。「こんなものがアンダーガイオンのなお下に……」 2

2012-01-29 09:39:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

遺跡の門の左右にはザイバツ・シャドーギルドの旗が垂らされ、四人の武装クローンヤクザが彫像めいて立っている。若いニンジャは彼らを一瞥した。そして目をそらした。(それでもここは息が詰まる……陰謀と猜疑……四方を塞ぐ土……我が使命……)「おう、シャドウウィーヴ=サン」 3

2012-01-29 09:44:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴは弾かれたように門を振り返った。「……ソルヴェント=サン」「眠れんのか?確かに気味の悪い場所よな」「ああ、まあな」シャドウウィーヴは生返事をしながら、うろたえを隠した。先ほどの呟きがソルヴェントのニンジャ聴力に捉えられていない事を祈った。4

2012-01-29 09:54:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼にとってポエトリーは、ニンジャとなった今でもなお大切なニューロンの聖域であった。彼は己のウカツを呪った。もしもソルヴェント=サンが己の聖域に土足で踏み込み、無粋な言葉などかけて来たら……。そればかりではない。無意識にパープルタコ=サンの事を口に出してしまっていたとしたら! 5

2012-01-29 10:02:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何か用か?」シャドウウィーヴは問い、サイバネ手術した右肘から先を押さえた。失われた右腕が痛むのだ。ザイバツのテクノロジーは素晴らしく、ニューロン接続された最新の義手は生身の腕とほとんど変わらない。実際彼のカラテやジツにはなんの支障も無いが、幻肢痛は残った。6

2012-01-29 10:10:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴは幻肢痛を憎んだ。ニューロンが昂ぶると顔を出すこの痛みは、かつての弱い自分の残滓が己を嘲笑しているようであったからだ。「調子が悪いのか」とソルヴェント。シャドウウィーヴは首を振った。「何も」「ええと、用はねぇよ。俺も落ち着かねぇんだ」ソルヴェントは言った。 7

2012-01-29 10:16:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「本当に?」「本当に?ってなんだよ!」ソルヴェントは笑った。そして懐から小さな金属シリンダーを取り出し、そこから手の平に爽快ガン(※訳註:銃ではなく、丸薬を指す)を振り出して飲んだ。「お前にも」シリンダーを差し出す。「……ドーモ」シャドウウィーヴは受け取り、爽快ガンを飲んだ。 8

2012-01-29 10:21:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

爽やかな成分が彼の口中に広がり、煩悶を洗い流した。爽快ガンはドラッグでは無いが、驚くほどに効いた。「ありがとう」シャドウウィーヴはシリンダーを返した。ソルヴェントは笑った。「な。いいだろ、こんな物でもよ。……しかし遺跡から離れても結局は洞窟、滅入るよなぁ」 9

2012-01-29 10:28:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ。本当に」シャドウウィーヴはひそかに安堵し、そしてソルヴェントの気遣いを有難く思った。彼もシャドウウィーヴ同様のアプレンティスであったが、この遺跡探索ミッションの後にはアデプトへの昇格を控えている。彼のメンターは現在の遺跡ミッションの指揮官、ジルコニアだ。 10

2012-01-29 10:45:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(本当に滅入る)シャドウウィーヴは心中で繰り返した。ソルヴェントは気持ちのよい男だ、と彼は思った。パープルタコの手を離れ、初めての単独ミッション……たった一人でこの深淵に送り込まれたシャドウウィーヴにとって、彼の善意は意外な助けだった。それが別の不安を呼んだ。 11

2012-01-29 10:52:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(いや、彼はアプレンティスだ。だから大丈夫だ)シャドウウィーヴは己に言い聞かせた。ソルヴェントはジルコニアの企みを知らされていないのでは?いや、きっとそうだ。のちのザイバツの審判でも、きっと彼の事は酌量してくれるはずだ。シャドウウィーヴが気にする事は無い。 12

2012-01-29 11:00:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もっと気を強く持たねばならない。なまなかな覚悟で乗り切れるミッションではない。ジルコニアはマスターニンジャだ。なるべく早く奴の反ザイバツ的な企みの証拠を持ち帰る……状況が急を要するようであれば、彼自身の手で阻止せねばならない。場合によっては、戦闘も……! 13

2012-01-29 11:17:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう一粒くれないか」シャドウウィーヴは言った。「気に入ったか」ソルヴェントはシリンダーを放った。「やるよ」「ドーモ」シャドウウィーヴはうつむいた。右腕が痛い。だが初めての単独ミッション。高揚感もまた、ある。(俺の力を信頼してくれたダークニンジャ=サンに報いたい) 14

2012-01-29 11:22:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「お前には確かに才能がある。シャドウウィーヴ=サン。引き際を心得れば大丈夫だ」)あのどこか恐ろしげなダークニンジャが思いがけず掛けてくれた言葉を、彼は反芻した。その口調にブラックドラゴンのような優しさは無かったが、かえってそれは客観的な指摘めいて、素直に嬉しかった。15

2012-01-29 11:29:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はあの日の事を……月下に敵の生首と妖刀を持って立ったダークニンジャの啓示的な姿を思う。彼はあの時、密かに泣いた。そして芸術への謙虚を知った。いつの日か、彼のポエトリーが豊かに開花し、自在に言葉を紡ぐワザマエを身につけたその時、あの光景をハイクにしたい。彼はそう考えていた。 16

2012-01-29 11:41:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゆえに彼は、ダークニンジャを口さがなく言う者を心底軽蔑していた。余所者、親しめぬ堅物、真意の読めぬ冷血……だから何だ?そんな俗な尺度で彼を汚す連中は、その実、怖れているに過ぎない。ジルコニアもそんな下衆の一人だ。死んだイグゾーションの派閥に属するニンジャなのだから! 17

2012-01-29 11:53:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

故イグゾーション、スローハンド、パーガトリー。上流階級出身者たる三人のグランドマスターは特に親しく、最大の派閥を形成していた。イグゾーションに対し、シャドウウィーヴは個人的な恨みをも抱いていた。あの時、彼を虫かなにかのように見下ろした、あの……。(考えるな、それは) 18

2012-01-29 12:21:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今回ジルコニアのチームに滞りなく加わる事ができたのも、実際シャドウウィーヴが実績の無い無名者である事が大きい。ダークニンジャ当人は勿論、シテンノの二人でも立場的に出来ぬ仕事だ。やるなら自分しか無い。期待に応えねば。(そしてパープルタコ=サンにも俺の成長を、力を……)「おい」 19

2012-01-29 12:24:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ソルヴェントの気遣わしげな目がシャドウウィーヴを見ていた。「本当に大丈夫か?」「ああ、大丈夫だ。本当に大丈夫」彼は素早く頷いた。「爽快ガンも貰ったしな」「何だよそれ」ソルヴェントは苦笑し、「お役に立てて良かったよ。本当にヤバかったらドクターに診てもらえよ?」「ああ」 20

2012-01-29 12:28:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴは声を潜め、ソルヴェントに問うた。「ところで、この遺跡の最奥……本当にあると思うか。神器とやらが」彼はソルヴェントの瞳孔を注視した。「さあな。仕事さ」ソルヴェントは肩を竦めた。「そんなのは偉い人が考えりゃいい」「そうだな」シャドウウィーヴは微笑し、頷いた。 21

2012-01-29 12:39:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ、それェー!」デスドレインが哄笑した。「残念!そう動くのはダメだったなァー?」「グ、グワーッ!?」ナムサン!ザイバツ・ニンジャのブロンズデーモンは壁を蹴ることができなかった。踵にはタールめいた暗黒物質が絡みついているのだ。壁を伝う配管パイプの裂け目から飛び出したのだ! 23

2012-01-29 12:47:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ち、畜生ッ!」そのままバンジージャンプのゴム紐めいてブザマに壁から逆さに吊り下げられ、ブロンズデーモンは喚いた。「こんなクズどもに!」「へへへへ!クズどもだなァー!」デスドレインは満面の笑みを浮かべた。「もう少し殺すのは待ってろよな!そこでな!自害もダメだ」「オゴッ!」 24

2012-01-29 12:52:14