アウェイクニング・イン・ジ・アビス #4
既にジルコニア率いる探索チームは四人のニンジャだけとなっていた。ジルコニアは実にザイバツ・マスターニンジャの規範めいた無慈悲さを発揮し、この遺跡が用意したデストラップの数々に人海戦術で挑んだ。ためらう事なく、クローンヤクザを次々に使い潰して行ったのだ。1
2012-02-02 15:10:26第十の試練門を開いた先、彼らを出迎えたのは、井戸の底めいた円柱状の竪穴の底であった。広さは……実際広い。そして天井は見えぬ。竪穴は遥か頭上へ真っ直ぐ伸び、闇に溶けているのだ。 2
2012-02-02 15:18:48竪穴の底めいた空間の反対側にある門は、今までの試練門とは比較にならぬほどに巨大だ。門の左右には12メートル程はある戦士像が厳かに立ち、片手で棍棒を振り上げ、片手を前に出して、侵入者を警告している。「感じるぞ。近い筈」メイガスは呟いた。彼のニンジャ第六感は四人の中で最も強い。 3
2012-02-02 15:26:16「想定内の戦力消費で辿り着いたな」ジルコニアが冷たく言った。シャドウウィーヴは緊張してジルコニアの酷薄そうな横顔を見た。次にデストラップがあれば、飛び込んでゆくのは自分だろうか?彼はクローンヤクザという存在に慣れることが出来なかった。人間ではないが機械でも無い。命ある者達だ。 4
2012-02-02 15:32:31不平も言わず罠へ飛び込み、人柱めいて道を築いた彼らの事は、深く考えぬようにした。それらを物として扱うジルコニアの事も。シャドウウィーヴ自身、ニンジャになるにあたって怒りのまま非道な大量殺戮を果たした。だがそれは彼自身の心で消化できる殺しだ。クローンヤクザの存在は不気味だ……。 5
2012-02-02 15:43:21「聖なるヌンチャク。そしてコーデックス(写本)」ジルコニアは巨大な門を見上げた。「ショーグン・オーヴァーロードの治世をも超える、来たるべき究極の格差社会。そのカギが目と鼻の先に……」「おそらくはこの門が最終の試練門」メイガスがうっそりと言った。 6
2012-02-02 15:59:57ジルコニアは頷いた。「神器が揃えば、既に並ぶ物なきロードの御力がより一層に磐石のものとなる。我々がそのしるべとなる事ができる。光栄な事だ」シャドウウィーヴは唾を飲んだ。ここまでの道程で、ジルコニアの二心は確認できなかった。証拠となる品はもちろん、言動、アトモスフィアにおいても。7
2012-02-02 16:04:36シャドウウィーヴはソルヴェントを見た。やや不安げに、マスターの次の指示を見守っている。シャドウウィーヴの心に安堵めいたものが広がった。(ジルコニア隊による神器破壊のおそれは、グランドマスター・パラゴン=サンの杞憂だったという事なんだ……きっとそうだ。そうに違いない)8
2012-02-02 16:08:34「マスター・ジルコニア=サン」シャドウウィーヴは言った。「何だ?小僧っ子」ジルコニアは彼を見返した。沈思黙考を破るなと言いたげだ。彼の心はチリチリとささくれた。複雑な思いだ。このまま探索が問題無く終わればソルヴェントと戦う事も無い。だがジルコニアは貴族主義派閥の男……。 9
2012-02-02 16:14:14「三神器とは……そしてコーデックスとは、何なのでしょう」「差し出がましいぞ、小僧」ジルコニアは冷たく言った。「我々がそれを知る必要は無い。全てはロードの御意志のままに」「申し訳ありません!」シャドウウィーヴは素早く頭を下げて謝罪した。「愚鈍に過ぎました!」 10
2012-02-02 16:17:48「ガキは口を閉じておけ」ジルコニアは言い捨て、巨大門に向き直った。シャドウウィーヴは屈辱に震えた。しかしながら、やはりジルコニアには二心無しと結論づけるのが妥当と思えた。彼はダークニンジャから伝えられた今回のミッションの背景に思いを馳せる。 11
2012-02-02 16:24:15パラゴンの疑念は、キョート城に幽閉されている神秘ニンジャ、アラクニッドの占いに基づいている。彼はアラクニッドから、神器に迫る暗黒の危機を伝えられた。それから何がしかのやりとりが懲罰騎士ダークニンジャとの間で為され、今回のミッションが下されたのだ。(占いは占いなんだ) 12
2012-02-02 16:28:01アラクニッドはソウカイヤの首領の死を予言した。これによりギルドは電撃的なネオサイタマ攻略作戦を成功させる事ができた。(とはいえ、占いは占いなんだ)シャドウウィーヴは俯いた。(帰ろう。地上へ。ここは苦しい) 13
2012-02-02 16:31:56「帰るがよい!」割れ鐘めいた怒声が広間に響き渡った。シャドウウィーヴは悲鳴を押し殺した。だが、他の三人も周囲を見渡している。自分が言われたのではない!そして、見よ、壁面を螺旋に沿って石の板が迫り出す!突然生まれた螺旋階段は頭上の闇まで続いている! 14
2012-02-02 16:49:42「お主らの探索は報われた。十分な宝を持ち、凱旋せよ!階段を用いて帰還せよ!」割れ鐘声が告げる。そして広間の中央の床が開き、黄金のダルマが迫り上がってきた。その両目は巨大なダイヤだ!「宝だ!」ソルヴェントが思わず叫んだ。ジルコニアは彼を睨んだ。「未熟者!」「アイエッ!」15
2012-02-02 16:55:46「ケチなダルマ一つで今回の探索に十分と思うか?ケジメものの不覚悟だ、ソルヴェント=サン!」「アイエエッ!申し訳……!」「まあよい。我々の目的はあくまでこの先だ。仮にもこのジルコニアのアプレンティスが、そこの小僧のごときサンシタを退けるための、しみったれた宝に惑わされるな!」16
2012-02-02 17:00:17「はい!絶対に、はい!申し訳ありません!どうか!」ソルヴェントはドゲザした。「どうかお許しを!」シャドウウィーヴの胸がちくりと痛んだ。「……最後の試練はすなわちそのダルマだ」メイガスは素早くウミノのメモを頭から総ざらいし、呟いた。「恐らくこれ以上の罠は無し」「恐らく、か」 17
2012-02-02 17:06:44ジルコニアはシャドウウィーヴを見た。「貴様、やれ」「……?」「貴様が門を開け、シャドウウィーヴ=サン。役に立て」ジルコニアの目は冷酷だった。シャドウウィーヴのニューロンに、八つ裂きで死んだクローンヤクザのビジョンが走った。彼は蒼白になりながら頷いた。「ヨロコンデー!」 18
2012-02-02 17:12:39ドォン……再び太鼓めいた音が響いた。折に触れ、繰り返し聴こえてきた音だ。結局その音の正体はわからぬまま……「なにをボサッとしておるか。やれ」「ハイ!」シャドウウィーヴはソルヴェントを見た。彼は目を逸らした。 19
2012-02-02 17:21:12大門に手をかけ、押す。シャドウウィーヴが力を込めると、意外なほどに容易く、門は両側に開き始めた。「……!」さらに押す。門が開いてゆく……その先にあったのは、円くくり抜かれた床だ。底が見えぬ。そして人一人が通れる程度の幅の石の橋が、中央の小さな足場へ伸びている。そこには……。 20
2012-02-02 17:24:46「あれだ……」背後でジルコニアが呻いた。「間違いなし。聖なるヌンチャク。そしてコーデックスだ!」メイガスが言った。シャドウウィーヴは石の橋の先の足場に立つ黒檀のニンジャ像を見た。像が片手に持つ武器は、同様に黒檀で作られたヌンチャク!そしてもう片方の手には、コーデックス! 21
2012-02-02 17:29:55「行け。何をしている」ジルコニアが命じた。「あそこの秘宝を取って戻れ、シャドウウィーヴ=サン。ガキのお使いよりも簡単な仕事だぞ。やれ」「ヨロコンデー!」シャドウウィーヴは即答した。石橋へ踏み出す。一歩。二歩。(どうってこと無い……どうってこと無い。他の事を考えろ) 22
2012-02-02 17:33:47彼は黒檀のニンジャ像へ一歩一歩歩みを進めながら、とりとめもなく考える。(ダークニンジャ=サンは褒めてくれるだろうか?パープルタコ=サンは?初めての単独ミッション……俺を男と認めてくれるだろうか?……それは無いかな……裏切りは無かった、いわば不発。俺は何もしていない) 23
2012-02-02 17:38:06この遺跡で彼のした事といえば、意地の悪いマスターニンジャに顎で使われ、こうして捨て石の扱い……情けない。彼はそろそろと歩みを進め、ようやく中央の小島めいた足場に到達した。コーデックスを取り、懐へしまう。そしてヌンチャクを掴み取った。彼はもときた道を振り返った。 24
2012-02-02 17:45:47